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たびびと  作者: マグロ頭
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三話前編 星祭の夜

 庭に面したガラス戸を開けると、奈緒はそっと縁側に腰を下ろした。奈緒の隣を、穏やかに晴れた空を吹き抜ける初夏の風が静かに通り抜けていく。軽やかに、爽やかにそよぐ風は、新鮮な空気を家の中へと運んできてくれていた。

 みずみずしい草の香りが、ほのかに家中を満たしていく。埃を被った名画をそっと撫でるように、家の中の空気が変わっていく。その心地よさは誰もが思わず表情を緩め、和んでしまうほどの安らぎを運んできてくれているはずだった。

 一番よく風を受けているはずの奈緒の表情は暗く沈んだまま、その瞳はぼんやりと庭に敷き詰められた芝生を見ていた。

 どこからともなく聞こえてきたハトの鳴き声が庭の中に響く。音と空気が混ざり重なる独特の低音と高音。その二つを繰り返す鳴き声は、しばらくの間大きく庭に木霊し続けていたが、やがて陽射しを浴びた朝靄のように跡形もなく消えていった。

 奈緒がゆっくりと顔を上る。曇りガラスのような精気のない瞳が緩慢な動作で庭の中に視線を巡らせ始める。奈緒は鳴いたハトの姿を探していた。とても大きな鳴き声だったから、近くにいるんじゃないかと思ったのだ。

 庭の中を一回り。移動した視線は、どこにもハトの姿を捕らえることはなかった。

 どこにいるんだろう、と奈緒は思う。こんなに大きな鳴き声は聞いたことがなかったのだ。屋根の上にいるのかもしれない。もしかしたらあたしの頭の上の屋根に止まっているのかもしれない。立って見上げれば、目が合っちゃうかもしれない。

 けど、そんなのどうでもいいや。

 そう結論付けると、奈緒はまた俯いた。光に照らされて力強く根を張る芝生を意味もなく見続ける。視線は緑色に溢れた芝生を見つめているのに、奈緒の脳裏には少しだけ雪の積もった庭の景色が浮かんでいた。その雪の上を元気よく走り回る一頭の犬の姿。その犬が振り返って、奈緒に近づいてきて、首を傾げて見上げてきて……。

 じんわりと奈緒の視界が滲み始める。ぜんぶ、ぜんぶあたしのせいだ。あたしがあんなに怒っちゃったから……。どこまでも先の見えない後悔に、奈緒はまたいつものように足を踏み入れようとしていた。

 そんな奈緒を呼び止めようとするかのように、再びハトが鳴き声を響かせた。俯いていた奈緒は見えない糸に引かれるようにして顔を上げる。奈緒は庭の一点を見てぴたりと動きを止めた。

 視線の先に、一本の立派な銀木犀の木が立っていた。庭の壁際に立つその木の樹齢はおよそ四十年。すっと、決して折れることのない背筋を長らく伸ばし続けてきた木は、屋根を越えてもなお高く空を目指す力強い木だった。

 そんな銀木犀の木に生い茂る葉の間から、ハトの鳴き声は響いてきていた。繰り返す、深みのある高低の音の波。縁側に座ったまま見上げる奈緒は、姿の見えないハトの鳴き声に温かな優しさと微かな不安が混じっているような気がした。

 少し強い風が吹く。優しかった風がちょっとだけ荒々しく変貌を遂げる。目を閉じ、暴れる髪の毛を頬に感じながら、奈緒は銀木犀の木がざわざわと音を立てるのを聞いた。

 突風が止んで、奈緒は目を開けた。見上げる銀木犀の木は、何もなかったかのように、しゃんとその場所に立っていた。

 見上げる銀木犀の下から、鳴き声がした。奈緒はゆっくりと視線を移動させる。根元に、座ったままじっと奈緒の方を見つめる猫が一匹いた。灰色と黒の毛が綺麗な虎縞模様を作っている大きな身体。猫は毎晩のように庭にやってきては、奈緒や奈緒の両親から晩御飯を貰っているマカロニだった。

 よく来ては飼っていた犬のロビーと遊んでくれた猫。じゃれあう犬と猫の姿はとっても可愛くて、奈緒は慣れない手つきながらも父親のデジタルカメラでよくその光景を撮っていた。

 かわいくて、何となく手を出したくなってしまいそうになった光景。でもその姿を見ることは、もう出来ない。そう思った奈緒の表情に暗い影が射した。

 そんな奈緒の表情の変化を見てか、猫は音もなく立ち上がると、まっすぐに奈緒の元へと歩み始めた。しっぽをピンと立てて、一歩一歩奈緒に近づいていく。そんな猫の姿を、奈緒はただ見ていた。

