第1話
「マジか。」
意識も視界もハッキリして口から出た第一声はそれだった。
仕方ないと思う。
瑞々しい草木や美しい花が広がる地にガラスの天井から陽が射し込む。
神殿を間取る敷地だけれど水路には透き通った水が流れ、せせらぐ音が耳に心地いい。
ここが天国だと言われればなるほどと納得してしまうことは容易だ。
けれど私の目の前にいる男は。
身長200cmはあるに違いない大柄でそれでいて涼やかな顔をした紫銀の髪をしたイケメンは、だ。
頭に竜みたいなつやつやの角が生えていて、真っ赤な瞳。
極めつけにファンタジーな闇っぽい鎧にマント、腰に剣。
「どこからどう見ても魔王です。本当にありがとうございまし―――」
「まだ物事は終わってはいないぞ?」
「心を読まれた。」
「口に出ていたがな。」
そう言って魔王はその整った顔に優しげな苦笑を浮かべた。
魔王!!
魔王!?
「先ずは自己紹介をしよう、ヒノメ ナナミ。我が名はルスダス=エストレラ。お前の察する通り、この世界で大魔王という地位についている者だ。」
大魔王様だった!!!
大天使の間違いじゃないんですかね?
「残念だが天使ではない。元勇者だがな。」
「マジかよ。」
強い。確信。
元勇者で今は大魔王様とか負ける気しかしない。
いやそもそも戦闘になるのか?
あれ?っていうか私はどうしてこんなファンタジックなところにいるの?
「お前は彼方の世界で死んだのだ。それはわかるな?」
無言で頷く。
確か私はトラックにはねられて死んだんだ。
ありがちと言えばありがちで、面白味もない死因だったなぁと我ながら思う。
まぁ、不満がある訳じゃないけど。
やることはやれたし。
「お前は、巻き込まれて死んだのだ。」
「…は。」
巻き込まれた、とは。
ルスダスが申し訳なさそうに私を見つめた。
しかしイケメン。
「ツクヤ マコト。あの男が女神に呼ばれたのだ。転移者として。」
ああ~。
「しかし邪魔が入ってな、すぐには召喚できなかった。そこへ運悪くトラックが来てお前があの男を助け死んでしまったというわけだ。」
「あらぁ。」
それはなんというか…。
残念だったな、というか。
まぁあいつが助かったならそれで。
だって私が助けなきゃ呼び出される前に死んでたわけで。
あれ?助かったよね?
「満琴は助かったんだよね?」
「ああ。お前のお陰であの男は問題なく女神の祝福を受けているところだ。私から会わせることはできないが。」
「あ、別に腐れ縁だから大丈夫。」
必要ならその内また会うだろうし。
家にしろあいつん家にしろそういう家系だからなー。
「話を戻すが、彷徨っていたお前の魂を保護させてもらった。勝手で済まないが、此方の干渉が原因で死んだのだ。責を負うのが道理と思ってな。」
心までイケメンなの?
大魔王なのに??
やっぱり大天使の間違いか。
「ヒノメ ナナミ。償いにならんだろうが、この世界、リーンヴェルで改めて生を謳歌してくれ。そのための支援は惜しまん。」
そう言って大魔王ルスダス=エストレラは胸に手を当てて紳士よろしく礼をし、正当派王子みたいな柔らかな笑みを浮かべた。
大魔王ってなんだっけ?