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たびびと  作者: マグロ頭
2/6

二話 ココロキモチ

 うわっ! びっくりした。もう誰さ、後ろで大声出すのは……。

 あ、奈緒ちゃん。なんだ、奈緒ちゃんだったのか。もう、驚かせないでよね。全く。心臓が止まるかと思ったよ。

 ……まあいいか。それよりさ、ね、遊ぼ、奈緒ちゃん。いいおもちゃ見つけちゃったんだ。見てこれ。ふふん。いいでしょう。ね、これで遊ぼうよ。

 ん? どうしたの、奈緒ちゃん? 固まっちゃってさ。

 ……ぴくりともしない。ねえねえ、そんな入り口で立ってないでさ。ほら。これで遊ぼうよ。ふっかふかなんだよ。廊下に落ちてたんだ。

 あれ? あれれ? どうしたの、奈緒ちゃん? 顔、怖いよ? え、なに? ぼくの後ろに何かあるのかな……。

 おかしいなあ。別になにもないよ? どうしたのさ、奈緒ちゃん。って、わわわわわ。怖いよ。そんな顔して近づいてこないでよ。

 え、え、どんどんくるよ奈緒ちゃん。どうしたのかな。えっと、えっと……逃げなきゃ!

 こ、怖いよう。あ、こっちはダメだ。えっと、えっと……。じゃあこの下!

 よおし、ここなら一安……って見つかった!

 わわわ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。怖い。怖いよ。どうしたんだよ、奈緒ちゃん!

 あ、でも、ちょっと楽しくなってきたかも。新しい遊びなのかなあ? あ、追いかけっこなのかなあ。

 ……どうなんだろう。

 ん? うわわ、走ってきた!

 こっわい!

 やっぱり、追いかけっこみだいかもしれない。怖いけど、すっごい面白い!

 ひゃー。逃げろや逃げろ!

 よいしょ。ふふん。捕まんないぞ! って、ありゃ……。

 やばい。追い込まれちゃった……。ど、ど、ど、どうしよう!

 つ、捕まっちゃう。あ。奈緒ちゃんの横……。行けるかな? 難しいかなあ。でも、行かないと捕まっちゃう……。よし。行ってみよ。行くぞお……。

 そりゃ!

 やった! 出来たよ! へへん。結構やるじゃん、ぼく。

 あ、また来る。よーし、絶対捕まんないぞ。逃げろや逃げろー。

 へへっ。奈緒ちゃんすっごい怒ってる。こっわい顔。

 ん? 怒ってる?

 え、奈緒ちゃん、怒ってるのかな? でも、どうして?

 って、やばいやばい。やばいよ。奈緒ちゃん本気だ。本気で走ってきてる。捕まったらダメだ。うわーっ。

 逃げろ逃げろ! わーっ!

 ぐへ。

 ……捕まっちゃった。まさか、ダイブしてくるとは……。

 あ、ちょっ、やだよ! おもちゃやだ! 落ちてたの見つけたんだよ? 絶対離さない!

 あ……びりっていった……。

 わあ、なんか白いの出てきたよ、これ。なんだろ? このふわふわ。

 イテッ! な、なにさあ、突然! あ。ああああああ!

 くっそー、おもちゃ取られちゃった。折角遊んでたのにな。なんか頭叩かれるし。なんなんだよ、全く。

 ……でもまあいいか。面白かったから。ふふ、ねえ、奈緒ちゃん、もっと遊ぼう。もう一回今の追いかけっこやろうよ。ねね。ねえってば。

 ん? あれ? もしかして奈緒ちゃん……泣いてる?

 ……あ、奈緒ちゃん泣いてる。え、どうしてだ? なんで? どうして奈緒ちゃん泣いてるんだ? さっきまで一緒に追いかけっこしてたのに。

 あ、おもちゃ見て泣いてるのかなあ。

 なんで?

 白いふわふわしたの触ってる。

 座っちゃった。おもちゃ、抱っこしたまま。どうしたんだろう。

 ねえ、奈緒ちゃんどうしたの? どっか痛いの? もしかして、おなか痛い?

