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黄泉の花  作者: cheee
第1章 戦う理由
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第一章1 『白髪の少女』


知っていると言うのは少し違うかもしれない。


だって、ソレは現世で存在するものではなくファンタジーな漫画の世界で創られた設定の一つにすぎないはずなのだ。


だから、それがここにあるのは不思議とも不自然とも言える。


綺麗には見える。感動すら覚えた。


ただ今は確認のためと二度壁に触れてしまった自分への後悔の方が大きく勝っていた。


いつそんな状況を作りだされていたのか分からないほどの間だったが、


体が動かない……


もがいてみるがやはり自由を失っている。まるで自分がコンクリートに埋まられ、肉体外で分厚く固まったコンクリートが体の自由を奪っているような感覚。


それも首より上だけが動くという何とも生き地獄に近い状況だ。


目をぱちぱちと見開き何とかならないかと色んな方法を模索する。


「あー、あー」


口を開き声が出せるかと試したが問題なく声は出るようだ。でも息を大きく吸うと肺が圧迫されるように苦しくなる。


それでもヨシトは息をこれでもかと吸いあげる。苦しい……けど、どうにかしないといけない。限界まで息を吸いソレを声とともに吐き出した


『たすけてぇぇええー』


惨めで、情けなくて弱々しい言葉かも知れないが今の状況を打破できるなら何でも良かった。むしろその言葉が今の状況では一番正しい。


だから何度も何度も声が枯れそうなぐらい叫んだ。


「た……た……すけ……」

けれどその悲鳴にも似た声は外に届く事はなく蔵の中に響くだけだった。


そして、プツン ━━っと切れたようにヨシトは意識を失った。


おそらく数分だろうか。


大の字に寝転がりながり、瞼の裏に青白い光がまだ焼き付いて見えているヨシトはあれからそんなに時間がたってはいないと判断した。


それは同時にあれが夢ではない事をも証明させられた。


「よっこらせ」っと声を出し上体を起こすと、指先から足先まで目の見えるところに異変はないか確認するが特に変わった様子はない。


イケメンの顔は流石に鏡がないと確認出来ないがイケメンは何をしてもイケメンだから問題はなし。と一応、怪我がないかは手で確認はする。


でも俺になんの異変もないとしたら、あの魔法陣はいったい何だったんだろうか。俺に何をしたかったんだろうか。もしかしたら魅せただけなのか?


俯き顎に手をあて考えるが、今のヨシトにはそれが分からなかった。


そんな時グゥーっと言う何かを欲求するような音が蔵に響いた。


「朝から何も食ってねぇや、腹減ったなぁ」


朝起きて、寝坊したからと朝食を取らず家を出てそして帰ってまた昼過ぎまで二度寝して今日はまだ食事にありつけていないことをお腹を摩りながら今日の出来事を振り返っていた。


「そう言えば、婆ちゃん何か探してくれって言ってたな? なんだったっけか?」


うーん…… 思い出せない……

けどまぁいいや。


思い出せないなら大した事は無いだろうし、婆ちゃんにまた聞けばいいや。と


重い腰を上げ膝に手を付きふらつきながら立ち上がり、その脚で蔵を後にした。


蔵を出たヨシトは一歩、二歩、三歩、歩いてまた、蔵に引き返した。忘れ物をしたわけではない。逆に今を忘れたいぐらいと扉の前に立つヨシトの顔はどこか青ざめた表情をする。それでもまた、蔵から出てみる。


やっぱり森だ……


寝ぼけているのではないかと自分の頬をひっぱたいて見るがそれは変わる様子はなかった。


確かに家には木が生えてはいる。けど、こんなちょっと歩けば戻れません的な量な木々達はヨシトが知るかぎりではない


状況は飲み込めてはいないが、仕方なくトボトボと蔵付近を歩いて自分の家の位置を探ってみる。


「この場所にあるはずなんだよなぁ」


蔵と今自分が立つ位置を確認するがヨシトが見ている場所にはあるはずの家はなく、やはり木しかない。


それも、ここに何年も前から植えられてました。と言わんばかりの立派な木だ。


どうしたもんかとさっきから不思議続きの出来事に混乱を隠せないでいるヨシトはとりあえずちょっと周り見てみるかと歩きだした。


暫くしてヨシトは木々の隙間から日差しがもれている場所に気がつき小走りでその場所に駆け寄った。


森を抜けたら道路に出るか町に出られるかも知れない。そう思ったのだが……


そこは人工的なのか自然現象なのか分からないが円状に窪地が広がっていた。


広さはおよそ半径一キロぐらいだろうか、その場所だけを見れば草原と言えるような場所なのだが、それを見事にかき消すかのように、窪地のど真ん中にジャックの豆の木みたいな超ド級の木が生えている。


