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第二話「衝突」

 戦闘開始!

 太郎は直後にやはり突進してきたオークレプリカの右の拳をかわし、前回同様の脇下を鉄剣で斬った。痛みによる一瞬の怯みの間を利用し、身体を回転させながら左腕を斬り、切断に成功した。

 そう、太郎は前回アリスがオークレプリカと戦闘した時をなぞる様に復習していたのだ。


「ガァアアッ!?」


(切断に成功。攻撃力、バランス共に低下を確認、が、油断は禁物だな。焦らずじっくりと……)


 太郎は1度間合いをとり、オークレプリカの出方を見る。

 ギロリという目つきで太郎を睨むオークレプリカは、切断された左腕をゆっくり拾い上げ、そして太郎へ向かって投げつけた。太郎はギリギリでかわし、尚且つオークレプリカから目を離さなかった。

 そして、再度オークレプリカが太郎へ向かい真っ直ぐに走ってくる。


(案の定突進か。行動がわかれば苦労はないが、隙を見せれば死ぬ事に変わりは無い)


 太郎は様々なミッションをこなしてきた過去の経験から、油断こそ最大の敵だという事を理解していた。

 オークレプリカの突進を先程とは逆にかわし、前回同様に身体を回転させながら右腕を切断した。


「ギャァアアッ!」


(あの牙は怖いな)


 反撃を恐れ今1度オークレプリカから間合いをとる。

 苦痛の表情でオークレプリカがバランスを維持している中、牙での反撃を考慮し、太郎は背後に回り後頭部から首を刈った。


「……クリア」


 こうして太郎は怪物オークレプリカとの戦闘に勝利した。





 ――太郎が戦闘を始めた頃、少し離れた場所でアリスも戦闘を始めていた。


「アップ!」


 アリスがそう声をあげると、太郎から借りたナイフが太陽光を発したかの様に光り、そしてナイフの中心に入り込む様に消えていった。同様の事を盾にも施し、アリスが構えをとる。

 オークレプリカの突進攻撃。


「まったく、何とかの一つ覚えじゃないっ?」


 アリスはオークレプリカの突進を、盾であえて受け止めた。若干後退するものの、見事突進を受け切る事に成功。

 脳震盪(のうしんとう)を起こしているのか、フラフラと足元の覚束ない様子のオークレプリカに向かい、アリスは脳天一直線にナイフを刺し通した。


「……刺す方が向いている武器ね。さぁて、タローはどうかしら? ……へぇ、我流っぽいけど結構様になってるわね」


 アリスは太郎の方へ歩きながら太郎の動きを観察する。


(随分慎重に戦うわね? もしかしてジョブはシーフなのかしら? 性格は天職に影響するって聞くけど……あ、勝ったわね)


 太郎の戦闘が終わった頃、アリスは太郎と再び合流を果たした。


「お疲れ様ー」

「む、早いな」

「こいつらは連携が怖いだけなのよ。単体だったらそう簡単に負けないわ」

「勉強になる。……ところで、索敵はどうだ?」

「本当に慎重ね? 大丈夫だと思うけど、一応やってみるわ」


 その時、2人の頭上の枝から3匹目のオークレプリカが奇襲をかけてきた。


「うそっ!?」

「なにっ!」


 致命的ダメージは避けられない。二2がそう思った時、2人の後方から何かが飛んできた。

 その何かに気付いた時、オークレプリカは中空で絶命し、2人の間に「ドサッ」と落ちてきた。


「これは……アイスニードルっ?」


 アリスはすぐに落ちてきたオークレプリカの顔面に刺さる数本の何かを確認した。そしてその正体がわかると、それが飛んで来た方向を向き目を細め焦点を合わせる。


(アイスニードル……だと?)


 太郎は聞き慣れない言葉に動揺し、オークレプリカの顔面に刺さる水晶の様な氷の様な物を凝視する。


「爺や!」


 アリスが駆け出し、太郎はその姿を目で追った。そして今一度オークレプリカの顔を見た後、アリスを追いかける様に歩きだした。

 アリスの先には年老いた男が立っており、その男は黒いローブを着こみ、錫杖の様な物を手に持っていた。


(なるほど、あれが「爺や」か。見事な髭だな、まるで魔法使いだ。…………そう言う事なのか? いや、しかし……)