 猫は奈緒の足元までやって来ると一度だけ鳴いた。左右で色の違う眼が奈緒を見上げていた。

 奈緒は屈み込んで猫にそっと手を伸ばす。細い奈緒の腕では少し辛かったが、目の前に猫を持ち上げた。

 だらりと垂れ下がった両後ろ足と、不機嫌そうな瞳。その姿に奈緒は思わず猫を抱きしめた。そっと優しく、その温かさを身体全体で共有するように。抱きしめられた猫は、少し居心地が悪いのか目を細めていたけれど、黙り奈緒にされるままにじっと抱きしめられていた。

「マカロニ、あたしロビーにひどいことしちゃった」

 呟いて、奈緒は猫を膝の上に置いた。開放された猫は、ひょいと奈緒の膝から、奈緒の隣のスペースに移動した。立ったまま振り返り奈緒を見つめる猫。しっぽがゆらりと動く。数秒の間、そうやって猫と見つめ合っていた奈緒は、その瞳の奥に深い温もりが横たわっているような気がした。

 ハトの鳴き声が再度庭に響く。奈緒と猫はその声に引きつけられるかのようにして、同時に銀木犀の木を振り返る。ざわめき合う銀木犀の葉の調べが、庭に降り注いでいた。

 麗らかな初夏の午後。ぼんやりと、眠りの渦に飲み込まれてしまいそうな陽気にも関わらず、奈緒の先に広がる庭には何かが足りていなかった。それが何であるのか、奈緒も猫もハトも、もちろん奈緒の両親も知っていた。まるで最後の一ピースが足りないジグソーパズルのように決定的な欠如。周りが白ければ白いほどに目立ってしまう黒いシミのように、ロビーがいないという現実は奈緒たちに暗い影を落としていた。

 リビングでノートパソコンを前に椅子に座っていた奈緒の母親は、縁側に座ったまま、庭を見据える猫を優しく撫で続ける奈緒の背中を見つめていた。その頬を、起動した、規則的に変化を続けるスクリーンセーバーが薄っすらと照らしていた。

 口からそっとため息がこぼれ落ちる。一週間前、買い物に出かけていた間に起きてしまった出来事が未だに尾を引いていることに、母親は心底困り果てていた。

 その日、一体何がビングで起こったのかを母親は正確に把握してはいない。帰宅した母親が、物があちこちに散乱したリビングで見たのは、涙を流しながらも怒り狂っていた奈緒の姿だけだった。

 しゃくりあげながら鼻声で怒りをあらわにしていた奈緒が抱きしめていた、見事に綿がはみ出してしまっていたクマのぬいぐるみ。七歳の誕生日に両親が買ってあげたそのぬいぐるみは、今はもうしっかりと完治してソファーの上で寝転がっている。その日のうちに母親が縫って直したのだ。そう、ぬいぐるみは完璧に直してあげた。奈緒が大切に、大切にしていた宝物の姿は、どうにか元に戻らせたのだ。

 母親はまっすぐに天井を見続けるぬいぐるみを見る。抱きしめられることのなくなってしまったぬいぐるみは、少しだけ寂しそうな表情をしているような気がした。母親はまた奈緒の背中を眺める。

 あの日から、笑顔が目に見えて減ってしまった奈緒。始めはぬいぐるみを破ったロビーに対する怒りで少なくなっていた微笑は、しかし日が経つにつれて、その理由をがらりと様変わりさせていた。

 母親はここ数日の間奈緒が何度も見せた涙を思い返す。あたしのせいで、ロビーはいなくなっちゃたんだ。あんなひどいこと言ったから。あたしのことキライになっちゃったんだ。そう、何かに取り付かれたように繰り返していた奈緒は、その小さい身体に巨大な罪悪感を抱え、その重みに徐々に潰されようとしていた。

 一週間前のあの日から、奈緒の家の中にロビーの姿はない。いなくなってしまった愛犬の存在を考え、母親はまたため息をついた。

 一体どこへ行ってしまったというのだろう。八方、考えられる場所には電話をかけ、歩いて探し、保健所にも連絡を毎日のように取っているというのに、ロビーの行方はまったくつかめていなかった。

 まるで神隠しだ。犬の神隠し。

 思って、母親は少しだけ笑った。まったく可笑しな話だ。単なる犬の失踪なのに。大袈裟と言われれば、その通りなのかもしれないと母親は思った。

 でも、可笑しな話ではあるが、手詰まりの色が濃厚になる現状では、そんな一見馬鹿げた考えも、真実味を帯びて母親の脳裏を掠めるのも事実だった。

 夫は、ちょっとした家出だろうと、言っていた。きっと帰ってくる。すぐに帰ってくるはずだと。だが、子犬の頃から室内で飼っていた犬が、一週間も帰らないなんてことがあるのだろうか。大切に、第二のわが子のように育ててきたというのに、自分の家に帰ってこないなんてことがあるのだろうか。母親はそんな疑問を抱かずにはいられなかった。

