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第31話

 

 零れ落ちた光が地面の緑を広げていく。

 あ、四つ葉のクローバー。

 そう思ったときには私とロリーナから一歩離れた位置にいるベルナーさんの足元まで白爪草が広がっていた。

 

 「ちょ、もういいですから!やり過ぎ!やり過ぎ!!」

 

 私がそう必死に押し止めると渋々な感じで光は収まった。

 ロリーナが手を離すと、私の手の傷は跡形もなく消えてて血の形跡すら消えていた。

 え、えー…。

 光が溢れたってことは光属性だよね?

 精霊さんでこんな緑まで溢れちゃうの活性化しすぎだと思うし、ってことは精霊主様?

 光の精霊主の名前は確かブリガンティア。

 え?何でこんなとこにいるの?

 

 「…ロリーナってもしかして精霊主様の祝福を受けてるとかある?」

 「えっ!?い、いえ、そのような畏れ多いことは、妹なら有り得ますが私は教会本山にも足を踏み入れたことのない無作法者で…!」

 

 ロリーナは混乱してしまった!

 ごめん、たぶん十中八九私が女神ボディだからだけど信じたくなかったっていうか。

 流石にそこまで世界的レベルで保護されてるってどうなの!?

 中身は残念JKなんですけど!?

 呼ばれた勇者はあっちなんだからあっちについててもらえませんかね!?

 

 と思ったけど伝わってる気はしないし、わざわざこの場で口に出してもいなくなるとは思えなかった。

 だってなんか集中して周囲の魔力の塊を探知すると、ずっと私の斜め後ろ上方に居るっていうか。

 ロリーナも結構魔力大きい方だけどその比じゃない塊も塊!みたいなのを感じる。

 初めて探知が成功したときは前に集中してたから気づかなかったけど、チラチラ探る度にそういえばずっと居たような気もするし。

 ……一体どんな見守りセンサーなの。

 

 「勇者殿は余程女神に愛されていると見える。」

 

 ベルナーさんが一人で納得したように頷くと、ロリーナもそれを真に受けてしまって満面の笑みを浮かべた。

 

 「流石はヒノメ様でいらっしゃいます!きっとヒノメ様は勇者トーマ様にも引けを取らない稀代の勇者様なのですね!」

 

 そう言われるとかなり辛いものがあるんですけどね!?

 大天使を倒すとか多分無理だよ力量的に!!

 あと女神の加護はもらってないです面識もないです。

 呼ばれたはずのあいつより目立ちたくないんだけどおかしいな!?!?

 

 そんな感じで私の祝福されっぷりをアピールすることになってしまい、これでもう一人の勇者様が揃えば我が国は未来永劫歴史に残りますなとか受かれた貴族っぽいおじさんに言われた。

 なんか面倒ごと押し付けられる前に早いところ旅に出たいですね。

 ロリーナの誕生日パーティー終わったら絶対いこって思った。

 

 で、たくさん動いたらお腹が空いたので。

 

 「お菓子を作ろう!いえーいパチパチパチ。」

 「いえー?」

 

 ロリーナとメディをお供に厨房をお借りしています。

 ロリーナはよくわからないまま私の言葉を真似て胸の前で小さく拍手してくれた。

 メディはあんまり反応してくれないのだけど居てくれるだけで華だからいいよ!

 でもため息はちょっと悲しい!

 

 「そのようなこと、わざわざ勇者様と姫様がなさらなくとも御用意致しますが…。」

 「みんなで楽しくやることに意味があるんだよメディ。というわけで今日はクッキーを作りたいと思います。」

 

 初心者のロリーナもいることだし。

 クッキーが一番簡単だし多少分量間違ったところで失敗しにくいからね。

 

 材料は小麦粉、卵、バター、砂糖、塩、オプションでバラの花びらの蜂蜜漬け、オレンジの皮と実、イチゴジャム。

 さすが王城の厨房だけあってオプションまで揃っちゃう。

 まぁ実際に使って作ってみたことはないけどなんとかなるんじゃないですかね。

 何事も実験だよ。

 違った、何事も経験だよ。

 

 「髪を結んでエプロンつけたロリーナも可愛いね。」

 「そ、そうでしょうか…?ありがとうございます、ヒノメ様…嬉しいです……。」

 

 照れて両手で頬を押さえてもじもじするのが可愛すぎるのでこれだけで私は満足です。

 でもお腹はわがままなので妥協は出来ないのだ。

 それではクッキーを作っていきたいと思います!

