表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デュークと女子大生Ⅱ  作者: 若松ユウ
Ⅱ ニッシとキサラギ編
25/26

Y お別れとお見送り

※この話のみ、サーラの視点です。


Y お別れとお見送り


――別荘に戻って来た。そしてヤヨイが旅に出たがっていることを話した。それから、汽車の切符と旅券(パスポート)を用意するところまでトントン拍子に話がまとまった。ところが、両親が席を外した途端、シエルが、いつにないくらいの駄々をこねて始めた。普段なら、諄々と説いて聞かせれば、すぐに大人しく言うことを聞くのに。どうしたものだろうか。

「いつまで、そうしてるつもりだ、シエル。ヤヨイが困ってるだろう。こっちへ来なさい」

 サーラが膝を軽く曲げ、太腿を両手で軽く叩いて呼び寄せようとするが、シエルはヤヨイの脚にしがみついたまま、離れようとしない。そしてシエルは、両目いっぱいに涙を湛えながらに訴える。

「嫌だ、嫌だよ、ヤヨイ。旅は、キサラギが一人で行けば良いんだ。ヤヨイは、ここに残ってよ。ねぇ、お願い」

 ヤヨイは困ったように眉をハの字に曲げながら、シエルのサラサラな白い髪を撫でて言う。

「ごめんね、シエル。私も、シエルとお別れするのは、とっても寂しいの」

「じゃあ」

 シエルが、パッと表情を輝かせてヤヨイのほうを見て言いかけると、ヤヨイは、その小さな唇を人差し指で軽く押さえ、話を続ける。

「でもね、シエル。どうしても、はっきりさせておきたいことがあるの。だから、それが終わるまでは、良い子で待ってて欲しいわ。必ず、シエルに会いに戻ってくるから。ねっ」

――せっかく、心を許せる人間が出来たのに、一時的とはいえ、離れ離れにならなければならないというのは、幼いシエルにとっては、つらいことなのだな。そのことを、考慮のうちに入れるべきだったか。

 サーラは、真剣な表情で指を顎に当てて沈思し、頭の中で静かに反省点を洗い出し始めた。それを知ってか知らずか、シエルは一瞬チラッとサーラに視線を送ったあと、両手で乱暴に目を擦って涙を拭い、片手の細くて小さな白い小指を立て、ヤヨイに突き出して言う。

「約束して。絶対、ゴブジで帰ってくるって」

 ヤヨイは、そんなシエルの健気な姿に心を打たれ、言い間違いに忍び笑いをもらす。そして、優しく微笑みながら片手の小指を絡ませ、それを上下に軽く振りながら、節をつけて歌う。

「指切り拳万、嘘吐いたら、針千本、のーます」

「指切ったっ。本当だよ。破ったら、本当にハリセンボンだからね」

「わかったわ。シエルも、良い子で待ってなきゃ針千本よ。約束よ」

 念を押すようにヤヨイが言うと、シエルは胸を張って答える。

「任せて。良い子にして待ってるから」

――よし。また拗ね出さないうちに、出発してしまおう。

「それじゃあ、ヤヨイ。駅に行こうか。そろそろ、馬車の支度が出来たはずだ」

 サーラはドアのほうへ身体を向け、廊下へ歩き出しながらヤヨイに向かって言うと、ヤヨイもサーラのあとに続きながら、シエルに挨拶をする。

「えぇ。――また会いましょうね、シエル」

「またね、ヤヨイ」

 シエルは、腕が千切れそうな勢いでブンブンと手を振って見送る。

  * 

「はじめて名前を聞いたときから、ずっと気になっていたことなんだが」

 馬車に揺られながら、サーラがそこまで言って淀むと、ヤヨイは続きを促すように言う。

「この際だから、何でも訊いて」

「ヤヨイというのは、どういう意味なんだ」

「何だ、そんなことか。そう言えば、説明してなかったわね」

「話すと長くなるか」

「ううん。ヤヨイもキサラギも、それからシワスも。みんな、私の元居た世界で、(マンス)の名前を表す言葉なの。ヤヨイは三月、キサラギが二月で、シワスは十二月よ」

「なるほど。(ルナ)の異名に導かれし旅か。浪漫的(ロマンチック)だな」

「そうかな。あっ、そうだ。これは、サーラに渡しておくわ」

 そう言うとヤヨイは、脇に置いたポーチから折り畳んだ紙を取り出し、サーラに差し出す。サーラは、それを受け取りながらヤヨイに訊く。

「これは、何だ」

「フルーツパイのレシピ。作る上での材料や手順と、林檎や苺が無くても、梨とか葡萄とか、他に代わりになる果物を幾つか、簡単なイラストと一緒にメモしておいたから。もし、シエルが寂しがったら、そのときに作ってあげて」

「ありがとう。助かる」

「どういたしまして」

――あぁ、どうしてだろう。今頃になって、ヤヨイと離れがたくなってきた。さり気ない心遣いに、泣きそうだ。涙脆い人間じゃないはずなのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