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~転生孤児ANOTHER~「殺し屋と勇者の事情」  作者: 壱弐参


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第二十九話「指南」

この話にはアイザックの個人的な見解が記載されております。

あくまで個人的なものなのでどうかご容赦を……。

 以下は殺し屋アイザックの本日のミッション、「レティーと依頼と酒とやっぱり女」に関する脳内レポートである。


 ~~~~~~~~~~~~


 雰囲気に酔ったのか、匂いで酔ったのか、酒を飲まされたのかわからんが、あのすぐ後、レティーは酔って寝ちまいやがった。

 今夜は特別って事でギルドの旦那が一人分の料金で部屋を貸してくれた。このガキは使える。

 周りの連中から食い物をもらって来て、俺に渡して来た時からそう感じてはいた。このガキは使える。

 俺が依頼をこなしている時は、空き缶でも置いて、その後ろに座らせておくといいかもしれねぇ。


 ま、寝ちまったもんは仕方がねぇ。

 ナイフ、ランプ鞄に詰め込んで、レティーをおまけ詰め込んでやる。

 部屋のベッドにレティー入りのバッグを放り投げ、一階で飲み食い大騒ぎだ。


 ちょっと特殊なつまみだったり野菜だったりはあるが、やはり人間の食う物に大差ねぇって事だな、俺でも知ってる料理が沢山出てきた。

 この時俺の美女センサーに引っ掛かっている女が2人いた。

 1人は戦士風の褐色肌の女、赤髪ってのが抵抗あるが中々いい女だ。肌にハリがあってくびれもある。

 もう1人はあどけなさ残るが、大人の魅力が出始めた頃合いの僧侶風の女。黒髪で大人しそうだが、ベッドの上では乱れそうな……そんな感じだ。地球のジャパニーズガールを思い出すぜ。


 さて、どちらから狙うか……。

 やはり僧侶風の女から狙おう。知り合いはいるみたいで普通に飯を食ってるが、どことなく雰囲気に付いていけてないようだ。

 こういった女に気配りが出来るのがハードボイルドへの第一歩だぜ?

 "ヤれば手に入れヤらねば消える"これは俺の座右の銘みたいなもんだが、ま、そういうこった。とりあえず声でもかけてみよう。

 女の席に行って近くの椅子に座りこむ。


「やぁお嬢さん」

「あ、先程の……」


 やはりあのガキは使える。あいつのあの演出があったからこそ、俺の記憶も残るってもんだ。

 俺の記憶が残っているという事は悪い事じゃない。何故なら、この女の頭の中では、いつの間にか俺は「知り合いレベル」にまで昇格されているからだ。

 勿論これは「俺が話しかける」というアクションを起こさない限り成立しない事だが、これだけで十分だ。あのガキは使える。


「ここら辺は長いのかい?」

「いえ、私は最近冒険者になったばかりで……」

「へぇ……失礼だが、ランクはどれくらいなんだい?」

「ま、まだベーシックなんです」


 この「押し」が重要だ。この押しで相手がどう答えるかが重要なんだ。勿論、押しに弱い事を確かめる為でもあるが、俺に悪意がない事を素直に受け止められているかを確かめる為でもあるんだ。

 女は俺を受け入れた、これが重要だろう。


「それは奇遇だな、俺も今日冒険者になったんだ。さっきレギュラーになったがな」

「まぁ、たった1日でっ?」

「あはは、運が良かったんだな」


 ここでアピールするポイントは4つだ。

 合縁奇縁、実力、謙虚、爽やかさ……この4つを同時にアピールしてしまい、このアイザック様がそれを内包する人物だと伝えるのだ。


 縁というものに弱い女の事だ、ここをクリアしてしまえば残る牙城は相手の好みに分かれる。しかし、良い部分をふんだんに提示してやれば相手の思考はそこで止まる。

 おそらくこの時点で「友人から恋人未満」というところだ。

 勿論、俺様の顔あってこその最短ルートになるが、副業で結婚アドバイザーをしていた俺に死角はない。どんなブサメンだろうがフツメンだろうが相手の虜にして見せた実績があるんだぜ?

 ま、勿論くっ付けた相手は俺の「食後」だったりが殆どだがな。

 そろそろ大詰めだな、ここでサッと(とど)めを刺してしまおう。

 ここで一旦髪を掻き上げる。勿論この仕草にも意味がある。


「あん? ちょっと悪いな」

「え……ぁっ」

「綺麗な黒髪にゴミが付いてたぜ?」


 おさらいだ。髪を掻き上げ、「視界が広くなったからゴミが見えた」、このプロセスを女に伝える事が重要だ。

 いきなりゴミ、と言っても「何故いきなりそうなった」かを女がわからないのでは、ただのエロ野郎になっちまうんだ。

 こういった動機と注意力と気遣いが結果を生むわけだ。

 ここで一つ特殊な工夫を入れる。


「……ぁ、ありがとうございます……」

「いや、構わな……ぅ」

「どうされました?」

「ははは、少し酔ったみたいだな」

「まぁ、お顔が赤いですね……」


 瞬時に俯き顔に力を込める。勿論酔ってないが本当に酔っているように見せる為に、力んで顔を赤くさせるというような工夫が強力だ。