 

 「まずはバターを混ぜてクリーム状にしていきます。これはそこそこ力仕事だから私がやるね。」

 「お願いします、ヒノメ様。」

 「ロリーナは卵を溶いておいてくれる?」

 「はい!」

 

 自分に役目があるのが嬉しいのかロリーナは気合いを入れて器に卵を移した。

 卵を割るくらいは野営のお料理体験でやったからロリーナも出来る。

 メディは少しハラハラした様子で見守っていたけど、ロリーナは器用だからそんなに心配することもない。

 小さな泡立て器を持って、私の方を見ながら真似をして卵を混ぜる姿が辿々しくて可愛らしいと思います。

 まぁ私の方は力仕事なのでガッシガッシ練っては器の縁に打ち付けてバターを落とし、またガッシガッシ練るというかなり豪快な動きをしているのでロリーナはそこまで力入れなくていいんじゃないかな。

 

 「それじゃあ次はお砂糖をバターに少しずつ混ぜて。これは最初はメディにやってもらうからロリーナは見てて。」

 「畏まりました。」

 「はい!」

 

 メディが砂糖の器を傾けて、クリーム状になったバターに少しずつ砂糖を加える。

 三回くらいに分けた量を入れ、その度にかき混ぜる。

 さっきより軽快になった泡立て器をカシャカシャと回すとロリーナが小さく拍手をしてくれた。

 照れますね。

 砂糖を全部混ぜ、塩も入れ、そして卵を混ぜる。

 

 「じゃあ卵をロリーナが、砂糖の時みたいに分けて入れてね。」

 

 ロリーナが卵を三回に分けて入れる。

 まぁ初めてなのでいっぱい入ったり最後はチョロくなったりもしたけどそれもご愛嬌である。

 さてここで泡立て器を置き、装備を木ベラに変更。

 

 「小麦粉を入れて、切るように混ぜるんだよ。これはロリーナにやってもらおうかな。」

 「わかりました!」

 

 ワクワクした顔で私から木ベラを受け取り、粉を投入した生地を混ぜる。

 切るように、切るように、と呟きながら粉を混ぜるのだけど、やっぱり初心者には難しい。

 

 「こ、こうでしょうか?」

 「うん、こんな感じかな。」

 

 後ろからロリーナの手を取って一緒に混ぜて指導してあげると、厨房の入り口の方から怨念のようなものを感じた。

 チラッと見ると国王様と爺やが隠れていて、近くにティカロも居るんだけどティカロはそれよりクッキー生地の甘い匂いに夢中だった。

 早くもロリーナの親衛隊?が瓦解してる予感しかしない。

 ロリーナは耳まで赤くして照れながらも真剣に生地を混ぜ続けた。

 メディは見守っている。

 

 「うん、いい感じに混ざったから生地を少し休ませよう。」

 「それでは冷暗室に置いて参ります。」

 「あ、いいよ。魔法で時短しちゃうから。」

 

 お腹空いてるし。

 メディは首を傾げて手に持った生地の器をテーブルに戻した。

 私は冷やすのと時間を置くのをまとめて魔法でやってしまう。

 

 「いい感じに10度以下で、クール。からのヘイスト。」

 

 上手いこと詠唱文句が見つからないので魔力を少し多めに渡しておいた。

 すると任せろと言わんばかりに生地が器ごと水色の光に包まれ、次に紫色の光の粒がくるくると螺旋状に生地を包んだ。

 その光が収まると気分的にレンチンの音が頭の中で再生された。

 チーン!

 

 しかしヘイストは詠唱なしでいいんですか。

 あれか、これが大天使の言ってた精霊との親密度とか熟練度的なやつか。

 安定の女神ボディ。

 精霊との親和性突き抜けてる。

 精霊主様が常にお側にいてくださってるんですもんね!?

 このクッキー出来上がったら何枚か御供えしとこう。

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