 大丈夫かな……。さっきまで元気だったのに。

 ん? 呼んだ、奈緒ちゃん? イタッ!

 つつ……何だよう。ひどいじゃないかまた頭叩くなんてさあ。……って、イタッ! イタッ! イタイ! 痛いよ、奈緒ちゃん。何で叩くのさ! イタッ! イタイです! もう止めて! 叩かないでよ!

 って、あれ? どこ行くの?

 ひゃあっ! ……また大きな声。あ。行っちゃった……。

 ぼく、なにかしたのかなあ? ひとりで遊んでただけなんだけどなあ。

 あ、そういえばあのおもちゃがない。奈緒ちゃん、持ってちゃったのかな。折角見つけたのに……。

 ……何だよ。いきなり来てさ、遊んでたと思ったら叩いてきて。それで叩くだけ叩いたら行っちゃってさ。意味がわかんないよ。

 わ! びっくりした。扉が閉まった音? 奈緒ちゃん、部屋に行ったのかな?

 ……ちょっと行ってみようかな。なんだかよく分かんないよ。本当にどうしたんだろう。

 奈緒ちゃん。ねえ、奈緒ちゃん。いるんでしょう? 返事してよ。どうしちゃったんだよ。ぼく、何か悪いことしたの?

 開きやしない……。なんなんだよ、もう。

 ……もういいよ。奈緒ちゃん、ぼく、別にさ、叩いたこと怒ってないよ。だから一緒に遊ぼう? 遊んでよ。暇なんだよう。ねえ、ねえったら。

 うおっ! びっくりしたあ。何か扉にぶつけたのかな? 来るなってこと……なのかな……?

 うーん。どうしたんだろう奈緒ちゃん。なんかぼくに怒ってる。怒ってる……。

 どうしてだろう?

 ……分かんないや。

 あーあ、今日は奈緒ちゃんと遊ぶの止めにしないといけないのかなあ。暇だなあ。どうしよう。外に出て日向ぼっこでもしようか。それも暇だなあ……。うん、でも、そうしよ。

 そうするしかないよ……。


 ここをこうしてっと……やった、出来た。

 ふふん。この透明の壁を開けるやり方はもう覚えたもんね。あとは端っこを引っかいていれば……ほおら、開いた。

 わあ……。いい風。こりゃ眠たくなっちゃうなあ。

 よっと。

 外はぽかぽかだぁ……。ん、大きな雲。鳥さんも飛んでる。こんにちはー。……って聞こえないか。気持ちよさそうだなあ……。

 なんだか散歩したくなってきたなあ。するべきだよね、こんな日は。でもなあ、今お父さんもお母さんもいないしなあ。奈緒ちゃんはあれだし。

 ……ほんと、どうしちゃったんだろうなあ、奈緒ちゃん。訳が分かんないよ。あーあ、日向ぼっこしかないのかなあ。つまんないなあ……。

 ん? あれ、あそこにいるのは……あ、やっぱりそうだ。あの寝てる姿。ふふっ、猫のマカロニおばさんだ。

 相変わらず寝てるだけなのに不機嫌に見える。面白いなあ、おばさん。どうしてなんだろう。

 おばさん、おばさーん。おーい。って、あれ? 起きないな。いつもは起きるのに。近くで呼んだら起きるかも。おばさん最近耳が遠くなった気がするなあ。

 よし、おばさんの近くに到着っと。芝生、気持ちよかったな。はあ……。やっぱり今日散歩行きたい。

 まあ、でもこうしておばさんみたいに日陰でのんびりするのもいいかもなあ。気持ちいいや。

 ふふ。本当に日陰が好きだよねえ、おばさん。上手いこと見つけるもんだよ。

 ……うん。ここなら一日中過ごせる。風が吹くと木がざわざわーって鳴るのもいいな。気持ちいい……。

 ああ、おばさんには丸まってる姿勢が一番似合うのはこのせいか。気持ちよく寝られる場所を見つけるのがうまいおばさんは、当然寝るのが大好きなんだもんね。ふふ、不機嫌なのがびしびし伝わってくるけど、寝てる姿、とっても気持ちよさそうだ。

