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~転生孤児ANOTHER~「殺し屋と勇者の事情」  作者: 壱弐参


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第三十三話「仕事」

 以下は殺し屋太郎の本日のミッション、「モジモフの真意」に関する脳内レポートである。


 新調した黒装束。この時代のこういった場所であれば迷彩パンツよりも黒装束が最適だ。

 昼に購入した、上下の黒い服を装着し、目出し用の頭巾も着けた。これで顔がばれる事はないだろう。

 特別目立った物は売っていなかったダリルだが、ちょっとした物が売っていた。


 それは、アイザックの赤いジャンパーだった。物色している時に裏地を確認したので間違いない。

 左胸元の裏に、金色の刺繍で確かに「ATM」のロゴが入っていた。あれは俺達のチーム名《アイザック・太郎・メイデンズ》。アイザック曰く、意味は『未婚の二人』だそうだ。

 1200レンジと高価だったが、アイザックが着たならば喜ぶだろうと思い、購入に踏み切った。

 あまり無駄遣いはしたくないのだがな。


 そして、昼間に会ったあの女、確かセシルとか言ったか。

 あの女が市場に現れた時は冷や汗ものだった。誰かを探しているようだったが、俺の事を探していたのだろうか?

 あの後少し追いかけてきたので、もしかするとそうなのかもしれん。一体何が狙いなんだ?


 夜遅く、アイザックのジャンパーを宿に置き、部屋を出る。

 山が近いせいか、辺りには霧が立ちこめる。城下町は夜十時には静かになるり、賑わっていると言ってもギルドや飲み屋程度だ。

 モジモフの屋敷までのルートを、昼間の内に確認しておいたので、大丈夫だろう。


 ――中央西にあるモジモフの屋敷――


 二三三○(ふたさんさんまる)

 遠方から聞こえる町のざわめきは、モジモフ邸に届きはするが、やはり現代の喧騒には敵わないだろう。

 モジモフ邸は堅固な塀で囲まれているが、ユーリウスやボロスの屋敷程ではなかった。塀の外側からでも中が見れるのは大きい。

 だが、そのせいか警備の数が多い。数十メートルおきに警備が見受けられる。これは……やはり何かあるな。

 チャールズに作ってもらったこれが役に立つ時だろう。

 チャールズ曰く《茶太郎ブロウガンβ》と言うらしい。茶太郎と言うのはどうやらブランド名らしい。人間臭い竜もいたもんだな。

 ブロウガン……つまり吹き矢だな。木製の小さな矢だが、これに《スリプル》という野草を塗布している。

 フォースを使えばダメージを与える事が出来るが、今回は眠ってもらうだけだ。必要ないだろうし、それに勿体無い。フォース残量が勝負を分ける事もあるだろう。

 効き目に関しては自身で実証済みだ。現代の眠剤や投薬の耐性を付けている俺がテストしてみたところ、ふらつく程度の効果が出た為問題ないだろう。


 端の警備に吹き矢を吹き、効果が表れる前にその近くの警備に向かい吹きつける。この際、衣服の上から当てるのが良いだろう。


 体の異変に気付いた時には既に手遅れだ。その場に膝を折って倒れた兵を回収し、建物の陰に隠す。警備といっても警備の何たるかを知らない素人ばかりだな。

 同様にもう一人の警備を立たせ、近くにある手頃な木に括りつける。これでしばらく時間が稼げるだろう。

 これより屋敷内へ侵入する。


 二三四○(ふたさんよんまる)

 空いてる部屋も無かった為、近くにあった一階の窓覗きこみ、室内を確認した後、ダガーを使いこじ開け、すぐに室内に入り込んだ。

 入った先はあまり使われていない、物置のような場所だった。

 丁度いい。こういった場所が見落としがちな場所だったりする。


 埃が被っていない場所……つまりここ最近使われたであろう場所を物色するが、モジモフに関する情報を発見出来なかった。

 いや、待て……何か違和感を感じる部屋だ。


 何だ、この違和感は……?


 俺が主人なら手伝いの者にこの部屋を掃除させるだろう。

 確かに床は綺麗になっている。がしかし、大小様々な棚やチェストには埃が被っている。おそらく「大事な物が入っているから」と言って掃除をさせてないのだろうが、先程物色した場所は、かなり綺麗で、保存状態も良かった。

 もし、これがカモフラージュだとしたなら…………やはり、全て調べておくのが良いかもしれないな。


 二三四五(ふたさんよんご)

 奥行きがある棚の奥から埃が被っていない木箱を発見。

 なるほど、埃の上に足跡が残るのを防ぐために、床だけは掃除させているという事か。木箱の中から羊皮紙の巻物を発見した。

 中に記されていたのは……ボロスとユーリウスとモジモフの名前が入った連判状だった。

 他複数名が、風の国ウインズの傘下支持を表明しているな。これでモジモフの真意がわかったな。しかし、これだけでは情報が足りないと思うが……仕方ない。調査結果は調査結果だ。後はレイダがどう行動を起こすかだろう。

