表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~転生孤児ANOTHER~「殺し屋と勇者の事情」  作者: 壱弐参


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/53

第十七話「効率」

 以下は、殺し屋太郎の本日のミッション、「オークレプリカ殲滅作戦」に関する脳内レポートである。


 ――日はまだ高くなる前、現在時刻は一○三○(ひとまるさんまる)――



 一○三○(ひとまるさんまる)

 オークレプリカの活動時間が始まると思われる昼前にオークレプリカの森へ到着。

 前日に食した牛の肉を持参し、焚き木を集める。

 野草図鑑で調べた香草「ブラッド」を、セーフハウスの近くで発見し、採取した事がこの作戦の始まりだ。


 オークレプリカの森より風上で牛の肉を焼き、ブラッドを薬味のように(まぶ)す。すると肉と血の香りが辺りに拡がる。

 チャールズが上空で索敵を行いながら木から矢を作りだしている。器用な奴だ……。

 俺はチャールズの下の木で弓を構え待機。

 後は奴等が出て来るのを待つだけだ。


『来たぞ、2匹だ』

『了解』


 オークレプリカが森から飛び出て来た瞬間に矢を射出……ヒット。

 1匹目が倒れ、すぐに2匹目のヘッドショットに成功。

 威力、精度、速度共に向上している。どうやらランクは身体の能力向上に繋がっているようだ。

 実力格差が起きるという事か。とすれば凶悪な魔物の討伐もこれによって可能になるという事か。

 なるほど、うまく出来ている世界だな。


『ぞくぞく来るぞ、3……いや4匹だな』

『あぁ』


 先程の流れで2匹まで倒し、3匹目を倒した時に4匹目に気付かれた。

 つまり、3匹まではこいつら相手に優位に立てるという事か。

 4匹目にダガーを投げナイフの様に飛ばし倒す事に成功。ダガーの回収とオークレプリカの死体の移動はチャールズに任せる。


『3匹だ』

『任せろ』


 本当に種の保存をしなくてはならないレベルまで瀕したのか? 矢の本数が危うくなる程に魔物が集まってくる。



 一三三○(ひとさんさんまる)

 チャールズに矢の補給を頼み、様々な場所で討伐する事に成功。

 以下が現在の討伐数だ。

 オークレプリカが21匹、ゴブリンウォリアー7匹、ゴブリン2匹、グリーンスネイク1匹。

 まだグリーンスネイクがいたとは驚いた。しかし、フォースを施した矢2本で首を飛ばす事が出来た。

 飛ばされた頭部にも矢を通しておいたからか、じきに沈黙。


『太郎、いつまで続けるのだ?』

『16時にここを引き払う。15時30分までは続くと思え』

『竜使いの荒い主人だな……』



 一六三○(ひとろくさんまる)

 定刻により片付け等々を済まし、毒草を麻袋2袋分回収。リンマールの村まで帰還。

 尻尾がない神に小言を言われる前に魔神像へ報告。



 ――一六四○(ひとろくよんまる)、本時刻を以ってミッションを完了とする――




 ――リンマール教会、魔神像の前――


 神父が毎日現れる太郎にうんうんと感心している。がしかし、そんな事は意に介さず太郎がゆっくり目を閉じる。


「魔神レウス様、どうか迷える子羊をお救いください」


 いつも通り神父が手を合わせ魔神像が光りだす。

 やがて――――プッ


『日に2回来るとかどんだけ信心深いんだよっ』

『小言はいい、徳の確認だけ頼む』

『…………とんでもねぇな。え、ここどこだよ? リンマールだよな? オークレプリカ46匹ってなんだよ。どこの狂人だよ! ったく』

『不都合でも?』

『いいえとんでもない。これが割り振りな』


 《オークレプリカ46匹=1150・ゴブリンウォリアー17匹=255・ゴブリン2匹=10・グリーンスネイク2匹=400》


『これで徳数が1815だな。前回までの徳数2205と合わせて、総徳数が4020。……異界に来て数日でレギュラーになるとかなんなん? チャールズがいる分差し引いてもやべぇわ』

『効率的に倒すのが普通だろう?』

『そのうちに効率厨とか言われちゃうぞ』

『構わん』

『まぁ、いいわ。そんじゃスキルを選んでくれ』


 《気配ゼロ・カモフラージュ・索敵》


『気配ゼロだ』

『……怪物が生まれそうだな』

『失礼な神もいたもんだな』

『言って大丈夫なヤツにしか言わないわ。んで、チャールズの総徳数は3080で2つのスキルが習得できるが、どれにする?』


 《ブレス・剛力・疾風》


『剛力と……疾風だな』

『……チャールズ便の誕生だな』

『何の事だかわからんが、そのアイディアは考えていた』

『師匠、時間ですっ!』

『ういー、後頼むわー』

『はいっ!』

『太郎さん、まだ用はあるか?』

『いや、問題ない』

『ちょいとこれから会議があるから出掛けなきゃなんだわ、そんじゃなー』

『あぁ、頑張ってくれ』

『太郎さんもね』




 名前:太郎?