 いい天気だもんね。眠たくなるのも当然か。でも、丸まってるの、お父さんの椅子なんだけどね。うちのお父さんが大切にしてる椅子……。

 マカロニおばさんって、うちの猫じゃないはずなんだけどな。

 ま、いいか。なんだかんだでお父さんもお母さんも奈緒ちゃんも、おばさんにご飯上げてたりするし。何より、マカロニおばさんらしいもんね。

 しかし、全く起きそうにないなあ。昨日何かあったのかな? 

 ……気になる。

 聞いてみようかな。おーい、マカロニおばさーん。起きてー。朝ですよー。おーーい。

 うわっ。片目だけ……。すっごく睨まれてるような気がするのは何でなんだろう。あ、また閉じちゃった。やっぱり疲れてるのかな。邪魔しちゃダメかあ。多分。

 あーあ、暇だなあ。折角の天気なのに。おばさん気持ちよさそう。ぼくも寝ちゃおっかなあ、ここで。そうしよっかなあ。そうしちゃおう。

 ……奈緒ちゃん、どうして怒っちゃったんだろ。遊んでただけなのになあ。ぼく、なにか悪いことしたかなあ。した覚えないんだけどなあ。でも奈緒ちゃん、ぼくに怒ってて……。あーあ、分かんないなあ、もう。分かんないよ……。

 あ、おばさん。起きた? ……もしかして、聞こえた? 寝てたんじゃなかったの? へ? 聞こえた、じゃないって? あ、ごめんなさい。そんなにおっきいかな、ぼくの独り言。寝られないんだから分かるだろうって? す、すみません。

 厄介者だなんて、そんなひどい言い方しなくても……。へ? 出てくるところ見てたの? ……じゃあ、ずっと起きたんじゃないか。ひどいなあ、無視するなんて。

 来たばかりだったの? じゃあ、これから寝るつもりだったんだ……。……失礼しました。じゃあ出来るだけ厄介者にならないように気をつけます……。

 へ? あんたはクチダケ? 何クチダケって? きのこか何か? 食べられるの?

 ば、バカ犬なんて言わないでよ! 結構傷つきやすいんだよ、ぼく。

 ……はいはい。そうです。身体の割には小さなココロしか持ってませんよ。

 ……耳だけじゃなくて、段々口も悪くなってきた気がするよ。

 別にぃ。何も言ってません。ちょっと気の強い猫だよなあって呟いてみただけですー。

 へーんっだ。おばさんに比べたらガキかも知んないけどね、一応考えてはいるんだからね。

 まあいいや。ところでさ、おばさん、昨日何かあったの? 別にない? じゃあ、何でそんなに眠そうなのさ。

 え? 猫は寝て一日を過ごすんだって? そんなのおばさんだけだよ〜。

 わわ、ごめんなさい。はい。ちょっと調子に乗りすぎました。だから、その、爪をしまってください。はい。もう言いません……。

 静かにします……。

 ………………。

 ……あ。そうだマカロニおばさん。ちょっと、分かんないことがあるんだけどさ。うん。そのね、さっきね、ちょっと奈緒ちゃんの様子がおかしかったんだよ。うん。そう。ぼくのうちにいる小さい女の子。おばさんもご飯貰ってるでしょ?

