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第4話


 森の中の道をしばらく進む。

 今は何時くらいだかわからないけど日は高い。

 私は空いた小腹を満たすために塩を振った干し肉をもぐもぐくわえながら散歩気分で行軍を続行していた。

 時々水筒の水を飲んでいるけれど、この水筒何故か水が減らない。

 水筒の一部に水の魔石だろうか、青色のクリスタルのようなものが埋め込まれている。

 たぶんこれが魔石の使い道だと思うけど、こっちのはさっき拾った魔石よりずっと魔力がたくさんこもっているように感じた。

 まぁさっきの魔物はそんなに強いやつじゃなかったっぽいし、きっとこっちの六角結晶っぽい形のがいいやつなんだろう。

 私はもぐもぐと干し肉の最後のひと欠片を口に投げ入れた。

 その時、何処からか金属のぶつかり合う音が微かに聞こえた。

 ピタリと動きを止めて聞き入ると、何度も。

 そして小さいけれど人の声も。

 何だろう、揉め事だろうか?

 この森に私以外の人間がいたのは驚きだけど、もしかして盗賊とかかもしれない。

 それなら襲われてるのは旅人か商人か。

 旅人だとすれば私も他人事じゃないし、加勢してあわよくば何人か捕まえられれば犯人逮捕に協力できそうだ。

 私はよしと水を一口飲むと水筒をアイテムボックスに仕舞い、駆け出した。

 体が軽いからだろうか、走るスピードが自転車で坂道ノーブレーキくらい出る。

 この体ヤバイな。

 そのまま音の方へ向かうと、立ち往生した白い高級そうな馬車が見えた。

 その周りを護衛するように同じく白い騎士姿の人たちが3人。

 既に血を流して倒れている人もいる。

 そしてそれを取り囲むように、明らかに盗賊ですという身なりをした数人の髭面の熊たちが見えた。

 そして馬車の入り口から恐々様子を見守るのは、金髪に青いドレスを着た可憐そうなお嬢さん。

 決まった、髭面の熊どもお縄。

 

 「風よ、突刺となりて彼の鎧を打ち砕け。」

 

 咄嗟に英語のカッコイイ名前なんかは出てこない。

 それでも魔法は詠唱だけで十分な威力で発動し、風がうねる。

 それを見て私は聖剣を片手に飛び出した。

 

 「うぐッ!?」

 「ぐあぁッ!」

 「なんだ!?」

 

 戦況が混乱する。

 私は一足跳びしてこれまた驚異のジャンプ力で上方死角から聖剣を振り下ろした。

 見事賊の頭部に命中しまずは1人昏倒。

 突然の乱入者に周りが驚いてる間に脇にいた賊の鳩尾に鎧の上から剣の底を叩きつける。

 相手の鎧は綺麗にへこんだ。

 上から降ってくる斧を避けつつ両腿を斬りつけ足払い。

 勢いそのままに立ち上がって距離を取る賊たち相手に剣を構えた。

 

 「安心しろ、峰打ちだ。」

 

 約1名除く。

 いやごめんこれ言ってみたくて。

 あとこの体すごい軽い上に周りの動作がかなり遅く見えて前線特化され過ぎでしょ。

 何?女神って前衛なの?

 女神のための体だったんだよね?

 意外とアグレッシブだな、女神。

 

 「お前は…?」

 

 後ろの騎士さんから驚きの声が聞こえたけど私は軽く振り向いただけだった。

 敵を前に気を抜くのは流石に不味いと思う。

 

 「お、お頭、あいつの髪…!」

 「ま、まさか…。」

 「…チッ、退くぞ。」

 

 お頭と呼ばれた男を見る。

 なるほどこいつがお頭か。

 こいつ捕まえたら懸賞金とか出ないかな。

 そう思って後退る連中を追いかけようとしたら、後ろからベルトを捕まれた。

 いやん。

 すると賊たちは追う気がないとわかったのかとっとと撤退していった。

 腿を斬られた奴はなんとか追いかけて行ったが昏倒した仲間たちはそのままだなんて可哀想に。

 仕方ないね。

 私は戦闘体制を解いてふうと息をついた。

 そして振り向くとそこには金髪の若い騎士がじっと私を見ていた。

 ベルト掴みっぱなしですけど。

 

 「…無事でよかったですね?」

 

 疑問系だけどとりあえずそう言っておこう。

 じゃないと話が進まなそう。

 すると男ははっとしたように改めて私を見てベルトから手を離した。

 サンキュ、股引き上げられてた少し。

 

 「助太刀、感謝する。危うく国の要人を賊にさらわれるところだった。」

 

 あららー国のお偉いさん?