「でっかい木だなぁ。何年経てばこんなに立派な気になるんだ?」


空を見上げても一本の幹がズンと立ち枝の分かれ目も確認出来ないほど高く成長していた。


「木じゃないよ?お花だよ?ヨミ様だよ?あなたは誰?なぜここにいるの?どうして空を見てるの?あなたはエヌ?」


やたらと質問の多い声にヨシトはチラっと目線をやったがすぐに蔵の方へ振り返り捨て台詞のように


「ば…婆ちゃんの用事すませないとなぁ……」と蔵に歩きだした。


でも、「ねぇ、どこいくの?」とヨシトの目の前にその子は両手を広げここから逃がさないとばかりに立ちはだかる。


ヨシトと同い年ぐらいだろうか、白髪の髪は腰まで伸び、その髪に似た白いワンピースに身を包み、右手にだけ白い手袋をしている。そして何故か裸足。


可愛らしい顔はヨシトのタイプではある。だけどヨシトの脳裏にある一つの固定観念がその子の存在を恐怖として捉えている。


白髪=ヤンキー。

ヤンキー=絡まれた……


二ヶ月前に起きた出来事を思い返すヨシトは急に腰を下げ膝まづき、両手を地面に付けその子の足下すぐ前に頭をつけた。


その状況を打破すべく大声で叫ぶように言った。


「お金は持ってません。勘弁してください。本当です。なんならジャンプもします。靴の中も調べてもらって構いません。だから……勘弁してくださいっ!!」


二ヶ月前……ヨシトは同じをような事を言っていた。それは、学校帰りの事だった……


友達に誘われ地元のゲームセンターへと訪れていたヨシト達はその時流行っていた太鼓の鉄人に夢中になっていた。


「すげぇ」とか「うまぁー」とか


毎日のようにそこへ通い続けたヨシト達は周りの人達を立ち止まらせるほど太鼓の鉄人を極めつつあったのだ。


「おい!お前らいつまでやってんだよ?俺達ずっと終わるの待ってんだけど?」


順番待ちしている事に気付かず夢中になっていたヨシト達に一人の茶髪のチャラそうな男の人が睨みながら声をあげた。


「すいません。すぐ退きます。」


そう友達Aが対応しヨシト達はそのチャラ男を含む五人組だったらしい方達に譲り、また順番待ちしようと後ろに並びチャラ男のプレイを見ながら終わるの待っていた。


その中にいた金髪ですごく可愛い女の人にヨシトは見とれていて気づかなったのだが、チャラ男のあまりの下手くそなプレイに友達Bが思わず声をだして笑い出したのだ。


その笑いに反応しチャラ男はこちらを向き「誰だ笑ったやつは」と言いながらもなぜかヨシトを睨みつけている。


……え? 俺じゃない……


横にいる友達を見ると俯いて震えている。もちろん、張本人も同じだった。


そしてその男はヨシトの前に立ち「お前ちょっと来い」と強制的に店の裏につれてかれた。


「お前さっき笑ったよなぁ?」


裏へ移動するとチャラ男はすぐにヨシトの胸倉を掴み怒りをむき出しな表情で聞いてくる。


もちろん笑ったのはヨシトではない。

でもヨシトの中にもプライドがある。


友達は売れない……


その心から自分がやった事を認めるように謝罪をした。


「すいませんでした」


頭を下げて心からお詫びの気持ちで謝るヨシトに「じゃあ」と言って胸倉に掴んだ腕を離した。


そしてすぐにチャラ男らしい言葉が飛んでくる。


「金出せよ!今持ってる金全部だしたら許してやるよ!」


やっぱりそれか……でもそれで済むならとヨシトはポケットから財布を取り出し、今手持ちの二千円をチャラ男に渡した。


「なんだよ、こんだけかよ?」とか言いながらもポケットに二千円を入れている。


今月のお小遣いが……


そんな気持ちでいるヨシトにもう一声と言わんばかりに


「おい!!ジャンプしろ!!」


「え? ジャンプですか?」


「まだ持ってねぇか確認すんだよ!まぁ持ってたらテメェはタダじゃ済まねぇけどなっ」


まぁ持ってないから大丈夫かと指示に従ってジャンプをする。


案の定何も出るはずがなく、チッと舌打ちをするチャラ男だがどうやらお金はこれ異常の追求を諦めてくれたみたいだ。


「もういいや。許してやる。土下座して謝ったらな」


笑を浮べながら屈辱的な事を味わせてやろうとしてるチャラ男だけどヨシトは土下座には抵抗はなかった。友達の事と自分の事は違う。だからヨシトは膝まづいて頭を下げて謝った。


「すいませんでした!!勘弁してください!!」


「フッ、つまんねえやつっ!行こうぜ」


土下座しながら耳にもう許してくれたらしい言葉が入り、ホッとする。でもそれが顔に出てしまったらしく、


「笑ってんじゃねぇぇ」


その声と同時にヨシトは誰かの蹴りを顔面でもろに受けてしまった。


「うぐっ」


蹴りは鼻に直撃し涙目になりながら痛みに耐える。鼻血がポタポタと鼻を抑える手を伝い垂れる中、視線を蹴ったであろう本人に目をやる。


そこにいたのはヨシトが可愛いと見とれていた金髪の彼女だった。


「おめぇ、さっきから見てたら私らの事ナメてんだろ?余裕ぶっこいてんじゃねぇよ!」


彼女は鼻血で手が真っ赤に染まるヨシトに顔を近づけながら私らの顔覚えとけと言い残しその場を去っていった。


それから、ヨシトにとって金髪の女は危ないという定義が出来上がった。


だから目の前にいる彼女もまた、白い髪をしたヤンキーなのだ……

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