第五十一話「共闘」
いつの間にか五十話こえてました。
いつもありがとうございます。
「いいわー、いいわねーアナタのその殺気……アナタ、名前は?」
「次郎だ」
「ジロー……私はラティーナ。狩人ラティーナよ」
「そんな事よりいいのか? 勇者が冒険者を襲ったりして? 徳が無くなるんじゃないか?」
「ヒヒヒヒヒ、両者の合意の上の決闘なら喧嘩として扱われるのよ。相手を殺さなければ数百の徳数が減るだけよ。そう、殺さなければね」
「なるほど、それを聞いて安心した」
「…………生意気な男ね」
戦闘開始。
ラティーナが地面を蹴って間合いを詰める。
チャールズを放ってはおけないな。となるとこの場から離れるのは愚策。受け手に回るのは本意じゃないが、仕方ない。
足場が良いとは言えないが砂利が多いだけだ、なんとかなるだろう。視界は良好、目標との距離二十、十、ゼロ。
キキキィーン
「あら見えるの? ヒヒッ」
「……っ」
歪な形の武器だ。ノコギリ状の刃にうねった刀身の剣。
防御に成功はしているがかなりの膂力だ。防戦一方ではいずれ押し切られるだろう。幾度もぶつかる刃と刃、自分が格上だと理解しているのか相手の攻めが単調なのはせめてもの救いだな。
ラティーナ……プラチナランクに達しているとは思うが、ライト程ではない。問題は隠しているスキルの方だろう。
「ヒヒヒヒ、少しずついたぶってあげるわっ。アップ!」
「アップ!」
フォース発動時の力の上昇率もランクで変わる。これで少し差が出来てしまう。既に劣勢か。
「お腹いただき~、ヒヒヒ」
「……ぐぅ」
腹部に鈍痛。左拳を受けるも身体を捻って致命傷を免れる事に成功。
「はぁっ!」
ラティーナの身体を赤い光が包む。ちぃ、剛力か!
「ヒヒヒヒ、更に……」
青い光……疾風か。仕方ない、こちらも殺気を発動し迎撃する。
ギギギギギィン
まるでハンマーで攻撃を受けているように重い。チャールズと二人なら撃退出来ただろうが、そんな事を今言ってもどうしようもない。
「あら、なにそれー? ユニークスキルかしら? けど、それじゃ攻撃の軌道が丸見えよ。ヒヒヒヒッ」
殺気により、多少の巻き返しはあったものの、やはり常時殺気が出続けている以上、格下相手ならば有効だろうが、格上相手に力押しは厳しい。
重い、速い、巧い。ついにラティーナは緩急を使い始めた。
ザシュッ!
「くっ……」
「ヒヒヒヒヒヒッ!」
肩部に刀傷。そこまで深くない、だが剣を持つ腕に少なからず影響が出そうだ。どうにか足元にいるチャールズだけでも逃がす事は出来ないだろうか……。
「さぁいよいよカウントダウンね。ヒヒ、まずは目玉をくり抜いてあげるわ……」
「ッ……ガァアアアアッ!」
「なにっ!? ちぃっ!」
首だけ起こしたチャールズが俺の足元から奴に向かってブレスを放った。
しかしラティーナは後方に跳びこれを回避、良い奇襲だったが、失敗に終わったか。
「おい、無理をするな」
「ぬぅ、外したか。……なに心配するな。次郎の手当てのおかげで死ぬ事はない……それでも首から上しか動かぬがな……」
「ヒヒヒヒ、楽しませてくれるわね。でもやーねー、内緒話かしらー?」
「ふん、下種びた声だ。次郎、アレを使え。……この距離ならなんとかなるだろう」
「……俺もそう思っていたところだ」
ランクメタルに上がった時に得たスキル殺気。そしてランクシルバーに上がった時に得たあのスキルを使えば――
「黒竜の素材は高く売れそうだわ。ヒヒヒヒ」
「ガァアアアアッ!」
「しつこいわねっ!」
『今だ太郎!』
ブレスを放ち、再びラティーナを宙へと追いやったチャールズからのトス。
上空ならば動く事は出来ない!
