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~転生孤児ANOTHER~「殺し屋と勇者の事情」  作者: 壱弐参


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第十四話「職人」

「ふんぬっ!」


 ジャンボが気合いを入れて力み、同時にジャンボの腕や足が一瞬赤く光る。

 スキル「剛力」の使用である。

 それに呼応してかバールザールも同様に力む。

 しかし、ジャンボとは違い、青い光がバールザールを包んだ。


「疾風か」

「馬鹿力が役に立たぬ事を教えてやるわい」

「……始め!」


 審判のようなポジションの男が、喧嘩の開始を宣言すると、ジャンボは一気にバールザールまで詰め寄った。

 意表を突かれたバールザールだったが、間一髪、後方に退避する事に成功した。


「ちっ、瞬殺出来なかったか」

「ぬっ、く……っ」


 振り切った腕を戻し、ジャンボは姿勢を低くする。


(こやつやりおるな、メタルのランクは伊達じゃないという事かの……)


「しゃあおらぁっ!」


 姿勢の低いまま、ジャンボがタックルを仕掛ける。左に逃れたバールザールが後ろに回り込みジャンボをそのまま前方に押し込む。

 ジャンボが前に倒れるがすぐに切り返しバールザールに向き直る。


「爺や、いいわよっ! この後ジェノサイドオロチよ!」


(そんな技知らんわい)


「へん、なんかとんでもねぇ技を隠してやがるな……」


(…………)


 ジャンボがジェノサイドオロチに警戒し、攻めの姿勢を一転させバールザールの動きを待つ。

 皆目見当がつかない技を警戒された為、前に出るに出れないバールザールは、軽いフットワークを踏み、ジャンボの周りを回り始める。

 それを警戒するが故にジャンボはバールザールを目で追う事を強いられる。

 クルクルとジャンボの周りを回り、それをジャンボが追いかける。イタチごっこの様に思われたこの動きは、意外にもすぐに終了を迎えた。

 ジャンボがバールザールを追いかけるのを止めたのだ。ジャンボが皺が出来る程強く目を閉じ、ガクリと片膝を折る。そして――


「おぇ……」


 その場に手をつき、もう片方の手で口を抑える。

 それを見た周囲の反応は緊張の一言だった。


「まさか、ジェノサイドオロチっ?」

「どうやったんだっ!?」


 ジェノサイドオロチの発動を促したアリスでさえ顔に「?」を浮かべている。


(皆酔い過ぎじゃ、目が回っただけだろうに……)


 酔った上に目が回る、この相乗効果によりジャンボは膝をついた。そしてジャンボは――


「ま、参った……」


 口を押さえながらそう言うと、足早に茂みの中へ向かったのだった。


(全く……茶番だの……)


 バールザールの感想とは異なり、ジャンボの姿が見えなくなるとギャラリーから賞賛の言葉が飛び交った。

 そしてアリスもバールザールに駆け寄り、


「凄い凄い凄い、今のどうやったの!?」


 バールザールの胸倉を掴み、物凄い勢いで揺さぶった。


「こ、これやめんかっ!」


 バールザールの言葉等聞こえないかの様に揺さぶり続けるアリス。

 次第に抵抗の言葉は少なくなり、徐々に青くなっていくバールザールは、ついに身体から力が抜けてしまう。


「わ、わしも……もうっ……」

「え、何っ!?」


 アリスがバールザールから手を離し、緊急回避をするかのようにバールザールはジャンボが向かった茂みへ入っていく。

 ポカーンという表情のアリスの耳には、少し離れた茂みの中から二つの苦しみの声が届く。

 審判の男がゆっくりとアリスに近づき、アリスの腕を取る。


「この女の勝ちだな! なぁ皆!?」


「「「おぉおおおおっ!!」」」


 審判の男の声に賛同する声が多数あがり、その声がドードーの町を包み込む。

 未だに状況が掴めないアリスはそれを飲み込むより早く「勝ち」という言葉に身を委ねた。


「や、やったぁっ!」








 以下は、殺し屋太郎の本日のミッション、「効率的な徳の回収その2」に関する脳内レポートである。


 ――日が陰り、西日が沈む寸前。現在時刻は一七三○(ひとななさんまる)――


 昨晩の経験より手槍より矢の方が有用と判断。残弾である2本を最後に以降は矢を使用する。

 チャールズの工作速度は非常に早く、素材があれば30分で15本の矢の制作が可能だ。フォース操作の向上と剛力のスキルが手に入れば、この半分の時間で製作出来ると豪語していたが……本当なのだろうか?