 そして日増しに這い上がってくる事故という可能性。もはや明確な映像となっていたその二文字は、母親の中で存在を叫んでいるようだった。

 毎日あのクマのぬいぐるみを抱きしめて、満面の笑顔を見せてくれていた奈緒。ロビーと楽しそうに遊んでいた奈緒。そんな我が子たちの、何ものにも変えがたい大切な、大切な表情。そんな幸せの具現ともいえる光景はもう二度と見ることが出来ないのだろうか。母親の目尻にじんわりと涙の粒が浮かんでくる。

 母親はソファーのぬいぐるみを見て語りかける。あの日、一体ここで何があったのだろう。ロビーはどこへいってしまったのだろう。ねえ、知らないの? 何でもいいの。何でもいいから、何か教えて!

 決して声にならない思いは、深く沈黙の中に積もり重なっていくばかりだった。

 頭を振って、母親は窓辺に座る奈緒の背中に視線を向ける。その背中が今現在背負っているのだろう苦悩を考えて、ズキリと胸が痛む音がした。

 ああ、このままではいけない。私も奈緒も心が病んでしまう。母親は俯きそう思うと、滲んだ両目を拭ってパソコンのマウスを操作した。微かな希望に願いをかけて、インターネットで情報を得ようと思ったのだ。

 ふと、開いた検索サイトのニュースに目が移った。

 『今夜八時より、ペルセウス流星群到来!』

 大きく書かれたロゴに、母親は自然とマウスを移動させていた。記事によると、流星群に併せてちょっとした祭りが近所で行われるようだった。

 行ってみようか。そんな思いが母親の中に生まれた。たぶん、このままでは私もあの子も潰れてしまう。私はともかくとしても、あの子が潰れてしまうのは我慢出来ない。気分転換が必要だ。……ならないかもしれないけれど。でも、こうしてただ待つだけの日々を送らせていてはダメな気がする。うん、そうだ。行ってみよう。

「ねえ、奈緒。ちょっといいかな?」

 決心した母親は椅子から立ち上がると、出来るだけ明るい声でそう奈緒に話しかけた。後悔と罪悪感に囲まれたままじっと帰りを待つ今、少しでも気を紛らわせたかった。


      ☆


「すっごい人ねえ」

「今年は晴れてるからな。よく見えるらしいからみんな来たんじゃないかな」

「……だからってこんなに集まらなくてもいいと思うんだけど」

 七時。空に広がった茜色が、深まってきた濃紺の夜空に飲み込まれようとしていた時刻に、奈緒を連れて奈緒の両親は流星群の会場となる河原にやって来ていた。

 辺りは思った以上の人で混雑していた。絶え間なく人が歩き続ける土手の歩道。幅三メートルほどあろうかというその道は、人で埋まってしまいそうな勢いだった。早足で歩き去っていく男女。ゆっくりと手を繋いで歩く家族連れ。大きな声で笑いながら歩くグループ。そんな人ごみの中を、奈緒たちは歩いていた。

 見れば、いたるところにいろんな屋台が出ている。側を通れば、焼ソバやたこ焼きの焦げるソースの匂いや、タイヤキの甘い香りが漂ってくる。おもちゃ屋や射的、金魚すくいの屋台の近くには子供たちのはしゃぐ声が溢れていた。

「なんだかお祭りみたいな感じね」

 見渡して母親はそうぼやいた。同時に少しだけ気が楽になっているのを感じていた。

 人ごみも時にはいいものなのかもしれない。母親は思った。人はひとりになればなるほど、深い闇に足を浸してしまいがちになる。騒がしい喧騒の中では、そんな暇がなくなってしまう。流れに取り残されないように歩みを進めているだけで、心は虚無に静かに落ち着いていくのかもしれない。

 これならきっと奈緒の気も紛れるのではないだろうか。そんなことを思って、母親は娘の表情を上からそっとのぞき見た。その瞳に少しだけ輝きが戻っているような気がして、母親は胸を撫で下ろした。よかった。たとえこの時間がどれだけ短いものだとしても、奈緒の罪悪感が少しでも薄れる時間を持つことが出来たことが素直に嬉しかった。

「な、奈緒。なんか食べたいものないか? 何でもいいぞ。食べたいもの言って。父さんが買ってくるから」

 そう唐突に父親が奈緒に話しかけた。しかし奈緒は穏やかに響いたその声に返事をしなかった。そんな奈緒の様子を大して気にするでもなく父親は辺りを見渡して、まるで子供のようにはしゃいだ声を上げた。

「お、おお。わたあめもあるじゃないか。うまいよな、あわたあめって。父さんも子供の頃大好きだったよ。りんご飴なんかもあったな。懐かしいなあ。ちょっと買ってこようかな」

