第四十六話「魔神と副神と邪神」
――神界 魔神殿――
「神界 魔神殿…………で、なんだよ? え、今回は何故俺の回に回ってきたんだ?」
「レウス、何独り言言ってるの?」
「あー、ビアンカ。戻ってたのか。おかえりー」
「うん、ただいま♪ お兄ちゃん召喚されちゃったんだって? トゥースが言ってたわよ?」
「そうなんだよ。しかし喜べ、親分はもう既にシルバーランクだよ」
そうそう、そんな顔になるよな。目は丸くて「くぴ?」って、うんうんそんな感じ。
「……召喚されてまだ数日よね?」
「まだ四日だよ。あの人テストプレイには参加してなかったはずなのに魔物の特性網羅しちゃってたわ。どうなってんだあの戦闘脳は……」
「副神様に傷をつける位だからね……」
「主神越え最有力候補って言われてる位だからな。そりゃ邪神の奴も真っ先に殺そうとするわ」
「あ、その邪神さんから神界通話入ってるって副神様から連絡あったわよ?」
それを先に言えよ。
「……主神と副神さんの同席が必要だな。先にそっちに繋いでくれ」
「そう言うと思ってグループ回線にしたわ。既に呼び出し中。副神様は既に待機しているわ。主神はもしかしたら連絡つかないかも……」
……出来た嫁をもったもんだ。
ビーナスやハティーやキャスカじゃこうはいかないだろうな。ケミナも……まぁビアンカ程ってのは難しいか。
「守秘義務が発生するから別室を使うわ」
「うん、上の応接間にセキュリティ権限承認コードを送っておいたから、そこからログインして繋いで頂戴。トルソ達の面倒はしばらく見てるから終わって落ち着いたら来てね♪」
「あ、はい」
やはりしっかりした嫁だな。
出会った時に「ばいんばいんのねーちゃん」とか外見から入った俺をどうぞ許して頂きたい。
と、いう訳で、魔神殿三階にある応接間ですよい!
「システム起動、認証コード『ミヤザキケント』。パスコード『インキョヘン』。第二パスコード『ピュアドラッグ』。……おし、あーテステス。ワレワレハウチュウジンダ」
『ふふふ、毎回クスリという笑いを提供して頂けますね。宮崎さん?』
『お久しぶりっす副神さん』
『ええ、お久しぶりです。《大神界フェスティバル》以来ですか?』
『そうですね。後少しで主神をぼこれたのに残念です』
『いいえ、あの方はまだ余力を残していましたよ。まだしばらくは敵わなさそうです』
まじか、やはり盤石野郎だったか。
そんなら、あんなのどうやって倒すんだよ……。
『ははは、聞こえてますよ宮崎さん』
『え、あ本当だ。心深通話機能もオンになってるわ。こりゃ失礼しました』
『今回は相手が相手ですからね。用心しとかなくては……』
『主神のじーさんは……無理そうですね……』
『仕方ありません。先方もお待ちなので繋ぎましょう。我々に出来る事は話を聞く事にあり、決定は主神にお任せしますから。メイン回線は宮崎さんなので通話の録音をお願いします』
『了解しました!』
こりゃ緊張するな。
『ふふふ、それでは繋ぎます……こんにちは』
『おや、その声は副神じゃないかい?』
低いが、この声は女か?
『……レウスさん、大物ですよ。邪神序列二位の《アーリマン》です』
『……初めまして、レウスです』
『アーリマンだ。何、そんなに緊張しなくて良い。我々は互いの世界に干渉出来ない。唯一現世でのみ争う事が出来る存在だ。例え魔神レウスがここで罵詈雑言を吐いたとしても私は君に何も出来ないのだから』
『そのような事はわかっております。私が聞きたいのは何故膨大なエネルギーを使ってまで我々にコンタクトをとったのかお伺いしたいですね?』
『まったく相変わらずつれない奴だね。……まあいい。今日私が魔神を指名してわざわざ連絡を取ったのは他でもない。あのオルネインの事さ。あんな珍しい布教方法とふざけたシステムは、神界の異端児、レウスの仕業だって事は、名前が触れられる前から気付いていたよ。……話に聞いてたのよりまともだな?』
『猫かぶってますから』
『……そのようだな』
『オルネインの事……という事は、今回私は関係無さそうですね? もしかしてあそこの管轄をアーリマンが行っているのですか?』
『そうだ。どうせ録音しているのだろう? 出来れば二人で話したいのだがね? 限定型心深通話機能を使ってくれても構わない』
『……えらく腰が低いですね?』
『今回の目的はレウスの意見を聞く事にあるからな』
『ほぉ……。いかがですレウスさん? 限定型心深通話機能でしたら相手の心中開示のみで、こちらの情報は漏れる事はありません。高位邪神との会話……良い機会ですから少しお話してみますか?』
『……それじゃ、勉強だと思って少し話させてもらいます』
『では、後程録音を聞くのを楽しみにしていますよ。レウスさん?』
副神さんが回線から外れ、俺とアーリマンだけになった。
ところで『マン』が付いて、女ってなんか違和感があるな。アーリマン……確かどっかの宗教かなんかの悪認定されている名前だったはずだ。
落ち着いているが女にしては低くボーイッシュな声、というのが正しいか。
さてさて、そのアーリマン様とのマンツーマンの対談だ。社会勉強を兼ねていっちょ頑張りますか!