 俺は物置内にある似たような羊皮紙を丸め、ダミーとして木箱に入れ、元の場所に戻した。これより脱出する。

 侵入経路を使い、窓から屋敷の庭へでる。

 他の警備に見つかる事なく脱出する事に成功し、急ぎギルドまで走った。


 二四○五(ふたよんまるご)

 ギルドに着き、レイダに連判状を渡す。

 モジモフの屋敷から持ち帰ったという事を知っているせいか、暗い面持ちで連判状を受け取ったレイダは、中にある名前をゆっくりと見た。


「まったく……茶番、だったな……」

「そのようだな」

「ひどい奴だ、慰めてはくれないのか?」

「人からの偽りの信頼を信頼で返すのが良くないだけだ。信に足る人物というのはそんなにいるものじゃない。上下関係にある者ならば尚更だ。裏の顔を知って、初めて信頼するのが良いだろう」

「…………」


 レイダは少し考えた後、小さく溜め息を吐き立ちあがった。どうやら身支度を始めたようだ。


「そうだな、膿を出すには良い機会だ。ダリルの王に報告するのであれば早い方が良い。例え深夜であってもな」

「果たして陛下に拝謁出来るかどうかはわからないが、朝になると手遅れになりそうだな」

「あぁ、警備を二人倒しているし、物置の窓もこじ開けられている。時間との勝負だ、行くぞ」

「…………付いてきてくれるのか?」


 レイダは意外だという顔で俺を見てきた。


「当然だ、モジモフが俺の報酬を払う予定なんだろう? そいつがいなくなったら誰が立て替えてくれると思っている?」

「ふっ、陛下との拝謁が許されれば必ず……いや、許されなくとも私が必ず払う」

「あぁ、だからこそ死んでもらっては困る。護衛は任せろ」

「……タローは信頼して良さそうだ」


 勉強をしない奴だと思った。

 しかし、契約中は相手を裏切る事はしない。断っていいのは依頼を受ける前までだ。

 こういった商売こそ、信頼関係の上に成り立つものだ……金というモノがあってこそだがな。


 俺とレイダは急ぎ、ダリルの宮殿へと向かった。

 途中、城下町の中央区まで来ると、西の方が騒がしくなり始めていた。どうやら俺が倒した警備の二人が見つかったみたいだ。


「中央を突っ切るのは危ないな。南から迂回するぞ」

「了解だ」


 レイダは女の割には話の分かる人間だ。戦闘技術も二十前後の年ではかなりのものだろう。適確な状況判断……アリスにはない技術だ。

 ……何故今アリスの事が頭を過ったのだろう? 気になっている……? 馬鹿馬鹿しいが過ったという事ならそういう事なのだろう。

 アリス、ジャンボ……あいつらは今頃何をしているのか?


 いかんな、集中しなくては。


 南西の路地裏から北上し、西端にある宮殿を発見。

 正門からしか入城出来ないとの事だが、おそらくどこかに隠し出入り口があるだろう。王に万が一があった場合を歴代の臣下が考えないはずがない。

 正門に着くと、門番の一人がレイダに近づく。体型は俺と似ていたが、俺はあんなに下衆びた笑い方はしない。顔は性格を表すと言うが、はてさて……。


「これはレイダ殿、こんなに夜遅くに何のご用ですかな?」

「緊急事態だ、大至急陛下に取り次いで頂きたい」

「陛下はもうお休みでございます。そうですな、明日出直して来るのがよいでしょう」

「それは無理だ、国の一大事なんだ。そこを通してくれ」

「ほぉ、それは一体……どんな一大事なんです?」


 この間のとり方……俺達を引き止める作戦か? モジモフの屋敷の状況を知らなくても、モジモフが予め門番を下に付け、ここさえ塞いでしまえばレイダの行動を制限する事が出来る。

 ……なるほどな。


『チャールズ、聞こえるか?』

『待ったぞ、出番かな?』

『城の宮殿正門上部で待機、俺とレイダが危険になったら援護しろ』

『合点』


 ふん、東の方から声が近づいて来るな。これは急いだ方が良さそうだ。


「レイダ、死にたくなければそいつを斬った方がいい」

「あぁ、私もそう思っていたところだ」

「なっ!? 反逆を企てるおつもりですか!」

「何をおかしな事を……国の一大事に門を通さないお前が反逆者だ」

「くっ……だ、誰かっ、誰かぁああ――がふっ!?」


 やはり通す気はないようだな、話が早くて助かる。

 心臓に剣を突き刺し、門番を倒す。


「行くぞっ」

「いや、お前一人で行った方が良いだろう。この城の構造は俺にはわからん。幸い城内にはモジモフの指令は届いていないようだ。しばらく時間を稼ぐから、なんとか王と話をつけて来い」

「しかし――」

「しかしは無しだ。さっさと行け!」


 レイダの背中を押し、強制的に走らせた。

 遠くに聞こえた「恩に着る」という言葉……俺は恩など売ってない。

 これはただの――――やれやれ、集まってきたか。


「貴様何者だ! そこの者に何をした!」


 そう、ただの――


「仕事だ」

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