神々は正気を取り戻し、行動に出る。
※少年は願い、少女は求めるシリーズの17弾
ピリカ、ピリカ。ピリカ。
光の神であるピリカを大切にしなければ。ピリカが今日は私の夫と一夜を過ごすという話だから、送り出さなければ。ピリカに愛されるなんてとても光栄なことなのだから。
ピリカを喜ばせることが一番大事なことで、ピリカと一緒に歩むのが私たち神々の未来で。ピリカが喜んでくれたら嬉しくて。ピリカが笑ってくれると嬉しくて。ピリカ、ピリカ、ピリカといつでも私はそれを考えている。
それが、当たり前だった。当たり前、当然のこと。
なのに最近、違和感が生じる。
頭が痛くなってくる。
この状況が、おかしいのではないかと、めまいがしてくる。
そんなこと、考えるのがおかしいのに。
こういう状況は、八百年前からの、当たり前なのに。繰り返される、ことなのに。
自分の夫神が、ピリカと一夜を過ごすのは当然なのに。ずきずき、する。もやもや、する。
八百年前、八百年前……それより以前から私は存在している。以前、私は、何を、何を、どんなふうに、どのように……生きていたんだろう。
どうして、私は過去のことを思い起こしているのだろう。
私たちの神界に、ピリカがいて、神界でピリカと共に過ごせているだけでも幸せなのに。ピリカが、私たちに笑いかけてくれるだけでいいのに。
地上……どうして、地上のことが頭に浮かぶのだろう。そんなもの気にしなくていいって、ピリカがいったのに。何も考えなくていいと、そんな風に。ピリカが。
でも、あれ。どうして。
私は。人間が。好き。いえ。人間なんて。気にしない。
頭が痛い。
何かあった時、×××に相談していた。誰、だっけ。
何かあった時、×××が笑って聞いてくれた。誰、だっけ。
×××は、フランと仲が良くて。フランは。そう、フランは……。
ピリカの誘いに乗らなくて。ピリカは、とても不機嫌で。フランは、×××が、あれ。そう、私。私が。私が――――×××を。
『どう、して』
ウィ××が、私に、言った。
封印。そう、封印。ピリカが。ピリカが……。
『そう、なの……ね』
皆で、××ントを。力を、注いで。
ピリカが、笑わなかったから。不機嫌な表情を浮かべていたから。ピリカにそんな顔をさせるなんていけないことだからって。私は。
ウィン×を呼び出して。
あれは、正しかった。正しい行動のはず。なのに、どうして思い起こすと、私は――――。私は、胸が苦しいんだろう。
封印。それをして、今まで思い出すこともなかった。記憶から、不自然に、消えていた。
だけど、だけど。
私は――――ウィントが、大切だった。
その気持ちが、ふと、思い出された。ずっとずっと、ウィントはピリカの敵だから、敵なんだ。何をされても当然なんだという気持ちだったのに。
どう、して。
どうして。私は―――。
ウィントを、はめてしまったのだろう。私が。私が……ウィントを、呼び出して。はめて。封印。
叫びたくなった。
幸せだった八百年間が嘘のように、消えていく。
幸せは偽りだったのだと、頭の中で、冷静な自分がささやいている。
それは、私だけでは、なかった。
「……ねぇ、私、ウィント様を」
「ウィントは」
「今の神界は……」
「どうして、私は夫を」
そんな声が神界のあちこちで囁かれるようになった。
だって、おかしいもの。
夫である相手と、ピリカが夜を共にするのが当たり前だと、そう思い込んでいたなんて。ただの浮気でしかないのに、それをピリカが相手だからと……。
それにウィントを。ウィントを、封印してしまった。でもどうして八百年間も幸せだと思い込んでいたけれど、それがどうして解けたのだろう。
そう思って、私は、もしかしたら――って思った。
そして地上を見たら、大好きだった彼女が居た。ウィントが、いた。彼女の娘と共に。そして私たち神々が下界に顔を出さなくなって、神々のことが忘れ去られた場所で、ウィントが、神としての信仰を取り戻そうとしていた。
神が世界に現れなくなった世界で、神が世界にあらわす。そして八百年前の世界を取り戻そうとしている。その動きがあったからこそ―――、ピリカの力が弱まったのだろうか。ピリカは、下界を見ていない。ウィントが復活したことも恐らくわかっていない。そして、私たち神々が、ピリカを絶対視していた現状を訝しむようになったことも。
ピリカは、私たちの変化に気づいていない。だから、夫のことも気にせず誘っている。でも、夫も、おそらく今の状況に違和感を感じている。ピリカは顔のいい男を周りに侍らせる事が好きだから、夫を離しはしなくて。夫が正気に戻りかけてもピリカの側を離れていないのは、ピリカに気づいている状況を悟らせないためだと思う。
なら、今のうちに動こう。ピリカが動く前に。ピリカは力を失ってきたとはいえ、神々の全てを……ピリカを第一に考えるように出来ていたほどの力の持ち主なのだ。ピリカが下界に興味がなくてよかった。下界に興味があって、ピリカが信仰をどんどん強めていたらウィントは完全に消滅していただろうし、私たちが目を覚ますこともなかっただろう。
「ピリカを、どうにかしよう」
誰かが言い出した。ピリカは私たち女神に対して関心はほとんどない。だからこそ、私たち女神が今のタイミングで動くべきだ。
ピリカをどうにかしなければならない。そして、ウィントを迎えなければならない。ウィントを封印してしまったのは、私たちの罪。ピリカの力でピリカの望むままに動いていた私たちの罪。
信仰の力で生きている私たちが下界をないがしろにしてはいけないのに。八百年も正気に戻れなかった罪。ピリカの強制力があったとしても、ピリカの力が強かったとしても、八百年も、下界に姿を現さなかったのは私たちの罪なのだ。
そして私たちは行動に出た。
私たちの決定はピリカを封印することだった。封印してその後消えるか、復活するかは人々の信仰次第だろう。……消滅という選択肢もあったが、人々の信仰心にゆだねるべきだろうとなったからだ。
その過程でフランが正気のまま八百年も過ごしていたのだと知った。フランはピリカに人を魅了する力があるだろうといった。それはピリカより力が強いウィントやフランにはきかなかったが、他の神々にはきいてしまう恐ろしい力だった。フランは、その力を封印か、消滅させたうえで、ピリカ自身を封印させるべきだといった。そうしたならば、ピリカ自身が復活したとしても魅了の力はないから問題はないと。
私たち神々が目覚めたからこそ、神々が力を合わせればピリカの力を封印出来ると。
――フランが、ピリカを誘った。夜の誘い。もちろん、本気でやるわけはない。それは罠だ。
ピリカを封印する儀式の中で、ピリカは「どうして!!」と叫んでいた。
本当に、ピリカは自分の思い通りになることを少しも疑っていなかった。自分が弱者の立場になることを可能性があることを少しも理解していなかった。
「―――さようなら、ピリカ」
そして、ピリカは、長い間私たち神々のトップにいた光の神は私たちの手によって封印された。
――――神々は正気を取り戻し、行動に出る。
(神々たちは正常な思考を取り戻し、ピリカの封印へと行動に出た)