W すべて包み隠さず
W すべて包み隠さず
――ヘロドトスは言った。平和なときは父が子によって埋葬され、戦争のときは子が父によって埋葬される、と。
「この前の戦争で武功を上げた親父が、二十歳のときに騎士団長に抜擢されて、戦後に男爵に叙勲されたんだ。俺は、その背中を追いかけて、何とか副長にまで登り詰めたって訳」
洗い場で前屈みになりながら、ニッシは髪を洗いながら言った。
――こうしてニッシの裸を間近で観察してみると、腕や脚に結構深い傷を負っているのが、よくわかる。中でも、背中に付けられた一筋の傷が痛々しい。
「この傷も、その過程で受けたものなのか」
キサラギが背中の傷を指でなぞりながら訊くと、ニッシは桶で頭からお湯をかぶって泡を濯ぐと、前髪を払い除けたり、耳に入った水を出したりしながら、どこか暗い表情で言う。
「あぁ、その傷は、緒戦で敵から逃げたときについた烙印だ。身体の前にある傷は、果敢に戦った勲章だけど、後ろにある傷は、怖気づいて尻尾を巻いた証左なんだ。忘れられない、不名誉な怪我だな」
そう言うと、ニッシはシニカルに笑ってみせる。
――オッと、いけない。タブーに触れてしまったようだ。話題をずらそう。
「この前、この前って言ってるけど。戦争があったのは、何年前の話なんだ」
そうキサラギが何気なく質問すると、ニッシは湯船に浸かりながら答える。
「どこからを戦争の始まりとするかは、諸説あるけど、停戦協定が結ばれたのは、今から十五年ほど前だ。大戦の相手国は、ここから海を隔てた向こうにあるノスマ共和国で、歴史の教科書では、その頭文字を取って公共大戦と記載されている」
「十五年前か。それじゃあ、ニッシは戦時中に生まれたってことか」
キサラギが湯船から上がりながら更に質問を重ねると、ニッシはニヒルに構えながら言う。
「あぁ、そうだ。でも、無理して俺を産んだせいか、お袋は戦争が終わって間もなくに息を引き取った。戦死した訳じゃないけど、間接的な被害者と言える。喧嘩と同じで、争いは何も生まない。ただ、失うのみだ。人間は言葉を操る能力があるのに、話し合いで解決できないんだから、愚かな生き物だよな」
――団長はくすんだ赤毛だけど、その鮮やかな赤毛は母親譲りか、なんて訊けないな。
キサラギが、無言のまま石鹸に手を伸ばそうとした矢先、ニッシは素早く桶を手に取り、浴槽のお湯をキサラギに引っ掛け、ケラケラと悪戯っぽく笑いながら言う。
「そんな辛気臭い顔をするな。よくある話だし、過ぎたことなんだからさ。正直、物心つくかどうかの頃だったから、お袋のことは、よく覚えてないんだ。だから、同情するなよ」
「わかったよ。この話は、これでおしまいにするさ」
そうキサラギが言うと、ニッシはキサラギの髪を片手でワシワシと触った。
――強い。ニッシは、弱くて強い男だ。