 へ? 貰ってない? なに言ってんのさ、おばさん。毎日毎日楽しみにしてるじゃんか。貰ってやってるだけ? あ、そう。貰ってあげてるだけなんだ。ふーん。

 別に。何でもないです。本当になんでもないよ。本当だって。疑り深いなあ、おばさんは。もう、その話は別にしなくていいんだって。とにかくさ、話を戻すよ。いい? もう、ぶつくさ言わないでよ。

 簡単に言うとさ、とにかく、奈緒ちゃんがさ、急にぼくを見て叫んでね、すっごく怖い顔になって、それでぼくを追っかけまわしてさ、叩いたりして……なんだかぼくに怒ってたみたいなんだ。でさ、最後には奈緒ちゃんの部屋にも入れてくれなくなっちゃったんだ。

 どたばたしてたって? 外まで聞こえてたの? え、もうばっちり? うへぇ。ちょっと恥ずかしいなあ。そうか、聞こえてたんだ。

 うん。そうなんだ。いつもは奈緒ちゃんすっごく優しくしてくれるんだけどさ。やっぱり怒ってたんだよね? ……だよね。じゃなきゃ叩くわけないもんね。

 でも、なんでなんだろう。急に怒るなんて、ぼく何しちゃったんだろう。……ちっとも分かんないだ。って、ちょっと。真剣に話しているんだからさ、目ぐらい開けて話聞いてよ。

 ええ? 関係ない話だって? う……まあ、そうだけどさ。そこを何とか相談に乗ってくださいって頼んでるんじゃ……。うう……ひどい。

 まあ、そうなんだとは思う。多分ぼくが何かしちゃったんだ。でも、何が悪かったのかぜんぜん分かんないんだよ。

 そんな大きなため息吐かないでよ……。ね、面倒かもしれないけど、お願い!

 へ? したことを? ええー。ひとつひとつ考えなきゃいけないの? それってすっごくさあ……って、ちょっと、やる。やります。やるから寝ちゃわないで!

 うう……もうなんて日なんだ……。ついてないよ……。

 ちょっと待ってね。ええっと、うーん。今日は……。そう。まずは朝起きてから伸びをして、ちょっと毛並みを整えて、それでまず水を飲みに行ったんだっけ? あれ、違うか。お父さんを起こしに行ったんだっけ? ……まあ、どっちかをして、で次は……。

 わあっ! 怒鳴らないでよ。びっくりするじゃないか。え、小さいことは考えなくていい? え、でも……。ああ、そっか。毎日してることなら怒るわけないもんね。良かったあ。すっごく一杯思い出さないといけないのかと思った。

 へへ。ちょっと勘違いしちゃった。ん。分かった。今日だけしたようなことを考えればいいんだね。えっと、今日だけしたこと、今日だけしたこと……。

 ん? 何? 奈緒ちゃんと会うまで? え? 何って、一人で遊んでただけだけど。

 うん。えっと、そうそう。何だかもふもふしたおもちゃで遊んでたんだ。すっごく噛むのに調度良くてさ。前々からいいなあって思ってたんだけど、ずっと高いところに置いてあったり、奈緒ちゃんが抱きしめたりしてて遊べなかったんだ。でも、今日は偶然廊下に落ちててね、やったって思ったんだ。すっごく楽しかったよ。

 そのおもちゃはどうなったかって? おもちゃなら奈緒ちゃんに取られちゃったよ。捕まった時に、嫌だったんだけど取られちゃった。

 ……あ。そういえばあの時奈緒ちゃん泣いてたんだっけ。ああ、そうだ。泣いてたんだ。あれ? でも、何で泣いてたんだろう。おもちゃに何かあるのかなあ。

 あれ、どうしたの、おばさん。すっごいため息吐いちゃってさ。

 へ? 決定的? って何が? 奈緒ちゃんが怒った理由? すごい! おばさんもう分かっちゃったの?

 奈緒ちゃんはいつもそのおもちゃをどうしてたのかって? えーっと、あ、そういえば高いところになかった時はいつも奈緒ちゃんが持ってたかも。大切にしてた? 奈緒ちゃんはおもちゃを大切にしてたの?