 太郎は何かを理解し、そして拒絶したい気持ちになった。

 アリスは太郎を指差し、その老人に何かを説明している様だった。そして太郎がアリスに追いつくと、老人は太郎に対してゆっくりと頭を下げた。


「いやアリスが世話になったそうで、かたじけない」

「いや、世話になったのはこちらの方だ。ご助力感謝する」

「なに、アリスを助けるついでみたいなもんじゃ。……お主、リンマールに行きたいそうだの?」

「あぁ、危険な場所にいるよりかは良いと思ってな。太郎だ、宜しく頼む。生来口が悪く至らない部分もあるかもしれんが許してくれ」

「ほっほっほ、なぁに構わんよ。わしゃバールザールという者だ。知っているとは思うが、アリスには爺やと呼ばれている」

「あぁ……で、先程の飛来した結晶体は?」

「ほぉ、やはりフォースを知らないのか」

「だからそう言ったでしょっ」


 アリスが2人の話に割り込む。バールザールが一瞬困った表情をし、コホンと咳払いをする。

 咳払いに気付いたアリスは己の行動を振り返っているようだった。


「あ、ごめん……」

「すまんの、話の腰を折るなとよく言い聞かせているのだが……」

「構わない。そういった事が必要な場合もある」

「ほっほっほ、思わぬ返答だの。……しかしお主……」

「何だ?」


 途中まで言いかけてバールザールがそれを中断する。

 不可解な感じが否めない太郎だったが、バールザールが進行方向へ向き直ってしまう。


「まぁよい、歩きながら話そう。アリス、先頭は任せたぞ。殿(しんがり)はわしがしよう」

「まっかせてっ」


 アリスは太郎にフォローされて機嫌が良いのか、上機嫌で先頭を歩き始めた。

 しばらく歩いていると、太郎は後ろからコツコツと何かで叩かれた。それはバールザールの錫杖だった。

 何か用があるのだろうと察し、太郎は歩行速度を落とし、バールザールと並び歩いた。


「お主、相当な数の人を殺めているのう?」


 声のボリュームを落とし、バールザールは太郎の心を感じて見せた。

 前方ではアリスが鼻歌を歌っている。


「わかるのか?」

「眼と……においじゃな」

「……そうか」

「悪い事は言わん。早々に足を洗う事を勧めるが?」

「すまんがそういう生き方しか知らないものでな」

「では心機一転、この世界(・・)で別の生活をするのも悪くないだろう?」

「この世界……だと?」


 太郎はバールザールの言葉に引っ掛かり少し驚く。それを見たバールザールが片眉を上げ「やはり」という表情をする。


「お主、おそらく異界から来たのだろう。稀にいるのだ、そういった連中がな。大抵の者はフォースやジョブの事を知らないのだ。無論、レウス様の事もな」

「魔神という奴か」

「ほっほっほ、それもリンマールに着けばわかるだろう」

「爺や、何の話してるのー?」


 前方からアリスの声が届き、バールザールが咳払いを1つする。

 太郎が歩行速度を上げアリスの後ろに戻り、バールザールがようやく返事をする。


「なぁに、リンマールと魔神様についてちょいと講釈していただけだ」

「ふーん……そっかっ」


 アリスは細かい事を気にしない性格なのか、すぐに鼻歌を再開する。

 そこから約5分程歩くと森の出口に辿り着き、3人達の目の前には西日が降り注ぐ平原が広がっていた。


「バールザール」

「何かな?」

「フォースの事だ……先程聞き逃したが、あの結晶体はなんだ?」

「ふむ……どれ、フレイム!」


 バールザールは錫杖を宙へ掲げ、そう叫んだ。

 すると錫杖の先から火の球が出現し、空に向かって解き放たれた。

 太郎はそれを見て落ち着きを失いかけたが、今までの事ををゆっくり思い返す。

 そしてあらゆる事に得心し、胸に手を当て心音を確かめた。


(落ち着け、あれだけ世界各地に飛びまわったんだ。少々不便だが異世界如きで我を見失ってはいかん)


 そう言い聞かせ、太郎は心音を正常へ戻して行った。


「なるほど、把握した。それもジョブの恩恵なのか?」

「そう、ワシはメイジというジョブだ」

「メイジ……魔法使いか」

「そう言われる事もあるかのう」

「その……フォースの使用制限はあるのか?」

「潜在的なものでな、その者の肉体、ジョブによって最大値が決まると言われているつまり――」

「つまり個人差があるという事か?」

「左様」

「了解だ。フォースは……俺にも使えるのか?」

「誰にでも使えるぞい」


 バールザールは「異界の者にでも」という意味を込めて太郎にアイコンタクトをして伝えた。そして太郎もそれに気付いた様だった。


(異界の者……それをアリスに伝えるのは構わないが、タローの本性は今伝えるべきではない。異界の者だとバレると、それも付随してバレる恐れがあるからのう……)


 バールザールは、勇者であるアリスのジョブの特性と、未だ不安定な年齢故か、太郎の情報をアリスに話す時期を考えていた。


(しかし、リンマールまでじゃて。おそらく共に旅する事はないだろう。仲間意識が出来る前ならば別れた後に話す程度でいいやもしれん)


「さぁて、夕方までにはリンマールに着きたいわ。行きましょっ」

「あぁ」


 アリスが北を指差しながらそう言って、3人はリンマールを目指し歩き始めた。


「ところで、アリスやバールザールはあの森に何の用があったんだ?」

「リンマールの住民がオークレプリカの被害に遭ってな、その討伐じゃ」

「全て倒すのか?」

「まさか、あの森を焼かない限り全滅は無理よ。ある一定の数を討伐すると種の保存の為、その種族達は危険な行動を控える様になるの。簡単に言っちゃうと大人しくなるって事ね」

「焼いては駄目なのか?」


 太郎がそれを言い放ったその時、アリスはピタリと立ち止った。

 バールザールは目を閉じ、そして耳を塞いだ。


「あのねぇ! あの森には可愛い動物もいるし貴重な植物だってあるの! それにリンマールにとってあの森は、大切な資源となるのよ!? それをわかってて言ってるの!?」


 太郎は、アリスの鼓膜が破れそうな程大きな声に一瞬たじろいだ。


「わかったらそんな危ない考えはすぐにやめてっ」

「つまり、時が経ったらまたオークレプリカに人間が殺されるわけだな」

「っ!」

「誰かを避雷針として使い、そして同じ事を繰り返す……と?」

「そ、それは……そのっ!」

「アリスの考えが間違ってるとは言わない。この土地の者が長くそうしてきたのならそれもまたよしだ。すまなかった、先を急ごう」


(まったく、ヒヤヒヤするのう……)


 その後、アリスの沈黙はリンマールに到着するまで解かれる事はなかった。

 そして太郎は、自分の失言に少なからず反省をしていたのだった。

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