第6話
私が女と知ってしばらくは疑ったり放心したり忙しかった爺やとティカロも納得して静かになった頃、馬車はようやく王都に到着した。
入り口で衛兵とラインバードが少しやり取りをし、それから街に入って城の方へ向かう。
窓から見える景色だけだったけれどああやっぱりファンタジーな世界なんだなぁと実感する。
大通り沿いに並ぶ宿屋や商店、行き交う人々の格好。
私は物珍しそうに見物した。
へー、ほー。
「ヒノメ様は王都は初めてですか?」
「私ね、こことは違う文化のところから来たんだ。だから全部珍しい。商店に売ってるものとか取り扱い通貨とか…あっ、そうだ後で流通貨幣教えて。買い物できなかったら困るしそしたらお金稼がないと。ねぇここって冒険者ギルドとかある?」
お金ないのはヤバイよねー。
そう思ってアイテムボックスのメニューを開く。
大天使からの餞別でそこには10,000EGと書かれた表示があるけれどもそれがどのくらいの価値なのか。
EGって何。
エネルギーゴールド?E缶なの?
それともエッグか何かか?
引き出して1万の金の卵とかだったらお話にならない。
大天使ならやりそうな気がした。
だってアイテムボックスに最強装備入れて渡すんだよ?
物の取り扱いについて信用がならない。
そう思いながらリストを上から下へスライドさせてたら半透明な画面越しにロリーナが顔を覗いてきた。
可愛い。
「あの、ヒノメ様、これはなんですか?ヒノメ様の住んでいたところではこういうものが流通しているのですか?空中に紙が…それも透けて向こうが見えてしまいます。」
ロリーナが手を伸ばしてみるとメニュー画面は貫通する。
マジ?
私の手には反応するのに。
私にも未知~。
「うーん、似たような感じだけどこれは天使にもらったんだ。天使の世界の方が私のところより進んでるみたい。」
タップタップ。
魔王とか言うと面倒そうだから天使でいい。
あれは大天使。
「天使様の世界の品……聖遺物として後世まで教会に納められる事は間違いありませんね。どうなっているんでしょうか…。」
「多分ね、空中の座標タッチと固有識別みたいな機能がついてると思うんだけど。それにしても映写装置もないのに不思議。」
そういえば前にホログラムに触ってるのに実物に触った感覚を楽しめるとかって装置が日本でも開発されたってニュースしてたな。
意外と技術力は追っかけられてるのかもしれない。
ロリーナは首を傾げてヒノメ様は博識でいらっしゃいますねとほめてくれた。
いや、この世界の事に関しては圧倒的にロリーナの方が博識だと思うよ。
そんな雑談をしている間に城に到着し、ロリーナは自室に通され私も客室に案内された。
ロリーナの体調もあるし襲われた報告やらもあるため私が王様に会うのは明日になるらしい。
で、そうなると街に出てみたくなるわけですが。
でもなー警備が。
それにお偉いさんの許可もまだ出てないし。
いやでも未知を前にしてこの好奇心を我慢するのは健康に悪いのでは?
うーん。
でも抜け出して戻ってこれなくなっても困るし通貨もよくわかんないから大人しくアイテムボックスの中身でも調べるか。
そういえば大天使と連絡取れるものが入れてあるって言ってたけどそれってどれだろう。
ロリーナの病気についても何か治療法とか知らないかなぁ。
科学技術は随分発展してるみたいだし医療もさぁ。
そう思いながらリストを整頓し直す。
するとそれらしき物が目に留まった。
『真紅の転送陣』
ほう。
転送陣ってことは直接行けちゃう感じかな。
同じ様なものに『空白の転送陣』とかいうのがいくつもある。
新しい場所を登録可能ですぜ旦那!ってことだな。
今度試してみようっと。
待てよ、転送された後の帰りはどうしよう。
空白使っちゃうのなんかもったいないな。
何か目印になるものはないかな?
ごそごそ。
あ、これでいいや。
『宝石龍の鱗』
なんかレアそうだし目印になりそう。
城で盗み働く不届き者とかいないでしょ。
さてこれでちょっと実験。
私は鱗をベッドの上に置いて隣の部屋に移動した。
「我が手に在りし『宝石龍の鱗』を残した地へ転移の門を開け、テレポート。」
そう唱えると私の傍らに光の門が出来た。
開けて覗いてみるとそこはさっきの部屋で、ベッドの上には私が置いた鱗。
よしよし。
門をしっかり通り終わると門は勝手に陽炎みたいに揺れて消えた。
これで戻ってくる目処が立ったな。
それじゃ早速。
「テレレレッテレー。真紅の転送陣~。」
もう見れないかと思うと僅かな郷愁。
大変お世話になりました。
アイテムボックスから出てきたのは白い質のいい布。
床に広げるとそこには赤い糸で魔法陣が刺繍してあった。
これもお高そう。
早速床に敷いて上に乗ってみる。
「……。」
その、あれ、発動条件とか。
あ、なんか魔力を流す的な?
取り合えず片膝着いてクラウチングスタート。
それから剣を呼び出すときみたいに発動して欲しいなー魔力流れて欲しいなーって考えてみると魔法陣の刺繍が光った。
マジかよふんわり~。
やった~。
目の前が魔法陣からの光で埋め尽くされる。
気がつくと私は何処かの執務室に居て、目の前には執務机に向かう大天使がいた。
人物直行なの魔法陣。
「ナナミか、どうした?」
大天使は相手が私だとわかるとその整った顔に柔らかい微笑みを浮かべた。
セイントマザーかよ。
いや、男だからセイントファザーか。
あれ?神かな?
「ルスダス聞いて、めちゃくちゃ美少女な可愛い子が不治の病でこのままじゃ人類の財産の喪失!まだ15歳なのにこんなの間違ってる!治療薬を是非!!」
お願い大魔王!
世界の命運があなたの知識にかかってるんだから!
「ふむ…説明を聞こう。」
勢いで詰め寄った私に動じる様子もなく、ルスダスは席を立って隣の応接室に私を案内した。