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マンドラゴラは夢を見る◆鉢植え落としてポーション革命!◆  作者: ナユタ


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5-8   要は実験あるのみ、だな?

今回はのんびり回です(´ω`*)


 昨夜オットー達が宿屋に現れなかった理由は、翌日明らかになった。


「へぇ……盗賊が街道に」 


「何だ、君は俺の言うことを信じてないのか?」


 早朝この宿屋に着いたばかりのオットーが彼にしては珍しく、急な討伐に駆り出された疲れで若干気が立っているのか、僕に睨め付けるような視線を向けてくる。ハンナはここに着くなり汗やそれ以外のモノを洗い流して寝床に直行してしまった。パウラもまだ寒さのせいでベッドの中だ。


 従ってまだ朝も早い宿屋の食堂に座っているのは、僕とオットーの他に誰もいない。正確には宿泊客の朝食の準備をしてくれている宿の従業員が、奥から心配そうにこちらを気にしてくれていた。


 だというのに――いや、だからこそか? 二人だけで挟んで座るテーブルに不穏な空気で張りつめている。しかしこちらも昨夜パウラを先に寝かせてからずっと、オットー達の到着を起きて待っていたので頭がまだぼんやりしているのだ。


 最近まであまり人と付き合いがなかったせいで、どうも人に誤解を与える反応を取ってしまう癖は未だ健在だったらしい。このところ人付き合いが上手くなったと自分では感じていたのだが、やはり一朝一夕での改善は無理だったか。


 パウラが傍にいてくれればこんなことにもならないんだが、出来れば早く手放したい癖だがまだ道のりは遠そうだ。


「そうじゃない。ただ盗賊が出るなんて、街の工房にいた時分は耳にする機会もなかったから……本当に“外の世界”に来たんだなぁと改めて実感したんだ。反応が紛らわしかったようで済まない」


 素直な感想を口にしたら、何故かオットーはぽかんと口を開けたまま一瞬固まってしまう。その反応を見てまた何かおかしなことを口走ってしまったのかと焦ったが、その割にはどうも様子が――?


「ブッ、アッハハハ!! ああー、そうか、そうだよなぁ! なるほど、笑ったりしてスマン。しかし、ククッ、君は、相変わらず面白い奴だ」


「そうだろうか? 自分では面白味の欠片もないと自負しているが」


「いやいや、今の発言なんて俺の仲間に聞かせてやりたいくらいだったぞ? 何というのか、初めて冒険者登録をした日を思い出した。だからこそ依頼主である君との約束の時間を違えては、俺も冒険者失格だな」


 爆笑から一転そう苦笑するオットーは疲労の色が滲んで、本当ならこんなところで僕と会話をしていないで眠りたいはずだ。


「そんなことはないさ。僕達は急いでいると言っても、人の生死に関わることじゃない。街道の安全を確保する方が冒険者の仕事だ。オットーも疲れているだろう? 僕達のことは気にせず今は休んでくれ」


 相手をムッとさせないように言葉を選んで口にすると、大の男だというのに辿々しい口調になる。自分で自分の言葉遣いに辟易していると、それを察知したらしいオットーがまた笑った。


「そうか、では……済まんが出立は昼頃にしてもらえると助かる」


「あぁ、分かった。ではまた昼頃にな」


 会話を終わらせて椅子から立ち上がったオットーが、欠伸をかみ殺しながら部屋に向かう背中を見送る。あれでは昼まで眠ったところでそうそう疲れは取れないだろう。その全身から漂う倦怠感をせめて何とかしようと思った僕は、朝食の準備をしてくれている宿の従業員に声をかけた。


 僕よりやや年下位の青年は言葉にこそしなかったものの、その目は明らかにこちらを警戒している。“自分のテリトリーで何をするつもりだ”という困惑が見て取れた。


 しかしここ二日で手に入れた“調味料ポーション”を少しと、持ってきていた極小回復ポーションの残りで医食同源の効果を試してみたい。せっかく冒険者のオットー達という適任者がいるのだし。


 従業員は最初は不承不承ではあったものの、僕が【アイラト】所属のポーション職人であることと、以前助けた村の話をやんわり持ち出したら快く調理場に通してくれた。ハンナは完璧にとばっちりだが、雇い主を笑ったパーティーメンバーの失態は連帯責任だろう。