背中から取り出した物を奴に向け、叫ぶ。
「チャージ!」
銀色の鈍い光が俺の手を包む。引き金を引いた瞬間、ソレは大きな音を出してラティーナへと向かっていった。
「ギャッ!」
突如襲った衝撃にラティーナの声があがる。
奴の鎖骨は砕け、その先の肉を貫いていったものは、俺のフォースだ。
背中に携え今は手に持っているソレは「S&W M500」。俺が異世界に来た時に持っていたリボルバーだ。
ランクシルバーに上がった時、以前尻尾を斬られた男が提示したのはチャージというスキル。
武器にフォースを込め、それを放つというありふれたものだった。しかし、リボルバーを持っていた俺にとっては正に僥倖というべきスキルだった。
弾が無くてもリボルバーにフォースという名の弾を込める事が出来るのだ。成功した時のチャールズの笑い声が耳に新しい。
フォースの消費量が激しく弾数に制限があるから滅多に使えるものでもないが、今回はギリギリ一発放てる程にはフォースが残っていたようだ。
俺は激しく呼吸を乱すチャールズを抱える。
少し離れた場所ではラティーナが咳と共に血を吐いている。
「じ、次郎、ぜぇぜぇ……あ、あのままで……いいのか?」
「出来れば事故として殺したいが、それで徳が消えてしまうとなるとかなりの痛手だ。このまま生きたのならばそれは奴の運だろう」
「ぜぇ、ぜぇ……そう、か」
それだけ言うと、チャールズはガクリと意識を失った。
俺はチャールズに手当てのスキルを施しながら走った。このままダリルに行く事も考えたが後々の事を考えるとセーフハウスへ向かった方が安心だ。幸い本人の言う通り死ぬ程の傷ではないからな。チャールズはかなりの重量だが、ランクが上がった状態であれば地球での重装備訓練と似たようなものだ。
山脈地帯を越え草原に出る。風を切り草を切って走った。頬を撫でる風が冷たい……もうじき雨が降るな。
一○三○。
やはり雨が降り始める。間も無くセーフハウスに着くというのにこの状態でチャールズの身体を冷やすのはあまり良くない。急がなくてはいけない状況だが、既にフォースも枯渇し体力も限界に近い。多少の戦闘があったにせよ、たった数時間でこの体たらくは最悪だ。まだまだ修練を積む必要があるな。
一○四三。
不思議な気配を感じた。
今もなお雨は降っている。しかし、既にセーフハウスがある林には入っている。この地帯で感じる気配といえばセシルかハチヘイルだが……そういった類の気配ではない。
急いで帰投したいところだが、セーフハウスへはゆっくりと近づいた。気配を絶ち、茂みから茂み、あるいは木の影を伝って歩いた。
目標地点に到達した時、不思議な気配の正体が判明した。
なんだアレは……青い球体、いや、水色に近い球体だ。
雨に打たれながらゼリー状の張りのある輪郭を揺らしている。そして隣には……セシル。どういう事だ? 害意はないようだが……。
その時だった。俺の真上、木の枝から強烈な気配を感じたのは。
た、退避っ……出来ない。身体が思うように動かない……万事休すかっ。
上から降って来たのは白い身体。ラティーナが追って来たのかと肝を冷やしたが、あの傷で俺に追いつけるはずもない。
そしてその正体は、女であるラティーナよりも更に細く……そしてありえない形状をしていた。
「ス、スケルトンッ?」
「カカカカカッコカカッ」
上顎と下顎を鳴らして俺の前に現れたのは、スケルトンという魔物に酷似していた。そう、似ていただけだ。中身は全くの別物。スケルトンなら武器は持たない。だがヤツは持っている。白い光がやんわりと包んでいるような簡素だが美しい装飾の施された直剣を。
そしてスケルトンは…………こんなに強くないっ!
ラティーナも……いや、ライトでさえもここまで強くはないだろう。恐るべき戦闘力。一瞬で死を連想させる、そんな圧迫感があった。
これはおそらくランクマスター相当の魔物っ! 一体何故こんなところにっ!?
「カッカカコカッ」
スケルトンが左手を差し出してきた。手には何かの植物……これは――
薬草?
カカカカカッコカカッ⇒はじめまして、リボーンです
カッカカコカッ⇒これをどうぞ




