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~転生孤児ANOTHER~「殺し屋と勇者の事情」  作者: 壱弐参


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第一話「遭逢」

 女は黒髪で銀色の髪留めを頭頂部やや左側で留め、やわらかい感じのショートフェミニンだった。瞳こそ大きいが大人になりきれていないあどけない顔つきだった。

 青いラインが縦に入った白いコートの様な上着の下から、青いショートパンツが見える。白いタイツの上から黒いブーツを履き、胸元には金色のチェーンの先に青い水晶の様な物が付いたネックレスを着けていた。

 左手には鉄製の直剣、右手には簡素な模様が入った鉄製の盾を持っていた。


「さぁ、こいっ!」


 怪物は叫び声をあげながら女に突進した。

 女はかわしざまに腰を落とし、怪物の左腕を切断した。


「ギャッ!?」


 怪物が腕の痛みにより一瞬怯み、その一瞬の隙を突き、女は怪物の首を跳ね飛ばした。


(女の力、技術……と言うより、あの剣の斬れ味の問題か?)


 太郎が女の戦力を分析していると、女は右腰の黒い鞘に剣を納めた。


「ふぅ、アナタ大丈夫だった?」

「あぁ、問題ない。礼を言う」

「遠目で見た時は苦戦している様だったけど……そうでもなかった?」


 女は太郎が銃で倒した怪物の死体を見てそう言った。


「いや、弾が切れて危ない所だった」

「弾?」


 太郎はリボルバーを拾い、小首を傾げる女に1度見せてから迷彩パンツの内側にしまった。


「それは何?」

「……銃を知らないのか?」

「銃って言うのね?」


 女は首を傾げながら太郎に質問を続けた。


「まぁいいわ。この辺のオークレプリカもこれで片付いたでしょっ」

「オークレプリカ?」

「そこで死んでるオークまがいの魔物の事よ」

「…………」


 聞こえない訳ではなかった。しかし太郎は聞きなれない単語に困惑していた。


(魔物だと? 想像上の生物が現実に? しかし今まで見てきた情報から判断すると、それが1番合っている様な気がしないでもない。それにこの女の衣服や装備……手作りに近い感じがする。嘘を言っている様にも見えない以上、信じたくはないが、俺の知っている地球ではないという事か……。信じたくはないがな……)


「アナタ、名前は?」

「太郎だ」

「タローね、で、タローは何のジョブなの? 大分軽装みたいだけど……?」

「ジョブ……仕事の事か?」

「まぁ、そんなとこよ、知らないの?」


(ここで慌てるのはよくないか。常套手段だが……)