 そう言って奈緒に振り返る。黙ったままの奈緒は、じっと目の前を歩いている人々の背中を見続けていた。そんな様子に、困ったように父親は頭を掻き、もう一度話しかけた。

「なあ奈緒。奈緒が食べたいもの言ってくれないと、父さん、わたあめ買って来られないよ」

 しばらく雑踏の中に一箇所だけ沈黙が訪れる。奈緒と繋いだ父親の掌にじっと汗が滲み始めていた。

 また返事がなかったらどうしようか。父親考えていた。妻が誘ってくれたこの会場。ロビーを失った奈緒の傷を癒すために俺に出来ることは何なのだろうと。考えた末に実行に移したのが食い物とはなんとも情けないような気がするが、父親にはそんなことしか出来ることが思いつかなかった。奈緒のために出来ること。俺がやって上げられること。一体何なんだろう。考える父親の頭を聞こえてきた奈緒の声が止まらせた。

「……たこ焼き」

「ん?」

「たこ焼きが食べたい」

「おお、そうか。たこ焼きか。分かった。分かったよ、奈緒。すぐ買ってくるからな。先に座る場所でも見つけといてくれ」

 父親は思わず奈緒の頭を撫でていた。とても嬉しかった。目頭が熱くなっていた。俺にも、ここに来ることが必要だったのかもしれない。奈緒の頭から手を離して、父親は思った。たぶん、みんなに必要だったんだ。ロビーがいなくなってしまってから、我が家には見えない影が差し込み始めていたんだ。

 でも、きっと何とかなる。俺が何とかしてみせる。やらなくちゃいけない。そう、人ごみを掻き分けながら父親は決意していた。

 終始、奈緒と夫との何気ない会話を聞いていた母親は、胸の奥に暖かいものが広がるのを感じていた。ありがとう。母親は人の波の中に消えていく夫の背中にそっと呟いた。さりげない気配りが、とても温かかった。

「じゃあ、座る場所探そっか」

 奈緒の手を引くと、そう母親は微笑みかけた。頷く奈緒の小さな身体が、無償に愛おしかった。

 思えば、ここまでは完璧だった。母親が父親に連絡を取り、急いで夕食の支度をして、やって来た会場。奈緒の心は少し回復して、母親も父親も気が軽くなっていた。全てが順調にいっているはずだった。最後まで、このまま一日を終えることが出来ると母親は思っていた。

「ちょっと、ラッキー! 興奮しないで!」

 そんな声が、二人の背後からした。女性の叫ぶような声。

 何だろうと思い、二人は振り返る。

 目の前に広がった光景に、母親は瞬時に深い後悔に飲み込まれた。

 そこには一頭のラブラドール・レトリーバーがいた。黄色の短い毛にどこか抜けている表情。犬は今にも焼ソバの屋台の台に飛び掛ろうとしていた。

「ダメ。ダメっだってラッキー! 来る前にご飯食べたでしょ」

 声を張り上げる飼い主と、好奇の視線を注ぐ通行人たち。屋台の主人はにこやかに笑って、「ほれ、犬っころ。これやるよ」と焼ソバを一パック飼い主に渡していた。

 母親は、しばらくの間凍りついたように動くことが出来なかった。そこにいた犬の種類はいなくなってしまったロビーとまったく同じだったのだ。折角、ロビーのことを忘れさせるためにここにやってきたのに。折角奈緒の様子が少しだけよくなっていたと言うのに。これではまるで逆効果ではないか。

 母親は、恐る恐る奈緒の方を向く。奈緒も母親と同じく、突然な現れた犬に目を奪われているようだった。その瞳は何が目の前にいるのか、判別できていないように、大きく見開かれていた。

「さ、さあ、奈緒。早く座る場所探しに行きましょ」

 出来るだけ奈緒を刺激しないように、かつ迅速にこの場から離れなくてはならない。判断した母親は明るく奈緒を促した。だが、事態はもう修正など効かない段階に達してしまっていた。

「ロビー……」

 か細く呟く奈緒の声。母親の表情からさっと血の毛が退いていく。赤い警告ランプが点灯した。母親は無理にでも手を引っ張って、違う場所に行こうと試みた。

 そんな母親の右手が感じた絶望的な動き。握っていたはずの小さな掌がするりと抜け出していってしまう。振り返れば奈緒は脱兎のごとく人ごみの中へ走り出していた。

「奈緒!」

 呼びかけ、追いかけようと母親はした。遠くへ行ってしまう。本当に何も出来ないところへ奈緒が行ってしまう。そんな恐怖に陥った母親の行方を、自由気ままに歩く人ごみが阻んでしまう。

「待って。行かないで。奈緒、奈緒!」

 呆気なく奈緒の姿を飲み込んでしまった人波の中、母親の叫びは虚しく夜空に木霊した。




  (続く)

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