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デュークと女子大生Ⅱ  作者: 若松ユウ
Ⅰ フィアとグレイ編
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I お医者さんごっこ【グレイ】

I お医者さんごっこ【グレイ】


「確認だけど、売り物に手を出した訳では無いよな」

「アレを、こんな子供の手の届くところに置いてるはずないじゃない」

――さすがに、我が子を薬物中毒者(ジャンキー)にするような下衆の極みでは無かったか。あくまで生活のために、背に腹を代えられず、黒い商売に手を染めてるだけなのか。

 グレイと女が小声でやり取りしていると、ベッドで寝ている少年が目を覚まし、片手で目を擦りながらフラフラと上体を起こし、ボンヤリした鼻声で言う。

「あぁ、おかえり、お母さん。その人は、誰」

 少年がグレイを指差して言うと、女は少年の肩をそっと押しながら寝かせ、擦り切れた薄い布団を肩にかけながら言う。

「この人は、お医者さんよ。セプトのことを看に来たの」

「本当なの。白い服を着てないよ」

 セプトは、グレイのことを不審な目つきで見ながら言う。グレイは、努めて優しい口調で言う。

「今日は診察をお休みする予定だったけど、セプトくんのお母さんに、どうしてもと言われてね。着替える間もなく、急いで来たんだ」

「あぁ、そうなんだ。ふぅん」

「先生。それでは、セプトの診察を」

「わかりました。それじゃあ、セプトくん。今から先生が君の身体の具合を確かめていくから、目を閉じて、肩の力を抜いて、楽にしててね」

「はぁい」

 セプトは、どこか不満げな声で返事をすると、静かに目を閉じた。グレイは、セプトの額に手を当てて熱を測ったり、首に指を当てて脈を診たり、布団を捲ってシャツの前をはだけさせ、胸に耳を当てて心音を聞いたりする。ひと通りの診察が終わると、グレイはセプトのシャツのボタンを留め、布団を肩まで掛ける。その様子を見ていた女は、待ちきれないとばかりにグレイに質問する。

「どうですか、先生」

 グレイは、思案顔でセプトのほうを見ながら答える。

「だいぶ熱があるようですね。咳が出たり、喉の痛みを訴えたりしませんでしたか」

「えぇ、時々」

「そうですか。鼻と喉の粘膜の様子を看ておきたいので、灯りを取って来ていただけますか」

「はい。すぐ、お持ちします」

 女は、パタパタと部屋を出て行く。すると、セプトが目を開いてグレイに言う。

「下手な芝居をしたって、僕の目は誤魔化せないよ。本当は、お医者さんじゃないんだろう」

 グレイは、悪戯が見付かったときのようなバツの悪い表情をして、おどけた調子で言う。

「見破られてたかい。その通り。医者としては藪だ。でも、俺には薬草学の知識がある」

「薬なら飲まないぞ」

「飲まなきゃ、治りが遅くなる。君だって、いつまでもガラガラ声で床に臥せっているのは嫌だろう」

 グレイが同情まじりに言うと、セプトは口を尖らせて言い返し、グレイに背を向ける。

「嫌だけど、苦いものを飲むよりマシだ」

――やれやれ。こいつは、一筋縄では行かないな。早く宿に戻らないといけないのに。

セプト:九歳。母子家庭の息子。淡褐色(ヘーゼル)の瞳。金髪。


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