「すまない、先程漂流して流れ着いたばかりでな。一時的だとは思うが記憶がないんだ」

「えぇっ、た、大変じゃないっ!」

「したがってそういった事もわからないんだ」

「それなら仕方ないわね。爺やがいれば助けになれるかもしれないわ」

「爺や?」

「今、この森の北出口で待ってるわ。一緒に行きましょ」

「助かる」

「私はアリス、駆け出しだけど勇者をやってるわ」

「…………」


 太郎は混乱した。






 アリスと名乗る女と太郎はしばらく森を歩き、途中の白い柱の近くに火を起こした。辺りは既に暗くなり始めていた。

 2人は焚き火を挟み腰を下ろした。


「ここにいて大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、神の御加護があるから」

「……すまんが俺は無神論者なんだ。もちろん宗教を否定する訳ではない。誰にでも心の拠り所は――」

「無神論……って何?」

「……神を信じてないって事だ」


 太郎の言葉を聞き、アリスは口を開け驚いて見せた。


「えぇー、バチが当たるわよ!」

「神が何かを与えてくれたら信じる事にしている」

「今も受けてるわよ?」

「そういう抽象的な事ではなくだな……」

「この白い柱、この柱の半径5メートル以内は魔物が入って来れないのよ? それも忘れちゃったの?」

「あ、あぁ……どうやら忘れていたみたいだ。因みにその神と言うのは……?」

「レウスよ、魔神レウス様」

「…………」


 太郎は更に混乱した。


「何故神に「魔」が付くんだ」

「知らないわよ、昔からこうなの! キュウリはキュウリって呼ばれ続けたからキュウリって名前が拡がったのよ、わかるっ?」

「な、何故ムキになる?」

「き、気のせいよっ」


 頬を膨らまし、太郎から顔を背ける。火が当たっているせいか、アリスの頬は紅くなっている様に見えた。


「それでこの後どうするんだ? 落ち着いたら出発するのか?」

「まさか? 夜になるとオークレプリカなんかよりもっと恐ろしい魔物が彷徨く(うろつく)んだから。今日はここで野宿よ」

「爺やというのを待たせていいのか?」

「こんなの日常茶飯事よ」

「そうなのか」


 グ〜……


 太郎のお腹から空腹を知らせる信号音が鳴り、辺りは静寂に包まれた。


「すまん、ここの鍛錬はどうしても――」

「ぷっ、あっはっはっは! お、お腹が空いてるなら言いなさいよ〜!」

「すまない……」


 アリスは懐から皮の袋を取り出し、袋から数粒の豆の様な物を取り出した。


「はい、これあげる」

「これは?」

「非常食のエネル玄よ、2粒も食べれば半日はもつわよ」

「半日だと……」

「それもー? 騙されたと思って食べてみなさい」


 アリスは一般常識を知らない人間を見る目で、太郎に実食を促す。


「あ、あぁ」


 太郎はエネル玄を口に含みコリコリと噛み、適度な咀嚼の後飲み込んだ。


(味は……塩味を付けていないピスタチオというところか。……ん? これは……)


 エネル玄の後味が無くなる頃、太郎の腹に適度な満腹感がこみ上げてきた。

 アリスが笑みを浮かべ「どう?」と覗き込んでくる。


「火に当たるぞ」

「わぁ……ちゃっちゃ」


 アリスは衣服に異常が無いのを確認した後、再び頬を膨らませた。


「凄い効果だな、素晴らしい……」

「へ?」

「エネル玄の事だ」


 太郎はアリスがまだ持っている皮の袋を指差し答えた。


「あぁ、そうね。そう言えばタローはこの後どうするつもりなの?」

「そうだな、人里に出ればなんとかなると思う」

「なら北東の村「リンマール」まで連れて行ってあげるわ。私達もそっちの方へ用があるからね」

「それは助かるな」

「リンマールに着いたらタローは教会へ行った方がいいわよ」

「教会……何故だ?」

「魔神様から天職を授かれるのよ。勿論、それに従わなくても良いんだけど、魔物のいる区間を歩き回る様な私達冒険者や商人達は必ず天職を授かってるわ」

「……あぁ、検討しよう」

「ま、もう既に天職を授かってるのであれば、それも教会でわかるはずよ」

「了解だ」

「さ、今日は早めに寝ましょ。辺りが白んで来たら動き回れるから」

「…………」

「ふふ、おやすみ」

「あぁ……」


 アリスは柱を背に、座りながら俯き目を閉じた。太郎もそれに倣って反対側に座り込み目を閉じた。







 ――翌日――


 周囲に霧が立ち込め辺りが白んでくる。それを察したかの様に太郎が静かに立ち上がる。

 アリスはまだ静かに寝息を立てている。


(戦闘技術はあっても子供……というところか)


