M 喉元さえ過ぎれば【グレイ】
M 喉元さえ過ぎれば【グレイ】
――直接言うと角が立つことを婉曲に言う場合の比喩としても使われるが、今回は、物理的な意味だ。
「これで苦くないはずだ。噛まずに飲み込んでみろ」
そう言いながら、グレイは粉薬を半透明な皮に包み、セプトに差し出す。
「そんな春巻きみたいにしたって、駄目だ」
そう言って、セプトは両手を後ろに回して受け取らない。グレイは、険しい表情をしながらピシャリと言い放つ。
「いいから、騙されたと思って飲め。拒めば、鼻をつまんで無理矢理飲ませる」
グレイが、薬を持っていないほうの手を、セプトの鼻をつまもうとして伸ばすと、セプトは素早く薬を掠め取り、丸呑みする。
「ぐっ。んんっ。……アレッ。苦くない」
ギュッと目を瞑って嚥下したあと、セプトが不思議そうな顔をしながら小首を傾げて言うと、グレイは勝ち誇った様子で言う。
「言っただろう。そうやって口では融けないようにしておけば、舌に苦味を感じることは無いんだ」
そう言いつつ、グレイはセプトの肩を軽く押して寝かせると、布団を肩まで掛けながら続けて言う。
「さぁ、もう一眠りしろ。そうすれば、起きるころには薬が効いて、今よりずっと楽になってるはずだ」
「昨夜から、ずっと寝てるばっかりなんだよ。もう眠くない」
セプトは、不満げに口をへの字に曲げながら言った。グレイは、布団越しにセプトの胸の上を、ゆっくりトントンと手で軽く叩きながら、柔らかな声でセプトに語りかける。
「なら、ちょっとした話を聞かせてやるから、目を瞑って耳だけ澄ませておけ」
「昔話で眠れるほど、僕は小さくない」
――あぁ言えば、こう言うんだな。この、口達者な生意気坊主め。
「いいから、目を閉じて黙って聞け。言うことを聞かないと、その淡褐色の眼球を抉り取るぞ」
グレイの粗野な言葉に、セプトは渋々といった様子で目を閉じる。それを見たグレイは、どこか遠い目をしながら語り始める。
「あるところに、琥珀色の瞳を持った赤毛の少年と、青紫色の瞳を持った金髪の少女がいました。少年は少女に惚れていましたが、その気持ちを少女に伝えることが出来ませんでした」
「少年は、意気地なしなのか」
目を開いて疑問を呈するセプトに対し、グレイは不敵に口角を吊り上げながら、人差し指をセプトの眼前で左右交互に動かして言う。
「どちらをもごうかな」
「ヒッ。話を続けて」
セプトが再び目を瞑ったのを確認すると、グレイは話を続けた。




