第29話
「貴殿が勇者殿か。」
「あ、はい。」
「早速だが、貴殿に決闘を申し込む。」
「え、うん………え?」
野生の 騎士団長が 勝負を仕掛けてきた!▼
トイレからの帰りに目が合ったら決闘申し込まれるとかトレーナーかよ。
ポケットに入る魔物とかけしかけてこないでよね!
というわけで、私は何故か鍛練場でヴァリエント王国騎士団長、ベルナー=バートランドと一対一の決闘をすることになった。
「父上!一体何事ですか!?」
「え!?これお前の親父さんなの!?厳ついな!」
「ラインハルトか。」
ラインバードの真名はラインハルトなの。
まぁそれは別にどうでもいいんだけど。
いや待って、ラインハルト=バートランドが本名ならラインバードって自分の家名までギュッと凝縮した名前じゃん!
安直ぅ!
そんな目で見たらラインバードはあからさまに目を逸らした。
…ドンマイ。
ともかく、なんと騎士団長はラインバードのお父様だった。
左目に眼帯をしたダークブラウンの毛髪のイケおじ。
でもはっきり言ってラインバードとは似てるような似てないような。
どっちか言ったらやっぱり似てない。
「似てないな。」
「私は母上似だ。父上、何故この様な事を?」
「うむ、陛下とマーリン殿の頼みでな。なんでも勇者殿が王女殿下に悪い遊びを教えたので懲らしめて欲しいと。」
「そのなにがし殿って誰。」
「マーリン殿はリーナ王女の爺やをしておられる。」
「あ、爺やね!あーはいはい!」
「余談だがマーリン殿は姓を名乗っておられるので呼んでも平気だ。同じ職場に同じ姓の者が居ることが多いので呼び名を名乗る者が多いが、マーリン殿は出身が王妃殿下の御実家の領地ゆえマーリンの姓はこの城ではマーリン殿しかいない。」
真名文化めんどくさいな。
私がそう溢したら慣れろと言われた。
「それで私がロリーナに悪い遊びを教えたって?」
「昨日朝帰りを覚えさせたと聞いている。」
「あーそれ。でもそれ遊びっていうか生きるための術を学んでた感じだからなんとも言えない。あと今後朝帰りさせる予定はないんだけど。」
「調度腕試しを頼みたいと思っていたところでな。王女殿下の護衛に足る腕か試させてもらいたい。」
「あ、はい。」
「それとラインハルトの婿に相応」
「父上!!それは必要ありません!!」
「…とリリアーナが言っていた。」
「は、母上…。」
ラインバードは頭を抱えた。
うーん、ラインバードのお母さんはきっと腐女子。
がんばれラインバード、負けるなラインバード!
私はポンと肩を叩いておいてあげた。
それから鍛練場の真ん中で私とベルナーさんは向かい合い、周囲には噂を聞きつけた騎士団の皆さんと国王様と爺や、ハラハラ見守るロリーナとラインバードが揃った。
他にも城勤務のお貴族さんたちもいるみたいだけども興味がないのでスルー。
「団長!やっちゃってください!」
外野からティカロが野次を飛ばした。
私がチクったことを根に持ってると見た。
「ベルナーさん、私が勝ったらティカロの鍛練メニュー倍で。」
「ちょっとぉヒノメ殿!?」
「承知した。」
「団長ぉ!!」
口は災いの元っていう諺があってだな。
まぁいいや。
ティカロはロリーナに慰められてたから放っておこう。
私が剣を呼び出して構えると、周囲がどよめく。
ベルナーさんは自分の得物である両手剣を構えながら、興味深そうに目を細めた。
「行くぞ。」
ベルナーさんの宣言の後、一拍置いて距離を詰められる。
鎧や両手剣の重さなんて感じられないスピードで懐に入り込まれ、咄嗟に剣でガードする。
下からの打ち上げに金属同士がぶつかり合う音が響いた。
流石騎士団長と言われるだけあって、かなり重たい剣戟だなと感じた。
多分、私が全く元の体なら対処は難しいし、よしんばなんとかガードできたとしても押し切られて吹き飛ばされていたと思う。
両手剣の重みに加え、ベルナーさん自身の筋肉量はとんでもない。
それをガードでいなせるこの体が如何に特殊で前衛に特化したとんでもボディかを身を持って体感した。
ベルナーさんは素早く剣を引き、今度は横向きに一閃。
私は剣の面でそれを受けながら、わざと吹き飛ばされる方向へ跳んだ。
思いっきり吹き飛ばされ、側転してなんとか体勢を建て直す。
無理に受けて立つのも自分の体の限界を知る上では重要かも知れなかったが、あの人間としては化け物の部類に入る力を正面から全て受け止めることもない。
だってあの人今右手をグーパーしながら両手剣を左手だけでぐるっと回したよ?
