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デュークと女子大生Ⅱ  作者: 若松ユウ
Ⅰ フィアとグレイ編
11/26

K 毒も控えれば薬【グレイ】

K 毒も控えれば薬【グレイ】


「セプトは、もう寝たかい」

 テーブルの上に湯気が立つマグカップを置きながら、女が心配そうに言った。

「あぁ。鼻をズルズル言わせながら寝てるよ。あいつ、薬を飲もうとしないだろう」

 グレイが部屋の様子を見渡しながら言うと、女は良い質問だとばかりに答えながら席に着く。

「そうなんだよ。だから、余計に看病の手間が掛かって困ってるんだ。――冷めないうちに、どうぞ」

「甘やかすから、ああいう風にワガママに育つんだ。――どうも」

 グレイは、女の向かいの席に着きながら言うと、マグカップの中身を一口啜った。その刹那、グレイは手を小刻みに震えさせてマグカップをテーブルに叩きつけるように置くと、片手で口元を押さえながら、たどたどしく言う。

「な、にを、入れた」

 女は、してやったりという得意顔で口角を上げると、マグカップを流しに置いて言う。

「煎じて薬効を弱めれば、麻酔に役立つんだろう。だから、その通りにしてみたんだ。どうだい、気分は」

 グレイは、テーブルに突っ伏して肩を震わせていると、やがて笑い声をあげながら起き上がった。

「クフフッ。あぁ、可笑しい。これがホントの茶番だな。神経を痺れさせようとしたのか、睡眠に誘おうとしたのか、どうかは知らないけど、ご苦労さま」

 ケロッとした様子で話し出すグレイを見て、女は目を見開きながら顔を青ざめさせ、グレイに向かって疑問をぶつける。

「そんなっ。どうして、そんなにピンピンしていられるんだい」

 グレイは、心底愉快そうにニヤニヤと笑みを浮かべながら答える。

「俺の親父も、薬には詳しくてな。小さい時から微細量の薬品が混ぜられた料理を食べさせられて育ったから、ある程度の毒には免疫がついてるんだ。ご愁傷さま」

 あっけらかんとした口調と態度でグレイがのたまうと、女はガックリと肩を落として項垂れ、消え入りそうな声で言う。

「人体実験か。酷い親だな」

「臨床試験と言え。人聞きが悪い」

「どっちでも良い。はぁ。いつも私は、最後の最後でミスを犯すんだよ。己の詰めの甘さに、反吐が出そうだ」

 女の落ち込む様子を見るに見かねて、グレイは流しのほうへ視線を逸らしながら、語りかけるように言う。

「こんな真似をしてまで、俺に何をさせるつもりだったんだよ。全部聞いてやるから、始めから終わりまで話してごらん」

 すると女は、雨だれのようにポツンポツンと、身の上話を始めた。


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