第7話
応接室のテーブルには何故か淹れたての紅茶が2人分あり、お茶請けのスフレケーキも焼き立てが置いてあった。
魔界ヤバイ。
これで医学が発展してなかったら世はまさに終末。
席に座って今日あったことをかいつまみ、驚いたことや感動の茶々も入れつつ説明する。
ルスダスは相槌を打ちながら静かに、でも楽しそうに話を聞いていた。
そして話が件のロリーナの病気のことになると、ルスダスはあごに手を当てながら思案している様子を見せた。
「その少女はお前の側に居ると体が楽になると言ったのだな?お前から見てその言葉は真実だと思うか?」
「嘘をついてるようには見えなかったけどなぁ。倒れそうになったときは本当に顔色悪かったし息も荒かったよ。でも私と一緒だと元気そうで嬉しそうだった。」
うん、ロリーナは嘘つかない。
かどうかはともかく、嘘を言っている様子ではなかった。
王族だからそりゃあ時として嘘をついたり人を謀る術に長けているかもしれないとしても。
私を見つめて頬を染めたり嬉しそうに笑ったりしてるロリーナは少なくとも嘘をついてはいなかった。
もしそれが嘘だったとしたらむしろロリーナの演技力に私は完敗だぜ。
「なるほど。実際に見てみないことには確証は得られんが、恐らくその少女の病は過小魔力腺凝固症だな。」
あっさり見つかる病名!
さすがとしか言えない。
「カショウギョウコなんちゃらって?」
「過小 魔力腺 凝固 症 だ。人には魔力を作り出す泉となる部分と魔力を体に循環させ外に出す魔力腺と呼ばれる部分がある。臓器で言う心臓と血管の様なものだな。」
ふむ?
「通常魔力腺というものは己の成長と共に増える魔力量に比例して拡がり、十分な魔力の放出を可能とする。しかしこの病の者は魔力腺が凝り固まってしまい拡がりにくい。故に放出が追いつかず魔力だまりが体内に出来てしまい苦しむのだ。」
なるほど~。
説明しながらルスダスは懐から何かの包みを取り出して私の方に差し出す。
包みを開くとそこには透明な南京タイプの鍵があった。
透明だけどそこだけ少し光を反射してうっすら虹色に見える。
「これは治療鍵だ。新薬でな、速効だが慣らしながら治すこれまでの方法より少々リスクがある。しかしお前が立ち会って使うなら危険ではないだろう。」
「リスクって?」
「凝固症の者は魔力腺の細さ故に魔力を最大放出する感覚しか経験しない者が多い。要するに調節が不得手である場合が多いのだ。そのため新薬を使う場合は保護者が魔力の調節を教える必要がある。」
「それ私もできるやつ?前の治療法は?」
「ふむ、お前ならば感覚的にできるだろうが、それも教えておこうか。」
そう言うとルスダスは何気無く私の手を取り、じっと見つめ合うこと数秒。
見つめあーうとぉー!!
…やりたくなることってあるよね。
素直におしゃべりできない。
「わーなんかポカポカしてきた。」
「うむ、私の魔力がお前の体を流れているのがわかるか?お前の魔力とは質が違うのがわかるはずだ。」
言われてみるとなんとなく。
言うなれば他の人の体温というか、自分のとは違う違和感はあるけど暖房の風と思えばそんな感じ。
それが私の体を巡ってる感覚。
魔力って温かいなぁ。
私が頷くとルスダスも軽く頷き返して手を離した。
もったいね。
「私は敢えてお前に魔力を感じさせたが、お前の場合はそう身構える必要はない。お前の体は常に周囲に魔力を放っていてな、近づくだけで患者の体が楽になると言うのはお前の魔力の波に凝りが解されている状態だからだ。以前の治療法は患者に触れ、そうした魔力の波を当てて治していく方法だ。」
なるほどなー。
つまり私は居るだけで体にいいらしいんだぜ?
やったな。
さすが女神ボディ勇者ボディ。
そもそもこの病は基礎魔力の多い魔族に発症するケースが多いらしい。
人間には10年から20年に1人の確率で、凝固症にかかる人間は基礎魔力量が魔族クラスの貴重な存在だとか。
ロリーナ治ったらすごい奉られそう。
可愛いから世界遺産。
間違いなく。
「ありがとう、ルスダス。」
「気にすることはない。お前の旅路の安全は私が保障しよう。」
大魔王様の祝福がパネェ。
正直祝福しすぎだと思うけどね?
きっと魔界ではこのくらい祝福されないとやっていけないんだな…。
何それ怖い。