この人実は魔族なんじゃないだろうか。
「反応や力はなかなかの物だな。」
「基本大天使のお陰ですけどね。」
ベルナーさんはなるほどと呟き、一度距離を取った。
絶対よくわかってないと思うけど、これ以上話すのも無駄だと思ったのかもしれない。
今度は両手剣を真っ直ぐ前に構え、頭上に振り被る。
ふっと感じた闘気の様な、マナの流れに違和感を覚え思わず横に回避したのと、ベルナーさんが剣を力強く、瞬間的な速度で振り下ろしたのは同時だった。
剣が光の軌跡を描いて空を裂く。
その軌跡がそのまま真空の刃となって真っ直ぐ、地を削り爆ぜるような音を立てながら私が立っていた場所を通過していった。
マジか。
あれに当たってたら流石に真っ二つなんじゃないかと思ったが、大天使の言うこの体の頑丈さが何れ程なのかわからない。
余計な冒険は今は止めておこう。
真っ二つにはなりたくない。
視線を前に戻す。
目の前には既にベルナーさんが突きの構えで迫っていて、剣先が私の心臓の位置を捉えている。
私は体を横に滑らせた流れのまま身を翻し、回避。
横凪ぎに切り返してくるのは予想の範囲内だったので刃に剣の面を押し当て、私は地面を蹴った。
剣同士が擦れ合う不快な音を立てながら、今度はこちらが懐に入り込む。
両手剣は重く、範囲が普通の剣よりやや広い。
その分小回りが利かないので懐に入られるのは相当嫌なはずだ。
尤も、ベルナーさんにとって両手剣の重さなんてあるのかないのかわからない程度のものだろうし、懐に入られた時の対処だってしているはずだ。
私はいつでも回避できるよう気を配りながら、ベルナーさんの喉元に剣の柄を叩き込もうとした。
瞬間、視界に入り込む手。
私は急ブレーキをかけ地を蹴って大きくバク宙をし、距離を取って着地した。
「…なんていうか、場数の差ですかね、やっぱり。」
ベルナーさんは左手の拳を地面に叩きつけていて、土が抉れている。
近寄ると拳骨が飛んでくるらしい。
こわい。
「うむ。しかし流石は勇者殿。真空斬でしっかり気を逸らしていたものを、立ち直りと判断が速い。攻め時も分かっておられる。横凪ぎも今度は回避すると踏んでいたので少々焦り申した。」
全然焦ってるようには見えなかったんだけど、熟練の集中力がそうさせるのかもしれない。
敵を目の前にして感じる過度な焦りや恐怖は体を縛る枷になる。
反応の遅れが死を招きかねない。
ベルナーさんはそれをよくわかっていて、意図的に感情を抑えられるのかもしれない。
そして私はこの体のお陰で、無意識に恐怖が抑えられている。
そうじゃなかったらこんな殺意高めの攻撃、戦闘初心者の私が反応できるかも怪しい。
真空斬とか拳骨とか当たったら普通に死にそうだし、心臓狙いとか殺意しかない。
普通なら恐怖を感じて降参するところだけれど、今の私にとってはむしろ逆。
剣を握る手が指先まで血が巡り、温かい。
首元に多少の汗をかいて、頬に熱が上ってくる。
気が緩んだらにやけてしまいそうで、私は今とても興奮しているらしかった。
戦闘狂とか、ちょっと勘弁して欲しいよ、女神。