 太郎は身体をほぐし、首回り、肩、腕、腰、背中の順にストレッチをしていく。足回りのストレッチが終わった頃、アリスは瞼をひくつかせ、ゆっくりと目を開いた。


「ん、んぅう……」

「起きたか、そろそろ行動を起こすのか?」

「ふわぁああ~……」


 アリスは周囲を見渡し、そして徐々に覚醒していく。


「あ、そうか。昨日野宿したんだっけ」

「……大丈夫か?」

「あぁ大丈夫っ。さぁ、それじゃ北の出口まで行きましょ!」


 そう言ってアリスは盾を持ち立ち上がった。と同時に周囲の異臭に気付いた。


「気付いたか?」

「あら、タローも気付いた?」

「当然だ、この異臭に気付けないようでは戦場では生きていけないからな」

「そういうところは覚えているのね」

「そういう事だ」


 アリスは薄々気が付いていた。太郎の嘘に。そしてわざと気付かない振りをし、太郎を安心させた。「詮索はしない」というメッセージを込めて。


「さてどうしましょうかしら? たまにあるのよね。柱付近を根城にする魔物が」

「待ち伏せをしているとは考えられないのか?」

「半径5メートルは入れないとはいえ、そこの近くに待ち伏せしないとは限らない。それを考慮して、その周囲には魔物が嫌がる「臭い」を発する様になっているのよ」

「考慮したって……」

「勿論、魔神様に決まってるでしょ?」

「あ、あぁ」

「でもたまにいるのよねー、その臭いを嫌がらない魔物がね」

「……問題は把握した。対処は?」

「あら、私が指示を出すの? タローの方が向いてる気がするけど?」


 アリスは直感的な感想を率直に述べたが、あながちそれは間違いではなかった。太郎もそれに関しては得心がいったが、この状況(・・)に関する知識が不足している為、アリスへの指示を求めたのだった。


「臨機応変というやつだ」

「わかったわ、恐らく近くにいるのは昨日と同じオークレプリカ。ここら辺は片付けたと思ったけど、まだ生き残りがいたみたいね。数は……そこまでいないわね。最大で3匹とみておけばいいわ」

「ほぉ、よくわかるな?」

「ジョブの恩恵よ、天職を授かるとタローも使える様になる可能性があるわ。正確な数を知りたければもう少し錬度をあげなくちゃいけないけどね」

「なるほど、それは便利だ」

「タロー、武器は?」

「今はもうこのナイフしかない」


 太郎はそう言って腰元のナイフを見せた。


「心もとないわねー。……どうせフォースも使えないんでしょ?」

「…………」

「いいわいいわ、それを貸して。私がそれを使うわ。タローはこっちの剣を使って」

「あ、あぁ……」


 アリスの武器交換申請に従い、タローはアリスにナイフを渡し、アリスの剣を受け取った。

 アリスは受け取ったナイフを何度か素振りをして感触を確かめる。


「へぇ、軽くてよく切れそうね」

「いや、この鉄剣程じゃないだろう」

「いいえ、おそらくこっちのナイフの方が攻撃力は高いわ。ただ、フォースの使えない腕力の強い男なら、剣の重さを利用すればこのナイフ以上の攻撃力が出ると思っただけよ」

「そ、そうか」

「しかしホントに良い武器ねこれ……そんじょそこらの武器屋じゃお目にかかれないわよきっと」

「ならばそれをやろう」

「えぇ、そんなそんな悪いわよ!」

「その代わりこの剣を頂く。先程の話を聞いて互いに利益になるとみた。どうだろうか?」

「うぅ……ちょっと考えるわ! 今はそれよりこの状況の打破でしょっ」

「あぁ、そうだな」

「奴らは腕の力は凄いけど、速度はあまりないわ。まずはダッシュで、敵の孤立化をはかるわよ!」

「了解だ」


 そう言うと、太郎とアリスは北へ向かって駆け出した。太郎は全速力で走ったが、アリスは平然とそれに付いていった。

 途中、オークレプリカの叫び声が聞こえ、後方を走っていたアリスの後ろに2体出現した。


「出たぞ、どうするっ!」

「しばらく走って、3体目が発見出来なかったら1対1で勝負に出るわ!」

「了解だ!」


 しばらく駆け続け、幸か不幸かアリスが言った状況となった。太郎とアリスは互いが見える範囲内で二手に分かれた。


「グルルルルルッ」

「さぁ、戦闘開始ね!」

「……行くぞ」


 こうして森の脱出をかけた殺し屋と勇者の戦闘が幕を開けた。

今は名前だけ

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