第28話
「そういえば気になってたんだけどこの国の識字ってどのくらい?全国民字が書けるくらい?」
一通りの必要そうな知識を補完した後で、私はロリーナに訊ねてみた。
冒険者ギルドでは字が書けないと言ったら大爆笑で、まぁそれは私がどやった事による仕返しの部分も多分にあったのだろうけど。
「この国の識字は一般の平民まで浸透していますが、字を覚えるためには学舎に通わなければならず、学舎に通うにはある程度のお金も掛かりますし子供たちが通える範囲に学舎ないしは教師がいなくては始まりません。
従って現在は王都や主要な街、町民などで識字率は80~90%といったところでしょうか。食うや食わずのスラムに暮らす子供たちや町からも離れた村に暮らす子供たちなどは残念ながら文字を読み書きできる子は稀でしょう。
なので字が書けない、読めないといった者は余程の田舎者、或いはスラム育ちの貧しい出だと蔑まれてしまう傾向にあります。」
そう説明してロリーナはそっと肩を落とす。
国の事を考えると執政者としては悩みが尽きないよね。
解決した側から次の問題が出るんだから国を治めるのは大変だ。
国王様くらい能天気の方が案外悩み事に囚われなくていいのかもしれないなぁ。
「本当ならスラムで暮らす人たちも減らしたいのですが、なかなか上手くは行きませんね…。」
「うーん、まぁ資本主義である以上どうしても貧富の差はあるからなぁ…。」
共産制にしても問題はあったわけで、そう考えると不満の出ない政治なんて人類には無理なんじゃないだろうかと思ってしまうよね。
まぁ、難しい話は置いておこう。
私は政治に明るいわけでもないし、あんまり現代日本の入れ知恵するのも大天使が困るかもしれないわけだし。
一応恩人で保護者だから意思確認くらいしておかないとね。
「色々大変そうだけど、一先ずは目先のお願いしてもいいかな?この国の文字を教えてくださいロリーナ様。」
割りと火急で深刻なので。
テーブルに頭をつける勢いで下げたらロリーナが慌てた。
「あ、頭を上げてください!もちろんです、私はヒノメ様のお役に立つのでしたらどんなことでも…!」
「そんなにあっさりどんなことでもなんて言ってはいけないよロリーナ。自分を大事に!」
世の中にはん?今なんでもするって言ったよね?って考える輩がいっぱいいるんだ!
イエスロリーナノータッチだぞ!
というようなやり取りを経て、私はロリーナにこの国の文字を教えてもらった。
この国の文字はアルファベットのようにA~Zに対応する文字で構成され、単語に関してはその文字をローマ字状に組み合わせて使用するらしい。
例えばロリーナだったらRoriinaだし、私だったらHinome。
この国だったらVarientoと表記するらしく、文字数は当然多くなる。
古い書物になると単語の母音が所々省略されてRorinaになったりVarientになったりと連続のiが省略されたり末尾のoが省略されたりすることが多い。
中には真ん中の「そこ省略したらわかんないだろ」ってところが省略されてたりもする。
そのため本来はヴァリエンテだったものが今日ではヴァリエントと伝わっていたり、ロリーナがルリーナになっていたりもするそうだ。
まぁこれは分かりやすく知ってる単語で説明しただけで、ヴァリエント王国は建国以来変わらずヴァリエントだそうです。
ただ、文法や発音に関してはどうやら私の体のせいなのか、勝手に日本語に聞こえてしまうということがわかった。
私には日本語に聞こえているけどロリーナたちは自分たちの言葉を話しているつもりで、私の言葉もロリーナたちにとっては彼女らの使う言葉に聞こえているらしい。
言葉を覚える上で、意識して聞くことで私にも現地語に聞こえることもわかった。
わかりやすく纏めるとこうだ。
①日本語とは発音も文法も全然違う言語
②文字表記的にはローマ字構造
③Mai neemu izu Hinome
④耳と口が翻訳こんにゃく
⑤意識すればお好みで原語モード
でもちゃんと覚えるまでは自動翻訳状態でお願いしたい。
追々使えるようになったら練習していこうと思います。
あ、それと古い精霊文字はやっぱり日本語だった。
書いても日本語、読んでも日本語。
こればっかりは謎だ。
いったいどういう起源なのか首を傾げるけど、大体大天使の仕業でも違和感ない気がするから置いておこう。