 まず部屋に戻って調合道具とこの二日で買い溜めた材料類を取りに戻ったら、気配に気付いたパウラが起き出して来てしまった。さっき食堂の時計を見てきたが、確かまだ五時をちょっと過ぎた程度だったと思う。


 さすがにもう少し眠っていても良いと言ったのに、パウラは頑として「起きます」の一点張りだったので、仕方なく一緒に食堂に戻ることにする。食堂では先程の従業員が朝食のスープやパンの準備を始めながら待ってくれていた。


 そこで僕達はあまり邪魔にならないように一番狭い作業台を借りる。早速ポーションと調合に使えそうな乾燥させた薬草と香油を並べてみたところ、横から従業員のチェックが入った。さすがに鉱石を持ち出したら止められそうなので、見た目が食べ物らしい物を選んでおいて正解だったな……。


 従業員の了承を得たところでその監修のもと、オットー達の昼食の準備に取りかかることにした。あくまで僕達が手を付けるのはオットー達の食事だけなので、そんなに従業員の手を煩わせる量でもない。精々パンのタネを少々とスープを少し分けて貰うだけだ。後はそのタネに練り込む生薬の調合と、スープに足すポーションの組合せを選ぶ。


 ポーションの効能を損なわずに使う上での鉄則は、あまり多くの種類を混ぜすぎないこと。それと火に長時間かけ過ぎないことだが、この街のポーションはある程度は大丈夫どころか物によっては煮詰めて使えるらしい。従業員にそのポーションを扱っている工房を教えてもらったら作業開始だ。


 まずキラー・ラビットの串焼きの際に余った柑橘系の極小回復ポーションを沸騰しない程度に温めて、その中に帰りの保存食として購入しておいたドライフルーツを角切りにして沈めておく。これをこのまましばらく放置。


「えーと……パウラ、この【ペルダ】と【アシュビル】の中から君が特に香りの良いと思う物をより分けてくれ」


 僕は貰ったパンのタネを二等分しながら指示を出す。パウラはすぐに僕の指示通り、特別香りの強いペルダとアシュビルを小山にして寄越してくれた。


 ペルダは元々の形はかなり鋭い鋸歯を持つ大振りな照り葉だが、乾燥させることで鋸歯の部分が落ちるのでそのまま乳鉢ですり潰す。


 効能としては肝機能の向上と粘膜の再生。香りは乾燥させる前はほとんどしないが、乾燥させることによってチーズのような香りがするようになる。この香りが強ければ強いほど効能と値段も上がるのだ。


 これをパンのタネの一方に練り混ぜてポーション瓶から【ティラ】の実を搾って採取した香油を一垂らし加える。効能は滋養強壮。漠然とした説明だがそうとしか言えないオールマイティーだ。無味無臭なのでどんな料理の邪魔にもならない。


 ペルダを混ぜ込んだタネをパウラに回して、掌サイズの丸型に成形していってもらう。香油でねとつくタネに苦戦しながら丸めるパウラが微笑ましい。


 次にアシュビルの葉だが、これは渦を巻いたような先端を持つ細長い植物で、乾燥させるとかなり見た目が悪くなる。しかし生薬としてはかなり高い効能があるので人気だ。こちらも滋養強壮に効果がある。


 表面に細かい産毛が生えているので、そのまま用いると舌の上に残って不快感を感じてしまう。だから面倒でも粉々に握り潰さないように注意しながら指でしごき落とす。これはこの後乳鉢ですり潰さずに大まかに砕く。香りはオレガノに近くて、肉料理などに用いられる。熱に長く晒すと効能が抜けるので最後の一煮立ちをさせる時に加えよう。


 しかしここで困ったことに、分けて貰ったスープは朝食用のごくあっさりしたコンソメベースだ。昼食にするならもう少し濃い方が好ましい旨を従業員に伝えると、ベーコンブロックを分けてくれた。


 従業員に礼を述べて後は適当に残った野菜クズを貰って一緒に煮込む。このままとろ火で一時間ほど放っておく。


「……マスターはお料理上手ですね」


 パンを丸め終わったパウラが隣から僕の手元を覗き込んでそう言う。褒めてくれるのは嬉しいのだが、その隣にいる宿の従業員の視線がさっきから怖いので、あまり迂闊に褒めないで欲しい。


