5 ヒロインは凌辱される。
床に片膝を付いた僕は俯く彼女の顎に優しく手を添えて引き起こした。
「これこそが《アブソリュート・エンペラー》の神髄といえるだろう。痛覚と同じように快感もまた電気信号に過ぎない。苦痛に耐えられる人間はいたとしても、快楽に耐えられる人間はいないんだよ。なぜなら人間はそういう風には造られていないからね……さて、処女である君はどこまで抗うことができるかな?」
彼女は反抗的な眼で僕を睨む―――が、
「あ……、あっ、あぁ、くぅっ!」
駆け巡る刺激に耐えきれず、金色の髪を振り上げて背中を仰け反らせた。
反射的に暴れる自らの肉体を支えられなくなり、腰が砕けた彼女の身体が遂に床を這う。彼女は不可視の触手から身を守るように、抵抗するように身悶えている。
「ほらほら、我慢すると余計感じちゃうよ、本能に従わないと」
「ダ、ダメ……、あ、あっ、や、やめて……ん……、んんっ!」
「どうだい? スパイになってくれるかな?」
「そ、そんなこと、で、できるわけ……、あ……、くっ、くぅ! あああぁぁっ! ダメぇぇぇッ!」
「なんだいなんだいひょっとして気持ちいいの? 感じちゃってるのか? あんなに毅然としていた君が? お嬢様の君が?」
「あ……っ、あああぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁっ―――……!」
甘美な蜜のような喘ぎが途絶えると同時に彼女は最高潮に達した。両足を突っ張り伸展させて足首を逸らせ、目を大きく見開き瞳孔を縮小させた少女の全身がビクンビクンと痙攣する。
「アハハハッ! どうだい脳で直接感じるオーガニズムは!? 最高だろう! さあ、逝け! 逝き続けろ! 無制限にして無限、果てることのない究極の絶頂に深く沈んで堕ちて逝くがいい!」
「―――ぁあああああぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁッ!」
全身をくねらせ身悶える彼女の姿はまるで生死の境にある芋虫が苦しみ悶えているみたいだ。彼女は現世では絶対に味わうことが出来ない快楽に溺れている。
やがて喘ぎ声すら出せなくなった彼女の身体は小刻みに震えるだけでほとんど動かなっていた。
「あーあ……、こんなに床を濡らしちゃって……、君は本当にいやらしいなぁ……。こんなに濡らしてしまったのは君が初めてだよ」
焦点が合わない虚ろな瞳は涙で濡れ、瞬きをすることすら忘れている。
「じゃあもう一度だけ訊く……、僕の下僕になる気はないかな?」
「……う、うう……ダ、……ダメ……、う、くぅ……」
意識が消失する寸前の彼女は条件反射的にそう答えているようだった。
「やれやれ……、強情な子だな、大したものだよ……」
僕は肩を竦める。これ以上やってしまえば彼女は確実に廃人になってしまうだろう。過去の経験からそれは実証済みだ。
テーブルの上に置いてある鍵を拾い上げた僕は彼女の両手を拘束している手錠を外した。
「……ダ、ダメ……」
口角から溢れ出した涎を拭いもせずに潤んだ瞳で僕を見上げた彼女は、
「……もっと……お、お願いだから止めないで……、も、もっと、もっとして、ください……、ほしぃ……」
すがり付く様に僕のズボンのベルトを外していく―――………。
◇◇◇
『―――なんていうエロゲを作りたいんだけど、どうかな?』
シナリオ研究部の部室で対面して座る彼女に向かって僕は言った。
彼女は心底呆れる様に、そして凍り付くような冷ややかな視線を僕に向ける。
『……メインキャラが未成年の時点で却下です。そんなことよりも毎回私をヒロインにするの止めてもらえますか、先輩……、気持ちが悪いので……』
妖精のような端整な顔立ちから放たれた辛辣なセリフは僕の繊細なハートに突き刺さった。
校舎の窓の外は既に夕日で朱く染まっている。
カラスの鳴き声が平和で普遍的な一日の終わりを告げていた。