 女の中には必ず母性というものが存在し、そこに身を投じると女ってのはかなりの確率で受け入れてくれるもんだ。


 そして、先程の4つのアピールポイントの内の1つ、「実力」からの「酒の弱さ」でギャップを生み、生んだ事で母性が刺激される。

 俺以上に頬を赤らめた女は、既に「俺の女」も同然だ。


「どうやらそうみたいだな、そろそろ部屋へ戻るとするか……」


 ここで立ち上がり流し目を使う。「お前はどうする?」と女に伝えなくては今までの作戦が水のバブルだ。

 そう、「俺はお前に気があるぞ」と伝える事によって相手の欲望に拍車がかかり、酒はその動力となる。


「……ぉ、お話を付き合って頂いたのですから……その、部屋までお送りします」

「いや、楽しんでいるのにそれは悪い」


 最後の工夫だ、ここで一旦引く事が大事だ。

 女の頭の中では「葛藤」と「()れ」生まれ始める。最後の最後で手を抜いちゃいけない。

 これがある事で、何が生まれるかわかるだろうか?


「いえ、送らせてください。仲間達は仲間達で楽しんでようですので……」

「そうか、それじゃあ甘えるかな……」


 そう、「俺から誘った」から「女から誘った」という事実にすり替えるんだ。

 これがあるだけで大分違う。後腐れのない関係が成り立ち易い。

 女が立ち上がり俺に手を貸す。勿論、体重をかけてはいけない。フリだけで十分だ。

 体重をかけるのではなく、周りには寄りかかっているように見せ、その実、抱き寄せる事が大事だ。

 最終兵器「優しさ」、やはり男の大部分はこれが重要なんだ。

 わかっているとは思うが女の歩幅は最初の一歩で把握しろ。それ以上の幅でてめぇが歩くと優しさと気遣いは半減してしまう。

 ゆっくりと階段を上り、上りながら髪を撫でる。これにも実は意味がある。

 周りに見えるか見えないかの場所で、恥ずかしい事をされる。これを乗り越えてしまえば、女はある程度の事をされても問題ない。

 徐々に羞恥心を解いていくのはこういう所から始まるんだ。


 ……さて、部屋のバッグの中で寝てるレティーだが……問題ない。あれはバッグだ。部屋に入ったら窓の外にでも吊るしておくとしよう。


 さりげなく、女が気付かないように……。


「……ぁ」
















 ちょろいぜ。

 階下の奴には迷惑をかけたかもしれないが、悪いのは俺じゃなく女の方だ。

 相当な欲望が溜まってたみたいで声も相当…………おっと、これ以上は無理か。


 またも女に「いつでも呼んで」と言われてしまった。これが原因で地獄に落ちても俺は後悔しないだろう。


 女は明け方自分の部屋に戻った。それに伴って外に吊るしておいたバッグを回収する。

 中には丸くなってる銀髪のガキ一人。なるほど、この中が気に入ったみてぇだな。

 俺様はバッグに布団をかけてギルドの一階へ向かう。

 ギルドの依頼受付が開始されるのは六時半。俺様の腹時計が現在六時三十五分を知らせてる。

 金を稼がなくちゃ何にも始まらない。ギルドの仕事に慣れる為にも、理想の女に出会う為にも、そして……女を呼ぶための根城を買う為にも。

 一階のギルドのカウンター、俺様のストライクゾーンから外れたオバちゃんが眠そうな目をして立ってるな。


「よぉ、レギュラーランクで割の良い仕事はないかい?」

「はい、おはようさん。レギュラーねぇ……これなんかどうだい?」


 オバちゃんは入口から数えて手前から三番目の掲示板、そこの赤い外淵の羊皮紙を指差した。


「なになに、アルデンヌ家の娘の指導だぁ?」

「貴族の娘さんの剣の先生がお仕事さ。一ヵ月の長期契約の依頼だから、長くストールの町(ここ)にいるつもりならお勧め出来るよ」

「へぇ、一日ニ時間の稽古で350レンジか。依頼の合間合間に出来れば相当割の良い仕事だな」

「まぁちょっと問題ありだけどね」


 なるほど、訳ありの依頼か。じゃなきゃこんな依頼すぐに無くなってしまうだろう。

 他の依頼は単価が高いが危険な依頼ばかりだ。こればっかりは仕方がないが、安全かつ短時間で効率的に稼ぐのにこの依頼を受けない奴がいないとは思えねぇからな。

 オバちゃんが内緒話をするように小声で話し始める。


「アルデンヌ家は良家として有名なんだけど、そこのニ人の子供が大層な悪ガキでね……その娘さんもそのニ人の内の一人なんだけど、娘さんだけを指導しようにも息子の方も邪魔してくるみたいで大変だって話だよ」

「ったく、最近は子供に縁があるのかねぇ……」

「ストレスさえ溜めない自信があるなら良い仕事だとは思うよ?」


 ま、ガキの相手なんざちょろいちょろい。俺様ことアイザック様に敵はいねぇんだよ。


「おし、とりあえずやってみっか」

「あいよ、ちょっと待っとくれ」


 オバちゃんは依頼書を剥がし、変てこな四角いスタンプをぽんと押し付けた。

 押し付けると言えば昨夜あの女が――


「町の南西に大きなレンガのお屋敷がある、その家の人にこの依頼書を渡しておくれ」

「あいよぉ!」

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