『近況報告は終わったかな?』
『ええ、お気遣いどうも』
『まずは破壊神の件だが……』
『アーリマンにとって本当にプラスになったかどうか……その事を聞きたいもんですね』
『ガイモンで殺せなかったのは痛いな。もはや簡単には殺せないランクまで駆け上がってしまった。……噂以上の奴だった。完全に誤算だよ』
『俺の師匠ですからね』
『ああ、邪神界でも数百年前噂になったよ。あの主神が人界からとんでもない二人を拾い上げたってな。噂に尾ひれと思ってそこまで探りを入れなかったのは手痛いかったな』
意外に褒めてくださってやがるぜ。
『そうしていればこの新規開拓星がここまで神族側に偏る事は無かっただろう。いやまったく大したものだ』
『手放しで褒めてくれるのは光栄ですけど、そろそろ本題に進んではいかがです?』
『ほぉ、意外に真面目なんだな?』
『しがないサラリーマンですから』
『……自ら手足となる事を望んでいるかの物言いだな?』
『自分の分を弁えてるだけですよ。だから敵であるアーリマンに多少の敬意を払ってます』
『私に? 神族が邪神族私をどう敬うのかな?』
『俺より強い。俺より聡い。まぁ簡単にあげたらそんなとこです。ようは自分より優れている力を持っている者に対してだったら、多少の敬意は必要なんじゃないかなーと。あ、それに初対面、というか初めての会話ですからね。自分の印象を良くしたいだけなのかもしれないですけど、後々の遺恨を無くしたり、後々のメリットを考えるならば悪い印象を与えるよりかは良いでしょう? ……おぉ、噛まずに言えた!』
あ、レウスのボロが出た。
『なるほどなるほど、これが魔神レウスか。己の内を予めさらけ出し、相手からの印象レベルや許容範囲を可能な限り拡げる手法。間違いではないな。…………ではそれに肖って私も少しさらけ出そう』
少し……ね。そして奥底にとどめる情報はきっちりと胸の中。
公開範囲をもっと変更出来れば良いんだが、そんな事出来る技術もないしな。
『先日の破壊神の件だが、無理矢理行った事に対して我々にも少なからずペナルティが発生する。本日はその相手への探りとそのペナルティを支払いに来た……そういう事だ』
おのれ、予め決まってる事を『肖って』とか言うんじゃねーよ。
あ、俺やれば出来るんじゃね? とか思ったのが馬鹿みたいじゃないか。
『……ふふ、不満そうだな』
『そりゃまあ。さあ、ちゃっちゃと教えちゃってくれちゃってください』
『報告は二つ。まず魔王の誕生についてだ』
『ありゃ、そんなに早く生まれちゃうんです?』
『勇者統一トーナメントが終わってから残り十ヶ月……という段階だ』
意外に早い……トーナメント後のまとめや準備からして、十ヶ月はギリギリだな。
『……で、もう一つは?』
『魔神の手の者、スンとリボーンと言ったか? 奴等の存在に裏ギルドが気付くのも時間の問題だな』
『……これは大サービスですね? もしかしたら大天使と剣神を殺せるかもしれないのに教えてくれて良かったんですか?』
『破壊神に対して神堕ろしが出来たんだ。これでも安い位さ。事実勢力は邪神側に傾いている。そろそろ逃げる準備をさせた方が良いんじゃないか? ふふふふ』
ってな感じで邪神アーリマンからのファーストコンタクトは終わった。録音ファイルを副神と主神に送り、俺は通常業務に戻った。
邪神からの報告。
間も無く魔王が誕生する事。そしてスン達が危険な事。……この事に対してマカオ便を使いスンとリボーンに指令を送った。もう間も無く届くだろうな。
しっかし困ったな。まだまだ準備が整ってないのに。是非ともスタートボタンを押してメニュー画面から設定へいって、難易度をベリーイージーに変えたいものだ。
――闇の国ブボール 二の町――
ダークミストと呼ばれる闇の霧に覆われた国、ブボール。
町に名前は無く、簡単な数表記でその土地に記号を与えており、ブボールに一番近い町がこの『二の町』である。
太陽は差さず、常に薄暗く、夜になれば闇に包まれるその町の地下に、カコンカコンと不気味な音が聞こえる。
何者かが地下道を歩いている。そんな音が一つ、また一つと響く。この国では、弱い魔物であれば町に侵入する事は間々あるが、暗闇を歩くその様相は至って……異常だった。
骨。
周囲を警戒しながら全身が骨の魔物が歩いている。剥き出しのその髑髏には笑みともとれる表情。それが動く事はないが、微かに口だけは可動している。
カコン、カコン、カコン。
骸骨が地下道を歩くその様子は異様で、そしてまたこの国の治安の悪さを物語っていた。
カコン、カコン、カコン。
水雫が落ちた音さえ響くこの地下道を歩く魔物は突然ピタリと足を止めた。
真っ直ぐだった道の脇に古ぼけた木の扉があった。
骸骨は頭部だけをぐるりと一周させ周りを警戒する。後ろ手にその扉を開け、後退しながらその部屋へ入る。
部屋の中は松明で照らされ、中央奥には何者かが座っている。
ぎい、と扉を閉じた骸骨は、振り返って手を上げた。どうやら挨拶のジェスチャーのようだ。
「カカカッコカコカコッ」
その骨を鳴らす音に、後ろを向いていた丸く青い球体のような魔物が振り向く。
「きゅっきゅい」




