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絶望を告げる刻

作者: 多呂吉

9月も半ばを過ぎたのに朝からむしむしと暑い1日だった。

低気圧の影響で張り出した雲が空を覆い陰鬱とした空気が街を包み込んでいる。


仕事を定時で切り上げ家路についたが会社を出た頃から下腹部に便意を告げる張りを感じていた。一瞬会社に戻る考えがよぎったが家までもつかも知れないし途中トイレがないわけではないだろうからそのまま足をすすめた。


しばらく歩くとますますと腹の張りは強くなり大事をとり目に付いたコンビニに飛び込んだ。

しかし、さりげなく店内を見渡しトイレを探したがトイレを示すマークはなかった。

店員にトイレの場所を訪ねるとトイレは貸してはいないらしくにべもなく断られた。


店を出ると少し離れた場所に別のコンビニがあり中に入るとトイレはすぐにみつかった。

ホッとして扉をあけると異臭が鼻を突き目に映った光景に愕然とした。

洋式便器の便座には飛び散った汚物がこびり付き個室のあちこちには使い終わったような紙が散乱している。

先に入った奴が間に合わなかったのか床にはこぼした汚物もあった。

とても足を踏み入れる気になれず店をでた。


そうしているうちに腹の張りは段々と強くなり痛みが混じりだした。

すこし焦りなから歩くと路地の入り口にトイレのマークを見つけその路地に入った。

狭い路地を抜けると少し開かれたスペースがあり飲み屋が軒を連ねていた。

それらの店の共同の公衆トイレなのだろう。

救われた気持ちで磨り硝子の入った格子扉をあけ中に入るとまたもや愕然とした。

何かの工事の途中なのだろうかトイレの影も形もなかく無慈悲に四角い空間だけが広がっていた。

腹の痛みは段々と大きくなり危険な領域に近づいている事を告げている。


足早に入ってきた路地を抜けるとカフェの看板をが目に付き飛び込んだ。

そこは古民家を改装した和モダンな洒落たカフェで普段なら絶対に入らない雰囲気の店だ。

気恥ずかしさから便意を催してる事を気づかれないようにコーヒーを注文し運ばれてくるのを待ち一口つけてからトイレに立った。

入り口とは反対の裏庭に面した場所にあるトイレは昔ながらの作りでオープンになった小便器の横に大便用の個室があった。

古めかしい木の扉をあけると息をのんだ。

先客が居たのだ。

白いシャツを着た背中を丸め、剥き出しのケツをこちらに向けしゃがみ込んでいる男は顔をこちらに向け黒縁の眼鏡の奥では眼を白黒させていた。

「失礼!」そう言って扉を閉めると急いで店内に戻った。

その男が出てくるのを待つ気はなかった。

入れ替わりにトイレに行けばあの男が店内で一部始終を喋るかもしれない。

勘定を投げ出すように払うと先を急いだ。

腹の痛みはもはや我慢ならない切羽詰まった状態を告げていた。


小走りに走った。

トイレ!トイレ!トイレはどこにある!?

トイレにいっトイレ!下らないダジャレを頭の中で唱え気を紛らわせようとするが襲いかかる痛みは容赦なかった。

出る!一瞬でも気を許したら小さな放屁でも実を伴い出てくる。


額に脂汗を浮かべトイレを探した。

やがて公衆トイレなのか?看板を見つけると飛び込んだ。

先ほどの公衆トイレとおなじ磨り硝子の扉をあけると今度はちゃんとトイレの体をなしていた。

手前に並んだ奥に個室が二つ。

手前の個室は使用中の表示が出ていたので奥の扉をあける。

ここでまたしても驚愕した。

どんな造りになっているのか?かなり長い廊下の様な個室の遙か奥の奥に小さく便器が据えられている。

もうそんな事にはお構いなしに扉をしめ鍵を下ろすと奥の便器に向け走った。

走りながらベルトを緩めチャックを下ろした。


が、どうした事か一向に便器にたどり着けない。

部屋の奥にある小さな便器は小さいままだ。

小走りに駆けながらようやく便器にたどり着いた時全てを悟り絶望だけが押し寄せた。

小さく見えていた便器は本当に小さな小さな便器だった。


=おしまい=


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