第4話 無気力系主人公の音楽
言っておくが俺は音楽が好きだ。
この世界もそうだが、俺の元の世界にも音楽というモノがあった。
そういえば昔、元の世界でタイムスリップして音楽の起源を探ったことがある。
辿りに辿ってみたら、宇宙創成の時代に遡ってしまった。
それはちょっとわかりにくかったので、もっとわかり易い時代を探していたところ、どうも先程の宇宙創成の大科学者達を「神」と崇め奉ったところから、それを讃える詩が生まれ音楽に発展した様だ。
その想いを捧げる対象が、神から自然になり、生きとし生けるものになり、恋愛対象の人になったりと、時代を超えて様々な変化を遂げて現在に至る。
きっとこの世界の音楽も似たり寄ったりの進化を遂げてきたのだろうと推測する。
俺も一時期その音楽というモノにハマり込み、ヒット曲を幾つも創り出してきた。経験から言ってヒットするかどうかは、その時代の流れと運が重要だと言えよう。
要するにその人がその時に欲しいリズム、音の流れ、高さ、音質を提供できればいい訳だ。「それが出来たら苦労しないよ。」とある作曲家が言った。何故かと訊いたら―――(以下略)。
大分、前置きが長くなったな。今日の話題は音楽だ。
「おーい、彷徨ぁかなた。音楽室行こうぜ」
声をかけてきたのは、窪田 重信。重く信ずるという名前とは真逆で、軽い感じのチャラ男だ。
最近、俺にも声をかけてくる快い仲間が出来つつある。
きっとそれは隣の席の篠宮 灯のお蔭だろう。
「田中君、疲れて寝てても声かけて大丈夫みたいだよ」と宣伝していたことを知っている。
俺は窪田 重信、通称『シゲ』を見ると、ちょっと気怠い感じで
「あぁ、音楽の授業か・・・」
と答えた。
勿論、心の中はというと、「ついにやって来たぜ!Hey!カモン!俺の才能を開花させる時が来てしまったようだな!くけけ!お前ら、俺の歌に聞き惚れるがいい!と超ハイテンションだ。
だが、それを見せないのが俺が天才たる所以である。
音楽室に入ると、「ベントウベン」「ハッパ」「モウチャルト」とかいう作曲家達の肖像画が銃の的の様に貼られていた。
この世界ではホログラフィシステムは採用されていないらしい。
人間の肖像画を貼り付けるとは、まぁ、控えめにいって野蛮な文化だと思う。なんせ、よく見ると彼らの目の部分に画鋲が刺さっており、油性の太ペンで髭が書かれているところなんて、随分と幼稚な伝統文化と言わざるを得ない。ゆくゆく俺が文明を書き換えるべく動かなくてはならないかも知れないが、無気力系主人公である俺が今挑むのは、そんなことより音楽の授業だ。
席に着くと、いかにも先の音楽家を意識しているだろう髪型の若造が入って来た。
音無 小鶴。音楽の担任が音無しじゃダメだろうとか、全然、小鶴じゃなくて大柄のおっさんじゃないか、とかツッコミどころ満載の男だが、こいつに関してはあまり重要な人物でもない為、情報を仕入れていない。年齢53歳12月生まれで先月初めに出会い系で知り合った女と浮気したことが原因で妻子と別居状態になり、晩酌の酒の量が4割増しになったことくらいしかわかっていない。
まぁいい。そんな落ち込んだお前も、俺の奏でる音楽と歌声により癒されるが良い。
授業が始まった。
ん?記号の読み方だと?確かに、まぁ、元の世界の物とは異なるが・・・。
なに?ハ長調?イ短調?音の違い?まぁ、そんなこと今更言われずとも当然の知識だろう。
ふむふむ。この作曲家ね。この教科書には病で倒れた事になっているが、確か、3日前に革命戦争の様子を見にタイムスリップした時にいた奴だろう?
革命戦争に巻き込まれた彼に流れ弾が・・・当たらなかったんだが、近くに落ちていたコインに弾が当たって弾かれ、その「コイン」が丁度尻に刺さって怪我人として収容されていたところ、その夜にブドウ酒がたまらなく飲みたくなったのだが誤って精力剤を飲み干し、ムラムラした勢いで通行人の女性を襲ったらそいつは実は漢の娘って奴で、逆にヤられて路地に捨てられていたところ、その日に限って急に夜間の冷え込みがキツクなり、ケツ丸出しで凍死していた彼の事だろう?
歴史というのはこうやってすり替えられてしまうものなのだな。諸行無常。物事に色々とこだわるだけ無駄が多いわけだ。
で?いつ歌うんだ?俺の喉が熱く震えるのを待っているぞ!
え?音符の書き取り?好きに歌を作ってみろ?
・・・いいだろう。
さぁ、俺の作曲技術に惚れるなよ!
・・・・・・書き続ける事30分。周囲の生徒もいい加減飽きた様子だ。
「はい、それでは~」
音無先生の仕切りが入る。よし来た!いよいよ実演だ!
さて、どうやって手を上げずに俺の番に回すかだが、34通りの策がある。まずは・・・
「今日の授業はここまで。まぁ、作曲っていうのはこういう苦労があっての事だということがわかって貰えればいい」
・・・いや、よくないだろう!
「起立 礼 ありがとうございました!」
クラス委員が号令をかける。
いや、有難うございました。じゃないだろう!
かったるそうに見せながらも、ペンを動かす手を超高速で逆にゆっくり見せる技術を披露しに来たんじゃねぇんだぞ!?
おい!マジで終わったのか?
おーい!
「ん?彷徨、どうかしたか?相変わらず眠たげだなあ。まぁ、わかるぜ、かったりぃよなぁ音無の授業。今日も何も無かったしな」
シゲがへらへらと近寄ってくる。
呆然と立ち尽くす俺の表情は、あくまでも何の興味も無さげな無表情。他から見れば「あー、終わった終わったー」的な感じに見えるのだろう。
シゲの言う通り音楽の時間は「何も無く」終わった。
そして、今日も今日とて「何も無く」終わっていくのだった。
終わって・・・いくのだった。