 それってどう考えてもあの女の子だよね?

 キラキラの上品かつ可愛いティアラなんてつけちゃってめっちゃお姫様だしデゼニープリンセスのオーロラ姫みたいな青くてスラッと綺麗なドレスなんて着ちゃって是非お近づきになりたい。

 可愛い女の子大好き。

 そう思って馬車の方に目をやったら女の子の青い瞳と目が合って、瞬間に気が抜けたのか女の子は崩れ落ちた。

 マジかよそんな高いとこから落ちたら怪我しちゃうよ!!

 そう思って私は駆け寄って崩れて馬車から落ちた体を抱き止めた。

 

 「姫様!」

 「姫!」

 

 馬車の中にいたお爺さんとオレンジの髪の女性騎士が駆け寄ってきて慌てて姫の安否を心配する。

 私はゆっくり姫を馬車から降ろし、片足をついてしゃがみこみ腿の上に座らせた。

 ドレスの裾汚れちゃうけどごめんね。

 

 「大丈夫?」

 

 敬語使った方がいいかなとは思いながら年下っぽく見えるので思わずため口。

 顔を覗き込むとお姫様はうっすら目を開けて私を見て、次いで驚いた様子で口元を手で覆った。

 ん?

 

 「…勇者様。」

 

 そう呟いて、姫は私の胸に抱きついてきた。

 かなり嬉しそうだし役得なので私は引き離さない!

 おっぱいもなかなか発育しているのでは!?

 やったー!!

 

 「お陰で助かりました。どうかお礼をさせてください。私の国へ一緒に来ていただけませんか?」

 「うん、いいよ。」

 

 可愛いから。

 

 「よかった!あっ、申し遅れました。わたくしはヴァリエント王国第38代国王の娘で、第1王女のロリーナ=エール=ヴァリエントと申します。その、どうか、ロリーナと呼んでください…。」

 「ひ、姫様!?なんということを…!」

 「ロリーナ?」

 「きっ、貴様!姫の真名を気安く…!!無礼だぞ!!」

 

 あ、そう言えばそんな話あったな。

 家族以外は名前で呼んじゃいけないんだっけ?

 お爺さんと女性騎士の人が思いっきり私にどこの馬の骨みたいなこと言ってるけど事実だからしゃーなしだね。

 それを制したのはお姫様、もといロリーナだった。

 

 「無礼なのは貴方たちですよ。この人はわたくしたちの命の恩人です。それにこの輝く御髪、古くから伝わる女神様に連なる勇者である何よりの証ではありませんか。教典の通り…いいえ、それ以上にお美しい御髪です、勇者様。」

 

 わかる~。

 この髪ヤバイよね~白髪と銀髪は紙一重って言うけどこの髪折り紙の銀じゃん?

 すごい子供たちに人気出そう。

 金と銀は1セットに1枚ずつしか入っていないので!

 昨今の金5枚入りとかは稀少価値ってもんがわかっとらんのですよ。

 

 「一応特徴は勇者だけど、中身が残念な私だから名前で呼んで。私の名前はヒノメ。」

 

 ナナミと名乗るか躊躇する。

 だって名前を呼び合ったら魂がなんたらかんたらなんでしょ?

 信じてるわけじゃないけど郷に入っては郷に従えって言うし。

 他人からは誤解されちゃうやつだし。

 いつか教えられる関係になれたらいいなぁ。

 家族じゃなくても友達とかならセーフじゃない?

 ロリーナも簡単に教えてくれたみたいだしね。

 

 「ヒノメ様……どうか、わたくしと結婚してくださいませんか?」

 

 …うん?

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