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祝賀会である。
王城の一番大きな舞踏会用の部屋と言うことでとてつもなく広くとんでもなく豪華である。壁際には至る所に料理が並び、その横には酒の樽が置かれていて、今なお追加され続けている。
基本的にその場にいるのは貴族らしいが、こんなに貴族がいるのか、というくらい大勢いた。多分千人は超えている。
その祝賀会会場は笑顔だらけだった。
笑顔は全て勇者達に向けられている。
すごいなぁ、と俺も感心する。
また突然万歳の掛け声。誰かが叫ぶといっせいに周りの人間も唱和する。
幸せの押し売りだが、みんな喜んで買い取っている。
いやぁほんとうに良かった。
しみじみそう思う。
気がつくと俺も一緒に万歳と叫んでいた。
しかも感動の涙まで流して。
万歳と叫びながら、ほんとうに良かったなぁ、と改めて思った。
少し落ち着いてみれば広い会場で人の塊は大きく三つに分散されていて、その中心にいるのは、固まりが大きい順に勇者パーティの勇者であるグランフェディック、戦士であるミルトンダフ、僧侶であるユーインという面々だ。ちなみに勇者パーティの残った一人大賢者シングルトンは人嫌いと言うことで祝賀会会場には来ていない。
これほど盛り上がっているが、実は祝賀会は正式には始まっていないのである。何しろこの国の一番えらい人である国王と、今回の全ての立役者であるエレナ王女がまだ会場に現れてないのだ。言わば、我慢できなかった誰かによる万歳の暴発であるが、皆その暴発を契機にはじめてしまったのだ。仕方がない。それぐらい喜んでいるのである。まぁ、俺も気持ちはわかる。アルコールも入っていてお祝いの会で、お祝いを我慢することなんて出来ない! という分かりやすい気持ちだからだ。
俺は人混みとは離れたところでぽつねんと立ち、良かった良かったとつぶやきながら右手に持った木製のコップを傾ける。果実酒だが、実に美味い。こんなのもともと住んでいた村にはなかった。牛の乳を発酵させて作った薄くて酸っぱい酒もどきとは比べものにならない。
これ、村のみんなにも飲ませてやりたいなぁ。
そんなことを考えながら周りを見ると、俺と同じように人混みに加わらない者もパラパラと存在していることに気づく。彼らも笑顔を浮かべているがどうも作り笑顔で喜んでいるようには見えなかった。俺は首をかしげて、結界魔術で『ステイタス』を確認して、ああ、と納得した。
作り笑顔を作っていたのは一度エレナ王女が言っていた「今回の勇者パーティ派遣に反対していた面々」と「魔族と血縁がある一族」だったからだ。なるほど、祝いにくいに違いない。
大変だなぁ。
勇者パーティ派遣に反対していた面々も理由があり、魔族と血縁がある一族は勇者の育成に協力していたはずなのに、魔王との不可侵条約締結を素直に喜べない状況というのはやはり人間社会の複雑さと言うべきか。
七人の村で生きてきた俺にはとても対応できそうもない。やはり一段落したら生まれ育った村に戻ろう。
ふと、人混みのひとかたまりが人混みごと動き始めたことに気づいた。
こっちに来るから、邪魔かな、と思ってどこうとしたら、
「ヤジットさん、待ってください」
人混みからかき分けるように出てきたのはこの祝賀会の主役の一人勇者グランフェディックだった。
グランフェディックは貴族の出身で、ダフタウン伯爵の次男だったはずである。金髪のさわやかな好青年で、文武ともに優れ、およそ欠点らしい欠点が見つからない。彼の『ステイタス』に『勇者』の称号を見つけたとき、正直納得してしまった。
はっきり言って見ているだけで地獄だった訓練の最中も泣き言一つ言わず、誰よりも努力していた。
俺も同行した魔族の領域への侵入時には、その間もグランフェディックは常に周りに気を配り誰よりも前で戦った。生まれついてのリーダーというのはこういう人間のことを言うのだろう。
俺を呼び止めたグランフェディックはそのまま近寄ってきて俺の手を取り、深々と頭を下げた。
「何もかもヤジットさんのおかげです!」
周りがざわつきはじめる。
英雄が俺みたいな馬の骨に頭を下げている理由がわからないのだろう。何しろ俺だってわからないから当然だと思う。俺は魔王の『ステイタス』変更に失敗した。抵抗が大きく俺には不可能だったのだ。だから結果として、結界魔術で道中の安全を確保して、魔王の攻撃から勇者達を守っただけの存在だった。
だが、グランフェディックは気にした様子もなく、
「我々が安全な場所で休めるようにしてくれたのも、美味しい食事を食べられるようにしてくれたのも、何より魔王の容赦ない攻撃から我々を守ってくれたのも全部ヤジットさんでした……感謝の言葉もありません、本当にありがとうございました……」
続きます……!