 ……どうして高い場所に置いてあったのかって、そんなこと分かんないよ。え? もしそのおもちゃが高いところになかったら? ……ぼく、噛んじゃうかも。

 ……そっか。だから高い場所に置いてあったんだ。……大事だったから。そういえば、奈緒ちゃん、よくあのおもちゃ抱きしめてたかも。

 ……ぼく、奈緒ちゃんの大切なもので遊んじゃったのか。だからあんなに怒ったんだ、奈緒ちゃん。

 ……ぼくのせいだ。ぼくが、ぼくが悪いことしちゃったから、だから奈緒ちゃんあんなに怒っちゃって、ぼくを叩いたりして……。……どうしよう。ねえ、どうしようマカロニおばさん。ぼく、奈緒ちゃんにひどいことしちゃった……。とっても、とってもひどいこと……。

 ……後悔? よく分かんないけど、なんだかすっごくつらい。もやもやするよ。ねえ、おばさん。ぼく、どうしたらいいのかな。

 そんな、知らないなんて冷たいこと言わないでよ。え? ああ。そっか。ぼくたち動物と人間とは言葉が通じないから……。謝ることは出来ないんだ……。

 でも、でもぼく! ……ひどいことしちゃったし……奈緒ちゃんと、奈緒ちゃんとまた仲よくなりたいよ。一緒に遊びたい!

 時間が? そんなの分かんないじゃないか。もし、ずっと仲直り出来なかったら……。そんなことないって、そんな簡単に言わないでよ……。ぼく謝りたいよ。ちゃんとぼくから謝りたいんだ。

 ……ごめんなさい。無理やり考えさせちゃってるみたいで……。でも、ぼくこういう風にしかキモチの整理がつかないんだ。え? 知ってるって?

 へへ。おばさんは物知りだなあ。何でも知ってるし相談に乗ってくれる。もうこんなのは勘弁? うん。そうだね。ぼくも自分で出来るようにならなくちゃね。

 へ? 顔? あ、うん。分かった。もう、後悔はしない。へへ、覚えたもんね。あれ? でも、後悔しなきゃダメだよね? うーんと、うーんと、その、後悔はしないけど、しっかりと考える。そうだ、考えなきゃダメなんだ。む。笑わないでよ。……うん。ありがと、おばさん。

 へへ。恥ずかしいな。あ、またバカって言った。言わないでって言ったじゃないか。ったく。お礼ぐらい出来るよ。さて、どうしようかな。

 へ? おわびのしな? え、それを渡すの? うん。へー。謝ったりする時に渡すんだ。で、そのおわびのしなって何?

 うん。ごめんなさいの印? ふーん。キモチを込めてそれを渡せばいいんだ。うん、何かしなきゃ気が済まない。おばさん、やっぱり分かってるね。

 おわびのしな……おわびのしなかあ……いいね、それ! え? 奈緒ちゃんが喜ぶもの? ……ぼく奈緒ちゃんが喜ぶ、好きな物知らない。

 うん。ぼく、奈緒ちゃんから貰ってばっかりだったから……。違うよ。べつにぼくから何かが欲しいってせがんだ訳じゃないよ。優しかったんだ、奈緒ちゃん。

 でも、どうしよう。このままじゃ、おわびのしな、渡せないじゃん。うーん……奈緒ちゃんが好きな物、好きな物かあ……。

 ん? なに、おばさん? え、奈緒ちゃんが好きなものだと、逆効果になっちゃうの? 違う? 時々そういうことがあるの? へー。そうなんだ。え、じゃあなに渡せばいいのかな。

 え? 何でもいいの? ……そのくらい分かるよ。いくらぼくでもその辺に転がってる石っころなんか渡すわけないじゃないか。もう、バカにして。からかわないでよね。わ、笑うな! ねえ、はやく話を元に戻してよ。

 へ? 大事なのは一番最初の理由? 謝ることだけど? うん。ああ、そのキモチかあ。あ、そうだよね。一番大切なこと忘れるとこだった。物じゃないよね。

 うん、分かった。ありがと、マカロニおばさん。はあ……でも、なににしようかな、おわびのしな。やっぱり特別な物がいいな。そうじゃないとぼくの気が治まらないよ。

 ん? 笑い声……。どこから? 上? んー……あ、ハトのコウ爺さん。こんにちは。枝の中でなにやってるの? ああ。話聞いてたの……。そんな、愉快じゃないよ。まったく。真剣なんだよ? ぼく、すっごく悩んでるんだから。

