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第三話「奴等」

 ――リンマール。太郎が漂着した海から30キロ程北東に進んだ場所に存在する村である。因みに、オークレプリカの森の出口からだと約15キロの道のりとなる。木造建築の家々が建ち並び、のどかだが村民達の顔は明るく活気に溢れている。


 太郎達一向は村の南門前に立ち止った。するとアリスが村の中央北を指差す。


「あっちがリンマールの教会よ。私達はギルドに報告があるから……じゃあね、短い時間だったけど中々面白かったわ」


 淡々と言葉を述べ、アリスは足早に村の東へと歩いて行った。


「やれやれ……すまんのタロー。お主の言葉が大分(こた)えたみたいだの」

「考え方は色々ある。多数の意見に流されるのは仕方のない事だ。アリスの言い分にも(もっと)もな事が多い。俺が少数派だっただけだろう」

「……お主、この後どうするつもりじゃ?」

「しばらくは情報を集める為にここを拠点に動くだろう」

「そうか、先程話した件、真剣に考える事を勧めるぞ」

「あぁ……」

「ではな」

「世話になった。アリスにもそう伝えておいてくれ」

「あぁ、必ずな」


 そう言ってバールザールはアリスが歩いて行った方向へ歩いて行った。バールザールが見えなくなると、太郎はある事に気がつき、それに目をやった。


(……やってしまった、鉄剣を借りたままとは。あのナイフを気に入ってくれてるのなら構わないのだが……)


「おい兄ちゃん!」


 太郎は誰からか声を掛けられ、その声の主の方を見た。

 視線の先には、何かの店の店主と思われる男がそこに立っていた。男の背後には剣や盾等の鉄製の武具が立て掛けられいる。

 おそらく武具店の店主だろう。その男は白い薄汚れた前掛けを付け、職人風のつなぎ服を着ていた。


「俺の事か?」

「そう、アンタだよ」

「どうした?」

「どうしたじゃないよ、いくらなんでも抜き身の剣を持ち歩くのはいただけねぇよ」


 店主が太郎の持つ鉄剣を指差した。そう、まぬけな話だが、鞘(太郎の場合はナイフホルスターだが)の交換はしていなかったのだ。


「あぁ……すまない。さっきの女と武器の交換をしたのだが、返す話をしていたから鞘の交換まではしていなかったんだ」

「あー、やっぱりアリスちゃんの剣か。ここで売ったから覚えてるよ。良ければ鞘を適当に見繕うが?」

「すまない、生憎持ち合わせがないんだ」

「安くしとくって」

「すまない、一銭も持ってないんだ。いくら安くしてくれても支払う金がないんだ」


 男はあんぐりと口を開き驚いた。


「おいおい、大丈夫かよ兄ちゃん」

「あぁ、今から教会とやらに行って天職を授かって来ようと思ってる。その後は仕事探しだな」


 店主の男は太郎をじっと見つめ、腕を組む。

 小さく鼻息を吐き商品棚の中から古びた鞘を出してくる。


「……よしわかった! この鞘を使いな、そんで金が溜まったらそれを支払いに来な」

「いいのか? 払わないかもしれないぞ?」

「本当に払わない奴はそんな事聞かねぇよ。あぁ、もうすぐ教会が閉まる時間だから早めに行った方が良い。仕事を探すなら村の東のギルドに行きな」

「了解だ、感謝する」

「俺はエッジってんだ、兄ちゃんは?」

「太郎だ」

「タロー? 何か変な名前だな。俺は日中はいつもここにいるから見かけたら声でもかけてくんな!」

「あぁ」


 そして太郎はややくたびれてはいるが頑丈そうな鞘を受け取り、教会へ向かい歩いて行った。

 太郎は歩いている途中、穀物をを売っている店や野菜を売っている店等を発見した。見た事のある穀物や野菜もあったが、見た事もない作物も中には見受けられた。

 リンマールでは、村の南側に店が集中している様だった。

 太郎が村の中央広場まで来ると、駆けっこで遊ぶ子供達や、何かの「ごっこ」遊びをしている子供達がいた。

 そしてその正面には橙色の屋根の石造建築の建物が見えた。


(おそらくこれが教会……何故十字架じゃなくハート型のオブジェが……)