まぁチート大先輩が本当かどうかもまだ推測でしかないけど、あながち間違ってはいないはずだし。
ところでこの国、千年以上国の形態維持できてるって結構すごいことだよね。
「この国以外にはどんな国があるの?」
「ヴァリエントに隣接している代表的な国ですと、北に神聖バルド帝国、南にイムレラ連合国があります。他にも小さな国は間々あるのですが、何分人の住める土地は少なく盛衰が激しいので、この三国を覚えていただければ特に滞りはないかと。」
魔物が闊歩してる土地に国を築こうって大変な話だろうしね。
中でもヴァリエント王国には平原と森が多く魔物も北と南に比べると多少退治しやすいらしい。
そのお陰でか、国面積はヴァリエントが一番広いのだとか。
「神聖バルド帝国は建国から三百年程ですが、それ以前にはヘンゼル皇国、ノルベルト大帝国など名を変え政治形態を変え、存在し続けています。神聖バルド帝国は代々剣帝と呼ばれる者が皇帝として国を治めていて、今代の剣帝は僅か単騎で雪山に別け入り、雪山の主である大柄のスノウタイガーを従えて戻ったという逸話を持つ皇帝 オスカー=イグナーツです。」
神聖バルド帝国では名前の作りがこの国と違い、「自分で後から付けた名前」=「真名」という構成になるらしい。
つまり「オスカー」が皇帝自ら付けた名前で、「イグナーツ」が真名になる。
神聖バルド帝国では真名を公表していて、許可なくその名を呼ぶことで法的に罰則があるわけではないがやはり相手を怒らせる行為らしく、そのまま決闘になったりするとか。
呼ばれたくないなら公表しなければいいのに…。
正々堂々名乗ることが礼儀みたいなそういう風習なのかもしれない。
歴代皇帝が剣帝とか呼ばれるくらいだもんね、発想が脳筋っぽそう。
それから国の特色としては、積雪地方であり主食は芋でエールの生産が盛んらしい。
国民は多くが屈強で、奴隷制も根強くどちらかというと閉鎖的。
宗教も多神教で、信仰している神に女神クレアネージュはいないし精霊主も出てこない。
そのせいかはわからないが魔法使いが少なく、魔法技術方面はあまり発展していない。
その代わり見たこともない技術を使うらしいのだけど、詳しくはロリーナも見たことがないので知らないそうだ。
そういう情報があまり流れてこないのも閉鎖的な国柄と言われる所以だ。
まぁその見たことない技術って多分だけど科学技術じゃない?
この世界に魔法と科学以外の法則や技術が存在しなければだけど。
それはそれであるなら見てみたい気もするな。
「そして南のイムレラ連合国ですが、十年ほど前までは女王が治める歴史あるイムレラ国として栄えていたのですが、内乱があったらしく、女王の治めるイムレラと新たな王を擁立する新イムレラとで二分されてしまっているのです。イムレラ国は砂漠を旅する多様な部族が寄り合って作った交易の盛んな国柄で、我が国も頻繁にやり取りをしていたのですが…。」
どうやら女王の治めるイムレラ国との取引に新イムレラから横槍が入るようになり、延いては盗賊が出没するようになってここ数年は交易が上手く行ってないらしい。
新イムレラは交易交渉に置いて高圧的な態度が強く、商人たちもあまり取引をしたがらない。
ヴァリエントからの輸出品を安値で買い叩いたり、逆に新イムレラの輸入品に高額な値段を吹っ掛けてくるそうだ。
料理に欠かせない香辛料や、装飾から装備品などに必要な宝石類、砂漠地方のみの魔物から採れる魔石や皮類、特に高価値で稀少な魔銀の輸入が滞り、市場では高騰が進んでいるとか。
王国から女王の国へ使節団を派遣する年に数回の交易だけが現在最も安全な取引方法となってしまったそうだ。
すごい悪質なのビックリするよね。
まぁ国が荒れたら盗賊も出るだろうけど、新イムレラはそんなことして経済回ってるんだろうか。
あとヴァリエントの品で必要な物とかないの?大丈夫?
そんな無用な心配が浮かぶほど、他国に対してそこまで強硬な姿勢を採る国が珍しく思える。
現代の地球では国と国の連携が国連とかオリンピックとかで結構密だから、そんな国があれば周辺諸国から叩かれかねないものね。
それを成すのは通信の発達であり、技術の発達なんだから大天使は人間界の現状を維持してどうしたいんだろうか。
人間が技術を発展させ力を手に入れて魔族と争うことを危惧しているのかな。
よくわかんないけど、それも含めて一度聞いておいた方がいい気がした。




