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黄泉の花  作者: cheee
第1章 戦う理由
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第1章2 『不思議の国のアイル』


「ねぇ、そこに誰かいるの?」


蹴られるかも知れない恐怖に堪えながら彼女の許しを乞うヨシトに対して彼女は遥か斜め上を行く言葉が飛んできた。


━━ え? 何て?


チラっと顔を上げ彼女を伺うヨシトは彼女がとった行動に困惑した表情を浮かべる。


なぜそのような捉え方をしたのかを分からないが白髪の彼女はヨシトと同じように正座をし、地面スレスレまで顔を近ずけだした。そしてヨシトと同じように、


「おーい!お金持ってません!勘弁してくださーい!」


と言い始めた。


もしかして……屈辱に侮辱を重ねたその行為は俺に喧嘩を買えと言ってるのか?

喧嘩なんて妄想でしかした事がない男に喧嘩を……? 妄想でさえいつもボコボコにされている俺に……? ━━ ムリムリ、俺にはできませんっっ!!


そんなヨシトの考えとは裏腹に彼女は、耳を傾け、うーん…と考えている。


「ねぇ、何も聞こえないよ?なんでかな? ジャンプしたら聞こえるのかな? ……そっか! ! よーし!!」


自問自答を繰り返した末、何かを納得した様子の彼女は急に立ち上がり、その場で飛び跳ね始めた。白いワンピースはヒラヒラと揺れ綺麗な白肌をチラチラと覗かせる。その姿にヨシトは鼻を伸ばしイヤらしい目付きになる。


もうちょい高く……あー、惜しい…… もう少しで……。


何度か飛び跳ねた彼女はダンッと強く地面を踏みしめた。のと同時に体が反射的にビクつき我に返り彼女の顔に視線を移した。


でも、どうやらヨシトの淫らな思考には気づいてはいない様子にホッとする。束の間に雄叫びに似た声を森中に響かせる。


「お金持ってませーん!!勘弁しださーい!!靴ははいてませーーん!!」


その声に驚き数羽の鳥がバサバサと飛んでいく音が聞こえた。


━━辺りは一瞬シーンと静まり返る。


「ぷっ、あははははっっ」


笑ったら蹴られるかも知れない。でも彼女の言動と行動は笑わずにはいれなかった。そんなヨシトを彼女が今度は口を開けて不思議そうな顔をする。


「笑ったら聞こえるの? じゃあ……」


何を勘違いしているのか、彼女はまたヨシトの真似をして笑い始める始末。


ただ、至って真面目な顔をしているのに「うふふふっ」と変な声をだし笑う彼女。喉まで『違うよ』とでかかったのにその変な笑い方が言葉をつくらせてくれない。


何故なら彼女はヨシトの笑いのツボに見事にハマってしまったから。


「はぁはぁはぁ、し……しぬぅぅ」


息ができないほど笑いが止まらない。


更に彼女が「何をされたの?」と周りをキョロキョロと見回すもんだからヨシトは本当に笑って死ぬんじゃないかと思うほど笑い転げた。


そんな状況の中ヨシトは思う。彼女はヤンキーではない。そう、俗に言う不思議ちゃんなんだろうなと。


「ふぅー、ふぅー」


息を整え笑いの壁も治まりつつあるなか、また笑わせられたら困ると思ったヨシトは聞きたかった事を口にした。


「ねぇ? ここってどこかな? ちょっと……道に迷っちゃったみたいで」


えっ?っと驚いた表情の彼女は、


「ここはどこって…… えーと……オリーヴァ領土の?えっとー、真実の森?のうんとねー……ヨミ様のお花だよ?」


よく分からない事を口にする。


「んー、違くてっ。本当の場所を教えて欲しいんだっ」


「本当の場所?えっとー、ヨミ様の━━」


「いや、やっぱり大丈夫!」


この子の思考はきっとこの世界にはいない。空想の世界に自分を置いてきてしまったに違いない。


でも困った。不思議ちゃん相手に話が進まないと、ここが何処だか分からない。


「ねぇ、君はエヌ?エヌだよね?でも何でここにいるの?さっき誰とお話してたの?私聞こえないよ?」


怒涛の不思議ちゃんラッシュ……

しかも俺をエヌって……


「俺エヌって人じゃないよ?人違いじゃないかな?」


「え?でも…… ここにはマガは来れないし、髪も黒いし、だとすると君はエヌとしか言えないもの!そう君はエヌ!!」


参ったなぁ…… エヌって人俺に似てるんかなぁ?


不思議発言連発に人違いまでされているヨシトは苦悩する。


「あのね?俺はエヌって名前じゃなくて、ヨ・シ・トって言うの!だから君の知ってる人じゃないよ!?」


「ヨシト??」


やっと人違いに気づいたかと「うんうん」と頷くヨシトは驚愕した。


「そんなのいるわけないじゃない!!馬鹿にしないで!!」


━━━へ?

俺を否定する上に逆ギレですか?


流石にヨシトも苛立ちを覚えた。でも不思議ちゃん相手に口喧嘩するのも気が引けるなと思いその場では「ごめんなさい。ワタクシエヌデス。」と認める事にした。


「やっぱりエヌだ!!そーだよ!!」


明るい声でそう言った彼女は悪気も疑う事もしないらしい。


「でも何でここにいるの?誰とお話してたの?」


また彼女のペースに巻き込まれると不思議の国に連れてかれてしまうと思ったヨシトは彼女の問いを無視して自分のペースに持ち込む事にした。


「ねぇ、君名前は?何でここにいるの?」


「私の名前はアイル。ここにはお父様に会いに来てるの!!」


「お父様?」キョロキョロと見回すがヨシトとアイルという子しかいない。


お父様がいるなら真面な話が出来るのだが、


「このお花はね?」とアイルの視線は大きな花を見ている。どこか悲しげでさきほどの覇気がどこへいってしまったのかと疑うぐらい。でも次の言葉で察する事ができた。


「ヨミ様のお花は、死んでしまった生き物全ての魂を宿すと言われているの。その魂は百年をかけてゆっくり、ゆっくり、昇ってゆき、辿り着いた先でヨミ様のお力によってあるべき世界へお導になられる。この世界とは別の場所へ…… そう伝えられてるの…… 百年はまだここに…… 私の父が…… だから!!」


さっきまで悲しみに溢れた顔とは一変して力強い眼差しはヨシトに向けられた。

そして「私も声が聞きたいの!!」とヨシトに歩み寄る。

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