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デュークと女子大生Ⅱ  作者: 若松ユウ
Ⅱ ニッシとキサラギ編
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U この一致は偶然か

U この一致は偶然か


――小屋の近くで待っていた少女たちは、この近所に住むミナとカンナという姉妹で、ニッシから見ると、亡き母の姉の娘にあたる人物だ。つまり、早い話が従妹だな。ポニーテールに結っている背の高いほうが姉のミナ。ツインテールに結っているポッチャリしたほうが妹のカンナ。それぞれ七歳と六歳で、五年制の幼年学校というところへ通っているそうだ。こうして昼食を一緒に摂ることが出来るのは、二年生までは午後の授業がないからだ。

「人参も食べなさい、ニッシ」

「そうよ。こっそりナンテにあげようとしたって、見逃さないんだから」

 赤毛の少女二人が、スティック状の人参をニッシに突きつけながら言った。ニッシは堅く口を閉ざしたまま、首を横に振って拒絶している。

「人参みたいな頭をしてるくせに、苦手なんだな。そういえば、シチューにも入ってなかったけど、あれはニッシが作ったのか」

 キサラギが茶化すと、ニッシは忌々しげな表情で声を低くして言う。

「やかましい。あとで覚えておけよ。お礼は、きっちりさせてもらうからな」

――図星を指されたからって、恐ろしいことを言うなよ。何をする気だ。

 ミナとカンナが人参を持ったまま食べようとしないでいたからか、近くに繋いでいたナンテが二人の背後に回り、器用に人参だけを抜き取って食べてしまう。

「あっ、こら、ナンテ」

「また、横取りしたわね」

 ミナとカンナがナンテの腹をペチペチと平手打ちしながら怒りをぶつけているのを尻目に、ニッシはホッと胸を撫で下ろし、ナンテの背中を撫でながら言う。

「気が利くな、ナンテ。助かった」

――驢馬に命拾いするのは、副長としてどうなんだろう。団員が見たら、物笑いの種にされるんじゃないか。

  *

「ごめんなさいね。重たかったでしょう」

 ベッドに姉妹を寝かせながら、女はニッシとキサラギのほうを向いて言った。

「いえ、軽いものですよ。なっ、キサラギ」

 ニッシは、好青年の手本のような爽やかな笑顔で女に返事をしてから、ふと真顔に戻ってキサラギを鋭い目で睨む。

――ここで重かったといったら、どうなるか分かってるんだろうなとでも言いたげな視線を向けるなよ。さっきのこと、まだ恨んでるのか、ニッシ。

「えぇ、そうですとも。ハハハ」

 キサラギが愛想笑いで答えると、女は立ち上がって胸の前で手を合わせながらひとこと言うと、いそいそと部屋をあとにする。

「そうだわ。この前、梨の砂糖水漬け(コンポート)を作ったの。たくさんあるから、二つか三つ持ってくるわ」

「あぁ、お気遣い無く」

 ニッシは、女の後ろ姿に向かって言ったが、聞いている様子は無い。

――姉妹は起きそうに無いし、奥さんはコンポートとやらを取りに行ったし、ここは、質問タイムにして良いかな。

「一つ、質問して良いか」

 キサラギが口火を切ると、ニッシは待ってましたとばかりに言う。

「二人の父親なら、旅に出てるぞ」

――まだ質問してない。でも、合ってるから続けよう。

「貿易商か何かなのか」

「違う、違う。ただ、放浪癖があるだけだ。三ヶ月くらい経つと、無性に外の空気を吸いたくなる性分なんだと。孕ませて命名だけして、あとの子育てを押し付けていくんだから勝手な人だと、よく伯母さんが愚痴ってる」

「へぇ、親しいんだな。名前は」

「シワス。苗字は」

 ニッシが唇をエムの形に窄めるか窄めないかのタイミングで、キサラギが待ち切れずに言う。

湊川(みなとがわ)、だろ」

 ニッシは、出しかけた言葉を飲み込んで呆気に取られていたが、やがて落ち着きを取り戻して言う。

「何で、キサラギが知ってるんだ」

――世の中広しといえども、シワスという名の付く人物は、その人以外に知らないもので。

ミナ:七歳。幼年学校二年生。緑色(グリーン)の瞳。赤毛。

カンナ:六歳。幼年学校一年生。緑色(グリーン)の瞳。赤毛。

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