 頼むから彼にはこちらの動向でなく、自分の手許の朝食に集中してもらいたいのだけれど。心配しなくても食中りを起こしそうなものは出来ない……はずだ。


「ん? 特にそうでもないと思うけど……。ここにある物は宿の好意で分けて貰っているし、僕がやっていることなんてただの後付けだ。それにこの感覚は料理と言うよりポーションの調合と似ているよ」


 言いながらもう半分のパンのタネに、ポーションに沈めておいたドライフルーツを練り込む。ポーションは捨てずにそのまま待機。このパンは甘くなる予定なので、今回の実験に巻き込まれるハンナへのせめてものお詫びだ。


 これで全ての工程が済んだので、後は従業員の彼にこのパンを朝食用のパン達と一緒にオーブンで焼いて貰えば出来上がり。


「さてそれじゃあ僕達は味見程度にそれを摘まんで、後は確実に安全で美味しい宿の朝食をもらうことにしようか」


 大きく延びをしたら背中がおかしな音を立てた。これなら早速にでも効果を確かめられそうだと思いながら、声にならない痛みを堪える。食堂のテーブルに突っ伏したままパンが焼き上がるまでの二十分を痛みに苛まれるが、これも実験の検証に繋がるならば本望だ――。


 そのあいだ隣で心配したパウラが「大丈夫ですか、マスター?」と何度も訊ねながら背中をさすってくれる。寒さで疲れているだろうに、打たれ弱いマスターですまないパウラ。


 食堂に柔らかなパンの香りが立ちこめ始めた。時計を見ればもうすでに七時だ。


 厨房の奥から従業員の彼が顔を出して出来上がりを告げてくれるので、背中を庇いながらそちらに向かう。情けないな……。


 パンは初めての作品にしては彼が仕込んでくれたタネが良かったのか、どちらもふっくらと美味しそうに焼けている。ドライフルーツの入ったパンが冷める前に表面に刷毛で取っておいたポーションをはたくと、パンの熱でポーションの爽やかな柑橘系の香りが食堂内に広がった。後はスープも仕上げのアシュビルを加えて完成だ。


「うん、見た目的にはなかなか良い出来だと思うけど……取りあえず二人に出す前にちょっと実食してみようか」


 そうパウラに告げて自分達の分を取り分けていたら、従業員の彼が「あの、オレにもちょっと分けて貰えませんか?」と怖ず怖ず申し込んで来た。被験者は多いに越したことはないし、彼には散々無理を言ったので断る理由もない。


「勿論だ。それに折角だから本職の意見も聞きたい」


「マスターが手ずから作ったのですから不味いはずはありませんよ。理解しているとは思いますが、ね?」


 木の椀にスープとパンの一個を半分ずつ取り分けて渡す隣で、パウラがぼそりと呟いた言葉に従業員の彼が一瞬怯える。それを肘でつついて諫めたら、いよいよ実食だ。


 ――で、まぁ……実食後。


 疲労回復ポーションを駆使して作った料理に痛く感激した彼に乞われ、何故か再び大量に仕込むことになり、結局その日の出発が翌日にずれ込んだばかりか、背中の痛みと回復を繰り返す地獄のループに苛まれ……。


 オットー達を使って実験するどころか、肉体を酷使した我が身で嫌というほど効果を味わうこととなった。ただ思い付きで考えたレシピはそのまま宿屋が買い取ってくれたお陰で良い収入になったし、宿泊費用も無料になったのは不幸中の幸いか。


「今回の一件は差し詰め怪我の巧妙か、そうでなければ無料より高い物はない、だろうな」


 自嘲気味に帰りの馬車の中でそうごちた僕にオットー達の爆笑が向けられたものの、もう腹を立てる気力もなかった。


 それどころかこれにはさらに後日談があって――。


 あの宿屋からだけでなく、フェデル中の“調味料ポーション”工房からうちの工房宛てに大量の極小回復ポーション(柑橘系)の注文が山ほど入った。ある意味フェデルでの宣伝効果があったのだと自分を納得させつつ、今後二度と旅先の宿屋で調理場に入ることはないだろうと感じるエピソードが出来てしまったのだ。

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