 天職:殺し屋(アサシン)

 右手:鉄の剣・木の弓矢・契約の指輪

 左手:鉄のダガー

 ランク:アドバンス

 スキル:フォース操作・手当て・暗視・気配ゼロ

 総徳数:4020


 名前:チャールズ

 天職:ドラゴン

 右手:無し

 左手:無し

 ランク:アドバンス

 スキル:フォース操作・索敵・剛力・疾風

 総徳数:3080



 ピッ…………魔神レウスとの対話が終わり、いつの間にかランクをアドバンスに上げた太郎。

 知ってか知らずかアリスと同じランクとなり、毒草を売る為にギルドのアンナの元へ向かうのだった。





 ――ハチヘイルの農場の北、太郎とチャールズのセーフハウス――


 洞窟の外ではチャールズが木材を削り何かを作成している。その速度は尋常ではなく、左右の爪や牙を使い、もの凄い勢いで削られてゆく。


(ふむ、太郎が我に剛力を得てくれたおかげで大分楽になったな。しかし大量の毒草を何に使うのかと思えばコレとはな……つくづく侮れぬ男よ)


 チャールズは作成している木片を見て「ふっ」と鼻息を吐く。

 洞窟の外側、入口の右側には毒草をまとめた大きい木の箱が置いてあり、反対側にはもう一つ箱同じ箱が置いてある。中には少量ながら薬草が詰められている。麻袋が複数枚重ねられており、その麻袋には一つ一つ文字が書かれている。「ブラッド」・「スメル」・「ナンナース」・「コンフェッション」といった文字が見て取れた。

 チャールズの手元では、瞬く間に木片が何かの器状になっていき、散らばった木屑を細い口で「ふぅ」と払った時、チャールズの作業がピタリと止まった。


(人間か? 太郎ではない。……もう暗くなっているというのに……何者だ?)


 何かの気配を察知し、チャールズは木片を持ち洞窟の上部へ身を隠す。

 しばらく身を伏せていると、正面から足音……というより、何者かが駆けてくる様な音が聞こえた。その音が徐々に近くなるにつれて、何者かの息切れの音まで聞こえてくる。


(急ぎの用か? あの盗人達の仲間か……? いや、あれは……小娘?)


 夜目の利くチャールズが目視したのは、額に汗をかき、膝に手を突いて息切れをしているアリスの姿だった。

 アリスと面識のないチャールズは小娘故か警戒心を少し弱めた。と同時に、アリスの表情に緊張が走った。

 右手で盾を構え、左手には太郎のナイフを持ち、チャールズが一瞬発してしまった気配に警戒する。


「……出て来いっ!」


(やれやれ、小娘と思って油断してしまったか……)


 チャールズはこのまま飛んで逃げてしまおうかと思い、羽をピクリと動かしたその時、アリスの後方に異変が起きる。


「……何をしている?」

「ひゃぁああっっ!?」


 突然背後に現れた太郎に、アリスが飛びのいて驚く。茂みに隠れていたチャールズでさえも肝を冷やした。


((ま、まったく気が付かなかった……))


 太郎は入口付近に落ちている木屑を見て、洞窟上部に向きを変える。


「出て来いチャールズ、敵ではない」


 その言葉に安堵し、チャールズはバサバサと羽を羽ばたかせ地上に降りてくる。

 ここでアリスの心音が回復し、ようやく太郎を認識する。


「な、何で……? それに……」


 チラリとチャールズを見る。


「新しく習得したスキルを使用していただけだ。それより何の用だ?」

「火急の用件だったみたいだぞ」

「ほぉ? 俺にか?」


 アリスはドキッと驚き、太郎から目を反らす。

 尻餅をついたまま立ち上がらないアリスに合わせたのか、太郎がゆっくりしゃがみ込む。


「そ、その魔物は何よっ」


 目を背けながらやっと発した言葉は、本来の目的とは離れた質問だった。


「竜だ。さぁ、用が終わったなら気を付けて帰るといい」


(太郎のやつ、魔神殿に性格が似ているかもしれんな……)


 太郎はゆっくりと立ち上がりセーフハウスへと歩いて行く。

 アリスはへたり込んだまま俯きふるふると震えている。やがて顔を真っ赤にして太郎の方へ向いた。


「なんなのよ!」


 静寂が包む林の中に黄色い声が響き渡る。

 太郎が足を止め、嫌そうな顔で振り向く。


「な、なんなのよ……」

「まだ用があるのか?」

「べ、別にっ――」

「ではな」


 太郎はまたもセーフハウスに向かう。

 しばらく様子を見たいのか、チャールズは毒草が入っている木の箱の上にストンと降り落ち着いた。

 真っ赤だったアリスの顔は次第に崩れ、目には涙が溜まり始める。

 チャールズが慌て始める。アリスを見て太郎を見る、それを数回繰り返した時、アリスの表情に決壊の時がきた。


「なんなのよぉっ! な……なんで……そんなに冷たくするのよぉっ……うぅ……っ」


 太郎はアリスに背を向けながら精一杯嫌そうな顔を修正する。

 女の泣き声は太郎が最も苦手とするものだったのだ。


(やれやれ……女が苦手な故、女の扱いも苦手と見える……)


 太郎の性格を分析しながらもチャールズは何故か尻尾を振っていた。

 チャールズはチャールズで太郎の事をまた1つ知れて嬉しいのかもしれない。

 太郎がまたも向き直る。顔をヒクつかせながらも真顔に近い表情だ。頑張れ太郎。


「な、何故そんなにムキになるんだ……」

「なってないわよっ……ひっく……うぅっ」

「では、用件はもうないのか?」

「あるのに……タローが無視……するんだもんっ! ゔぅぅ……っ」


(ないと言ってたじゃないか……)


 太郎は小さく溜め息を吐きアリスの肩に手を置く。


「……入れ」


 そしてまたゆっくりと立ち上がりセーフハウスへ入って行く。

 太郎の入場許可のおかげか、アリスの嗚咽も次第に止んでいく。アリスは背中を目で追いかけるかのように立ち上がる。

 チャールズを先に入らせ太郎がまた足を止める。


「入らないのか?」

「は、入るわよっ!」


 2人の関係は未だ発展途上である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