 教会2階の釣鐘近くには十字架……ではなく、ハート型のオブジェが石中に組み込んであった。

 太郎は観音開き型の木製の大きな扉をゆっくり押し開いた。

 教会内は狭く、簡素な長椅子が縦2列、横3列の6脚あり、中央奥には何かの石像と、その左側には神父と思われる人物が立っていた。


「ようこそリンマール教会へ。間も無く閉院となりますが、どの様なご用件でしょう?」

「ここで天職を授かれると聞いたんだが?」

「おぉ、そうでしたか。では、レウス様の正面にお立ちください」

「これがそうなのか?」

「左様でございます」


 太郎は石像の前に立った。

 石像は若い男で、髪は短髪でボサボサの頭だった。耳がやや尖っていて、簡素な旅人の様な服装を着ていた。そして右腰に剣、背中にも剣を携えていた。


(この世界の神は剣術を嗜むのか?)


「どうぞ、目をお瞑りください」


(どうも信じられないが……仕方ない)


 太郎は神父に言われた通り、目を閉じた。するとそれを確認した神父がうんと頷き手を合わせる。


「魔神レウス様、どうか迷える子羊をお救いください」


 神父の声に反応したのか、魔神の石像が光り始めた。

 すると、太郎の脳内に語りかける様に何かの音と声が聞こえてきた。


『迷える子羊さんいらっしゃいなのだ! 只今回線が混み合ってるのだ! もう少し待っているのだ!』


(少女の声が……?)


 意外にも聞こえてきたのは年端もいかない少女の様な声だった。


『違うのだ! ハティーは大人なのだ! 子作りだって――』

『こらハティー、何をやっている。ここはガラードの席だぞ』

『代わりに出てやったのだ!』

『感謝する。お電話代わりました。担当のガラードです』


(今度は太い声が……?)


『太いで思い出した。ガラードは太巻きを作っている途中だった。担当者が席を離れるのでもう少々お待ちください』


(一体……何なんだ……?)


『もうやだ〜、中々良いカンジの優男じゃな〜い♪』


(今度は低いようで高い男の声?)


『マカオ、繋いで良いぞ』

『あぁん、つ、繋がるぅううう〜♪』


 入れ替わり立ち替わり声の主が変わり太郎は――プッ


『ちょっと黙っててくれ』


 ガー……ピー……。


『あーあー、テストテスト、聞こえるかな?』

『……聞こえる』

『初めまして、レウスです。えーっと……うお、地球出身かよ。なーなー、どこ住みー!?』

『地球を知っているのか!?』

『あーすまない。えーっと太郎さんも大変みたいだな。迷惑を掛けて申し訳ない』

『……地球には戻れないのか?』

『世界ってのは完全じゃないんだ。どうしても起きてしまうバグが存在する。そのバグを潰しても絶対に次のバグが出来てしまう。ちょっと意味は違うけと、「光あれば闇もまた」ってやつだな。すまないが不幸な事故だと思って諦めてくれ。それに――』

