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空想死神黙示録  作者: タテハ
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プロローグ 

『空想死神黙示録』



絶望があるなら、

それはとても、静かなもの。

心の起伏のないすべての終わりと始まり。


希望があるなら、

それは突飛で身勝手なもの。

分相応に訪れる、

偽善と勘違いと必然からの贈り物ーー。




時は、22XX年。


日本は完全なる社会主義国になり、国民たちの生活はすべて政府が管理していた。

その領土はアジアと北極とにいびつに広がりをみせており、人口は5000万人あまりである。

この国の政治や軍事はすべて『L.O.A.D.(ロード)』と呼ばれる組織が支配している。彼らが日本国では絶対であり、ロードに逆らえるものはいない。

国民たちは彼らの完全なる管理下にある。

なぜならば、彼らは、『L.O.A.D.(ロード)』が提供する生活環境と彼が生産する電気エネルギー(通称M.E.)がなければ、生きてゆけないからだ。

国民たちは、『L.O.A.D.』にが定めた十分な食事と、狭いながらも心地良い住居、心身共に負荷のない程度の労働を与えられ、何不自由ない生活を送っている。

反乱を起こそうとするものなどはない。




広島県広島市内 第六区役所


日本人の死期帳を管理し、死体を回収する役人がいる。通称、死神と呼ばれる彼らの仕事は死期を迎えた国民の最後を見届け、肉体を回収し、共同火葬場である“白のドウム”へ運ぶことである。


死神を統率するここ、第六区役所では、国民たちが定めた通りに生をまっとうしているかを監視している。具体的には、彼らに埋め込まれたチップから、血圧、脈拍、体温などの情報をすべて集めているのだ。

彼らの死期が近くなったり、異常を確認すれば、役人が現場におもむく。死を確認すると、国内に支部がある棺班ひつぎはんに司令を出すのだ。

死期帳とは、その人間が死ぬ期日、死因が書かれた帳簿である。この国の人間は、死因さえ管理されているのだ。

そのため、皮肉を込めて、第六区役所は死神区役所とよばれている。




広島死神区役所の最奥 『死神長執務室』


「もぉ、無理よううぅっ!」


部屋の奥に置かれた執務机の横にある、小さめの書記官用の作業机に彼女はつっぷしている。

前死神長第一書記官である骸華むくろばな リコリスである。


しばらくだまりこくったあとで、

「あんのクソ棺班長めッッ、兵庫から広島の運送くらい関西支部負担で持ってこいやぁ、なんで事故処理こっち持ちなんじゃぁー!! 中国には予算ないんじゃけっ、察しんさいや、クソがぁっ」


広島弁でそう言い放ち、リコリスは、思い切り、ばぁん、と机に拳をたたきつけた。

この書記官、口が遠慮無く悪い。


エメラルドのゆるふわなロングヘアをぐしゃぐしゃとかきまぜて、大きなため息をつく。

リコリスは、童顔で、なかなか頭が悪そうな声色をしている。

小柄で華奢な身体をばたばたと動かして、


「私達はよくやったもん! 死神長ナシで20年っ、ブラック通り越してカオスな労働条件も飲み込んで! でも、人間には限界ってモノがあるわぁっ! 生身じゃ無理ッ」


ひとしきり暴れると、また最初に戻ったようにつっぷして動かなくなった。


「そう拗ねるな、前死神長第一書記官 骸華 リコリス君。

しかたないだろう? 

20年前に、伝説の死神長のキリトは死んでしまったのだからねェ」


リコリスがいきおいよく顔を上げると、彼女の上司が歪んだ笑みをたたえていた。


「柳瀬所長!」


慌ててリコリスは乱れた髪の毛を整えた。


その所長、ノックもなしに入ってくるので有名なデリカシーナシ男である。


「志郎クンって呼んでよ♡」


悪びれる様子もなく、白いスーツ姿の長身の中年男は小首をかしげてみせた。

短髪をオールバックにし、マフィア気取りのような出で立ちをしている。

ノリのよくきいた黒いシャツに、ラベンダー色のネクタイをしている。


「遠慮します」

キッパリと断ると、リコリスは行儀よく椅子に座り直した。

暴れたせいでズレた十字架モチーフにしたマントの中心にあるオーヴの位置を、身体の中央に戻す。


「そんな骸華君に、朗報をあげようかな」


言って、柳瀬は一枚の司令書をリコリスの目の前にピラリと踊らせてみせた。


「『L.O.A.D.』からのお達しさ。

さあ、盛大にお迎えしようじゃないか。

ーー伝説の死神長、キリトの再誕だ」

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