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空想死神黙示録  作者: タテハ
11/13

はじまりの夜




ぶぅん!



爆発音に続く熱風に、霧人は両腕を盾にして耐えた。


「なにが起こった!?」


霧人の脳裏には、先ほどのセーギノミカタの姿が焼き付いている。

胃袋の底から罪悪感が湧き上がってくる感覚を覚えて、霧人は腹をおさえる。


「大丈夫かぁ? キリト〜↑↑」


語尾上がりのチャラい声色は、霧人の前から聞こえた。繁華街のホストのようなしゃべり方をする奴だと霧人は思う。

薄目を開けて見た視界には、自分を庇うように身を盾にしているゼーレンがいた。


「な、お前!?」

「ゼーレンだよ。俺は、ゼーレン。

ケガ、ないかぁ? キリトぉ?」

赤みを帯びた茶色の瞳を細めて、へらりと笑うゼーレン。

「大丈夫だ。ゼーレン」

名前を呼ばないといけない気がした霧人は、その男の名前を呼んだ。

「そりゃあよかったぜぇ↑↑」

ゼーレンは、ゲジ眉をへの字にして、切なそうにはにかんだ。


「一体、何が起こったんだ?」


「自爆したんだろうなぁ〜」


ゼーレンの声は投げやり気味に言う。


爆風が収まり、霧人とゼーレンはセーギノミカタがいた方に歩みを進めた。


コンクリートが黒くこげている。

直径30センチほどの楕円形のこげだ。


一人の人間は跡形もなくなくなっていた。



「自爆した? なぜ?」


霧人は困惑している。


「捕まったら特務の拷問だろ? 

俺は耐えれないね。死んだほうがマシさぁ」

「……そんな」


ぺたり、と霧人はその場に座り込んだ。

骨も残らないほどの爆発である。

国際学部棟の入り口の自動ドアは破壊されていたし、そのドア枠もすっかり歪んでいる。列をなしていた公衆電話群は霧人とゼーレンがいる付近にある2台を残して吹っ飛ばされてしまっている。


ジリリリリリリリリリリリリリリ

 

非常時を察知して、非常火災ベルが鳴りはじめた。

丸腰に見えたが、なにか手榴弾でも隠していたのだろうかと霧人は推測する。


(確かに、『助けて』と言っていた。俺に。そんなやつが、自爆するか?)


突きつけられた非日常に脳の回路がはちきれそうになりながらも、

爆発した男に祈るように、自身の心の乱れを無理矢理おさめるように、霧人はまぶたをゆっくりと伏せた。


「おいぃ……、あいつ、特務が追ってた奴だろぉ? 殺人者に祈るのかよぉ」


そう皮肉っぽくいうゼーレンの口は右に不自然につりあがっている。


「あららぁ、キレイにいなくなっちゃったわねェ」


天から降ってくる空子の声に、霧人は顔を上げた。

黒髪の女は、コリドールの外灯の上に腰を掛けて、足を組んでいた。

とっさに飛んだにしても、並の身体能力ではない。かなり至近距離にいての爆発だったにも関わらず、空子に目立った外傷はなかった。 


「空子、ケガは?!」

霧人の声がコリドールにこだまする。

「そんなヘマしないわ。

それより、このままだと管理課の人が来るわね」

「管理課、須藤さんか……」

事情を話して、わかってもらえるだろうかと霧人は思う。どう考えたって説明しても理解して貰えそうにないと思った。


「そんじゃぁ、俺っちはドロンするぜ!」

バカ明るい声の退散宣言は、ゼーレンからだった。

「へぁ? この状況で単独離脱とかマジか」

非難する霧人に耳もくれず、

「フォルトゥナ〜、足止めしといた借りは、返してもらうぜぇ↑↑?」

と、捨て台詞を吐くと、一度深く踏み込んで大きく飛んだ。


「じゃあな、俺のキリト! 近々また会うことになるぜ! 楽しみにしてるぜ、マイスィィート〜ゥゥ♫」

明るく言いながら、ゼーレンは闇の中に消えていった。

「えぇ……? ホントに帰りやがった」

これには、霧人も呆然とするしかない。


「相変わらず、気持ち悪いわね」


空子は霧人の横に飛び降りると、去っていったゼーレンに、ゴミでも見るような蔑みの目を向けた。


「すぐには来ないわよ。情報学部棟の円谷研の方に行っているはずだから」

と、空子はいう。

「なぁ、空子」

「なぁに? 赤猿のスイートさん?」

空子は、地面に視線を落とす。

何かを探しているようだ。


「やめろよ。誤解だし」

「随分な懸想のされようだったけれど?」

「俺はノーマルだ!」

霧人はムキになって抗議した。

「クスクス」

「何を探してるんだ?」

霧人に流し目を寄越しながら、

「チップ」

と、答える空子。

「チップ?」

「あー、日本人の体内に埋め込まれてるのよ。生態チップ。個人情報がつまってるの。まあ、残ってないでしょうけど」

「なんだって?」

霧人は衝撃の事実に目眩がした。

「……藍統? やられたわ。ええ、霧人は一緒にいるわよ……了解」

霧人の困惑ぶりなどおかまいなしに、空子は耳にひっかかった通信機で会話をはじめた。

蝶の羽をモチーフにしたそれは紫色をしている。外灯の光を受けて、羽の部分がキラリと光る。 


「うちのボスが、あんたをご所望よ」

通信を切断した空子は、含み笑いをしながら霧人にウインクしてみせる。

「拷問は勘弁なんだけど」

「それは、あんたの出方次第ね」


「うへぇ」


霧人は、逃げられないことを察してため息をついた。

爆破された公衆電話を見やる。

手前のかろうじて残った2台を見ながら、今が夏休みでよかったと思う。


見上げた空に、光はなかった。


「今日、新月かよ」


タバコを吸いたいという霧人のワガママは、空子にあっさり却下された。

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