『それに……?』

『大体異界から来る人間は元の世界に未練が無かったりするらしい。むしろそういったバグしかないみたいなんだが……どうだ?』

『……確かにそうかもしれんな』

『おし、そんじゃあ他に質問あるか?』

『連れがいたんだが……知らないか?』

『あ、ちょっと待ってくれ……何だよチャッピー!?』

『レウスゥウウ、息子がどっか行っちゃったー!』

『泣くなよ汚い!』

『レウスなんてユグドラシルの木に住んでた頃はもっと汚かったし!』

『生理現象です』

『我もだし!』

『あーったく、スンは出てるからなぁ……。あ、舞虎(まいこ)さん、すいませんけど、ちょっとチャッピーのバカ息子探して来てください!』

『わかりましたぁ』

『バカ息子って何だよ! 我の息子だぞ!』

『いいからチャッピーも探して来いよ!』

『レ、レウスなんてぇえええええ!』

『夕飯土だけにしちゃうぞー』

『行ってきます』



『あー、すまないな騒がしくて……』

『…………』

『えーっと、アイザックさんか……あぁ、太郎さんと一緒にこの世界へ来てるね』

『場所は?』

『申し訳ない、そういうのは禁止事項なんだ。その世界の技術を超える行いは出来るが……出来ない。やっちゃいけないんだ。神も色々面倒なんだよ……』

『いや、それなら構わない。生きているとわかっただけで十分だ。……どうやら、苦労が絶えないようだな』

『あはは、さんきゅー! さぁて太郎さんの天職だったな。えーっと………………わろりん』

『どうした?』

『……殺し屋(アサシン)だと』

『やはり変わりなしか』

『マジかよ、殺し屋だったの!? ……うーん、まだこっちに太郎さんの資料が届いてないんだよなぁ。まぁ、太郎さんならうまくやるだろ』

『うまく?』

『そいつは時期がきてからのお楽しみだ。そんじゃあジョブの説明するぞ?』

『あぁ、頼む』

『魔物は人間を襲う。調整したが襲ってしまうんだからしょうがない。だから死なない為に倒せ。倒したら「徳」の値が上がって行く。あ、徳の確認は俺の石像の前で出来るぞ。んで、その徳とそのジョブに応じたスキルと交換出来る。どうだ、簡単だろ?』

『まるでゲームの様だな……』

『俺だってこんなシステム納得してないけど、そうしないとここの世界の人間が全滅しちまうんだ。これでも頑張ってるんだぜ?』

『あぁ、わかった。魔物を倒す以外で徳は溜まらないのか?』

『良い質問だな、大抵は善行により溜まったりするが、太郎さんのジョブだと……あ、悪人成敗とか良いかもな』

『把握した』

『何で悪人が出来ちまうか俺でもわからない。……やはり生まれながらの不平等とかが原因なのかもしれないな。今そのレポートを作ってるから、論文にして今度神界で発表して来ようと思ってるんだ』

『そうか……』

『あ、ちょっと今から独り言するけど気にしないでくれな!』

『……?』



『やぁ皆、お久しぶり! 紆余曲折ありまして魔神やってます! かったい作品だと思った? 残念、俺はまだまだやりたい事があるんだ! なに、隠居編? あんなのとっくの昔に終わっちまったよ! やっぱり賑やかで楽しいのが1番だよな! 皆もやりたい事があるだろ? だから皆も前のめりで頑張ってくれよな! 女の子とかは前のめりになった後、突っ伏して女豹のポーズとかするとグッジョブだ! まぁ、責任は取れないけどな! 以上、前作主人公でした! あ、質問があればメッセージくれればアイツがアレするぞ!』



『……な、なんなんだ?』

『まぁ、気にしないでくれ。何か聞きたい事があったら魔神像の前で一発芸かなんかやれば俺と回線が繋がるから!』

『わかった』

『……冗談だからな。普通に目を閉じて心で話しかければ大丈夫だ』

『そのつもりだ』

『……お主、なかなか出来るな?』

『面白い神もいたもんだな』

『まずはこの世界で生き抜いてみな。そのうち目的や生きがいが見つかるかもしれん』

『……頭に入れておこう』

『えーっと、これをチョイチョイってな……そんじゃあまたな!』


 ガー……ピー……。


 入れ替わり立ち替わり声の主が変わり太郎は………………ピーッ

 こうして太郎は天職を授かる事に成功し、殺し屋(アサシン)のジョブを手に入れたのだった。

こんな作品ですよ。

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