 うん。謝るんだ、奈緒ちゃんに。ひどいことしちゃったから。そう。おわびのしなを渡そうと思ってるの……って、コウ爺さん、ほとんど全部聞いてるじゃないか。もう、そんな始めのほうから聞いてたならもっと早く出てきてくれたらよかったのに。え? 主役は登場場面を考えなければいけない? なに言ってんのさ、もう。

 あ、おばさん。……そうそう。そうだった。おばさん、ナイス。ぼくも、なにかおわびのしなになる物を聞いてみたいなって思ってたんだった。コウ爺さんの話は流れが掴みにくいんだ。

 え、べつに感心されることでもないよ、コウ爺さん。って、おばさんは一言多いよ。バカはそんなに繰り返さなくていいの。もう。時間が解決してくれるって言っても、つらいじゃないか。……うん。奈緒ちゃんに謝るんだ。ねえ、コウ爺さん、何かいい物ないかなあ?

 ……七色の花? ふーん。そんなに綺麗なの? すごいなあその花。

 ねね、べつにヤマキさんでもオオイワさんでも、ヤマイワさんでも何でも、誰に聞いたかなんてどうでもいいからさ、とにかく聞いたんでしょ、その花のこと。それはどこにあるの?

 気にしてないよ。コウ爺さんが考え出すと止まらないのは知ってるもん。うん。だからさ、ね、どこ? ふんふん。川を渡って、森を抜けて、山を登った場所にあるんだね? ……よーし。

 おばさん、コウ爺さん、ぼく、ちょっと行ってくる!

 ん? なに、おばさん? イタッ! ちょっ……鼻叩かないでよ! イッタイなあ、もう。へ? どこにあるかって? 川と、森と、山の先じゃないの? イタッ! 叩いた上に、バカって言った!

 ……場所は、その、何となく……。だってコウ爺さんがあるって言ったんだよ、あるに決まってるじゃないか。……うっ。……ま、まあ確かに道も何も分からないけど、で、でもさ、あるって言うんだからあるんだよ。どこかにさ、きっと。

 もう、べつに大丈夫だよコウ爺さん。気にしないで。覚えててくれた方がよかったけど、忘れちゃうことってあるよ。でも、参ったなあ……。どうしよう。その七色の花、奈緒ちゃんに渡したいなあ。

 べつの物? やだよ。七色の花に決めたんだから。絶対その花を渡すんだ。危なくても。って、その花に所に行くのって危ないの? えー。そんなことコウ爺さん言わなかった世。

 ……でも、ぼくいくら危なくたっても行くよ。コウ爺さんだって、大切な友達に謝る時はココロから謝るでしょ? ぼくだってココロから謝りたいんだよ。

 む。確かに物じゃないけどさあ……もう、とにかくぼくは決めたんだ。もう変えないよ。ふん。そうですよ。ぼくは頑固なんだ。

 イタッ! ちょっと、おばさん今日叩きすぎ……へ? カラス? カラスのミナトさんを探せばいいの? あのカラスかって、コウ爺さんも知ってるんだ。物知りなの? ふーん。すごいんだ。

 うん。分かった。まずはそのカラスの所に行ってみるよ。ほわ? ……大丈夫だよ。心配しないでよ。ちゃんと戻ってくる。絶対に。絶対戻ってくるよ。おばさん。もう、コウ爺さんまでそんなに心配しないでよ。大丈夫だって。うん。ぼく行ってくる。戻ってくる。戻ってこないとダメだもん。 

 じゃあぼく行くね。マカロニおばさんもコウ爺さんもありがとう。ちょっと行ってくる。

 だから、待っててね。絶対に。絶対だよ! 待ってよね!

 じゃあ、ぼく、行ってきます。


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