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第3話 無気力系主人公の家庭科

唐突で申し訳ないんだが、そろそろ何か特殊イベントが発生しても良いんじゃないかと思うんだ。


転校してきてもうすぐ1カ月が経とうというのに、俺がラノベで得た知識とは全く異なる結果が出ている。


「無気力男子はカッコイイと認識されない。」


何故か?


何故ならば「無気力系は無気力故に動かない。動かない故に誰も頼らない。頼らない故に何も起きない。何も起きない故に能ある鷹は爪をチラ見せする機会さえ与えられない!」のだ!


別に良い!別に良いったら良い!

そろそろ寂しくなって来たんじゃないか?だとっ!?ふざけるな!俺を誰だと思っている!?そうだ、俺こそが、田中 彷徨(たなか かなた)だ!・・・。ちょ、知らんがなって顔してこっち見んなよ!


俺こそが孤高!無気力系主人公はひたすらに爪を砥ぎ、それを活かすその時を、ただただ待ち続けるのだ!


「しっかし、それにしたって、砥ぎ過ぎて爪が無くなりそうだぜ・・・」


「え?」


しまった。不用意に言葉を出してしまった!

隣の席の篠宮さんが不思議そうな顔をして俺の方を見ている。


「田中君、爪、どうかしたの?」


今日初めて人が話しかけてくれたあああああああ!嬉しいいいいいいい!

・・・なんて思ってなどいない!俗物がっ!


「いや、今日は授業何だったかなぁと思ってね・・・」


平坦なイントネーション。何の興味も無さげな口の開き方。無気力系男子、完璧だ。我ながら、パーフェクト!


自分で言っといてなんだが、今日は家庭科の調理実習だってばよオイ!

昨日自宅で一睡もせずに予習して来たってばよオイ!

イタリアンっていうのとか、ワショクとかっていうのを極め尽くしてやったんだぜってばよオイ!

楽しみすぎて睡眠不足もたたってテンションアゲアゲだぜってばよオイ!


「田中君が授業の事気にするって珍しいね?じゃあ、家庭科室に移動だから一緒に行こうよ」


まじかーーーー!一緒に行っていいんですかぁ!!!?何なんだ今日は!?やっぱ無気力系主人公の実力の一端が本日遂に開花してしまうのですかーーー!?さいこー!

ある哲学者が「神は死んだ」と語ったが、俺はそいつにこう伝えよう「神は復活した!」と。


「へぇ、田中君ってそんな風に笑うんだね?初めて見たなぁ」


「え?俺が?笑ってた?」


ば、バカな!?ここより3つ前の世界で最終戦争が起こった時、核ミサイルの発射ボタンを押されたことがあったのだが、それが俺の予想よりも1秒遅かった時以来の衝撃だ。あの時は1秒発射が遅かったために僅差で勝利を収めるつもりがうっかり圧勝してしまったのだ。ふっ認めたくなかったものだな。若さゆえの過ちというものは・・・。


「ていうか、田中君いっつも爆睡してるから、みんな随分気を使って話しかけないようにしてたんだよ?不自然な時期に転校してきたし、家庭の事情で疲れてるんだろうなって・・・」


な、なんだこいつら?そんなに大人な考え方をしやがるのか?


「まっ、今日は田中君とお話しできたし、一歩前進だね!?」


くっ!四宮さん、なんて眩しい笑顔を!


それは、あくまで主観だが、自分で初めて核融合装置を作り上げた時に見たエネルギーの発光体よりも清浄で透明な癒しの光のように思えた。



・・・ていうか、家庭科だったな。はよ行こう。


「はい、みんな、準備はできたかしら?」


優しそうな女性の先生の声が、家庭科室内に響く。


この30代の小娘、確か元家 香奈(もといえ かな)という名前だった筈だ。一応全職員、先生・生徒の名前と住所と生年月日と趣味と特技と人間関係と好みの色と苦手な食べ物位は把握している。使う機会が無いだけだ。

能ある鷹は爪を隠す。当然だ。


「じゃあ、みんな席に着いたみたいなので始めますね」


「はーい!いっただっきまーす!」


おおおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいいいいい!!!!

おいおいおいおいおいおいおいおい!


なんでいただきますなんだよ!?俺、何の見せ場もねえじゃねえか!?本当言うと1日徹夜じゃねえから!3日徹夜だから!調理、滅茶苦茶楽しみにしてて本当、頑張ったんだから!


俺、今日、家庭科室来て、見せ場を作るに作れなくて・・・。みんなが調理してんの眺めてて・・・、渡されたミニトマトを皿に添えただけ・・・皿に添えた・・・だけだから・・・。


何なのこの扱い!?


「このミニトマトうめえ!」


それ、市販品だから!誰だ?絶対市販品ってわかってて捻くれた感想を言いやがった奴は?ブラックホールに落として存在を潰してやろうか!?



こうして、今日も、俺の研ぎに研いだ爪はチラ見せすらすることなく、日が暮れ、終わっていくのだった。

今日という日が何日続こうが、何も変わらないのかも知れない。最悪の場合、転校初日に時間を巻き戻して違う路線で異世界ライフを楽しもう・・・。


「あ、田中君、また明日ね。ばいばい」


教室のいつもの机で寝たふりをする俺の耳元で、篠宮がそう小声で呟いて帰っていった。

・・・・・・・・・・・・・・なかなか捨てたもんじゃねえじゃねえか。なあ、今日。


明日も無気力ライフ、頑張るかっ!・・・ていうか、無気力ライフって頑張るもんなのか?

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