 昨日同様毒草の回収を優先し、麻袋2つの毒草収集に成功。これで合計4袋の毒草を採取。

 本日購入した食料で金が底を尽きそうなので、1袋は金策に使おうと思っている。

 チャールズの食費がかからないのは有難い。そこら辺の草木で腹を満たしているようだ。竜は草食動物なのだろうか?


 ……これよりミッションを開始する。


 手順は昨日と同じだ。チャールズのスキル「索敵」が手に入ったのでかなり有効的に討伐出来るだろう。


 一七三○(ひとななさんまる)

 早くもチャールズがオークレプリカを発見、昨日と違う部分はやや明るいという事だろう。従ってオークレプリカの動きにやや俊敏性が伴っていると推測。昨晩よりも慎重に動く事を心がける。

 木の上より2体のオークレプリカの討伐に成功、6時の方向に木の上にいるオークレプリカを発見。慎重に近づき手槍を投擲、問題なく撃破。……これで3匹。


『ほぉ、こんな魔物もいたのだな』

『新しい魔物か?』

『マッドネストレント……凶暴な木の魔物だな。なに、フォースが使えれば我の敵ではない。暫く索敵行動を離れる』

『ぬかるなよ』

『ふんっ』



 一七四○(ひとななよんまる)

 数分でチャールズよりマッドネストレントの討伐報告を入心。

 その間俺は、森の中うろついていた牛の様な動物を狩る事に成功。今夜は肉の摂取が出来そうだ。……草食のチャールズは食べるのだろうか?



 一七四五(ひとななよんご)

 5匹のオークレプリカを発見、ただちに1匹を討伐。気付かれるまでに2匹の討伐に成功。

 チャールズによる頭上からの攻撃により3匹目を撃破、注意が逸れた隙に4匹目の額を貫く事に成功。

 木に登ってくるオークレプリカに対して手槍を投擲……ヒット、討伐に成功。15分で8匹のオークレプリカとマッドネストレントの撃破。


『少し早いがメインディッシュの登場だ』

『ほぉ、もう見つけたか』



 一七五○(ひとななごまる)

 5時の方向に昨晩のままの姿、大きな左腕に3本の矢が刺さったレプリカキングをチャールズが発見。

 これより現場に急行する。…………発見。木の上でチャールズと合流。


「「アップ」」


 俺は武器に、チャールズは牙と爪にフォース操作を施す。


「手筈通り、チャールズが上から攻撃。……あの馬鹿でかい鉄槍には気を付けろ」

「左腕がほぼ使えないようだ。注意して行動すれば問題なかろう」

「後方より右手を狙う、怯んだら軸足と思われる右足を狙え」

「ん、頭を狙わないのか?」


 チャールズが首を捻る。どうやらコイツはまだ俺の事をわかっていないようだ。


「奴の口はチャールズの顔より大きい、飲まれたら終わりだぞ?」

「ふっ、本当に慎重なものだな」

「死ぬよりマシだろう」

「……確かにな」

「いくぞ」

「合点承知……」


 暗殺開始……。


 後方より矢を射出……ヒット。流石に反応が早い……すぐに気付かれた。だが問題ない。

 後方よりチャールズが接近、左と右の爪でレプリカキングの右足を強襲。……見事だ、右足の切断に成功した。

 膝をついたレプリカキングの背後から頭部を狙い射出。1、2……3回のヘッドショットに成功、前方に倒れる。その間チャールズが鉄の槍を回収し退避、そして合流。

 目標(ターゲット)の沈黙を確認。


「……ふむ、心の臓が止まったな」

「ほぅ、わかるのか?」

「人間の聴覚と同じにするな」

「ではもう1本矢を放ち慎重に近づく。その後チャールズが首を切断する」

「正気か? もう既に……」

「昔暗殺した者が息を吹き返したケースがある。頭部の破壊、もしくは首の切断が理想だ、復唱しろ」

「……了解。太郎の射撃の後、レプリカキングの首を切断しよう」


(やれやれ……とんでもない者を(あるじ)にしてしまったな……)


 ……目標(ターゲット)の鎮圧に成功。


「しかし、何故我が? 近づくのが怖かったのか?」

「そうだ、フォースがもう使えない。まだ使える者に任せるのが上策だろう?」

「そういう事だったか」

「少し早いが本日のミッションは終了だ。これよりリンマールへ向かい、鉄の槍と毒草を捌く。チャールズは11時の方向で死んでいる牛を回収しセーフハウスへ帰投、いいな?」

「了解だ」


 ――一八○○(ひとはちまるまる)、本時刻を以ってミッションを完了とする――








 毒草が入った麻袋を1つチャールズに持たせ、太郎はリンマールへと戻った。途中ゴブリンウォリアーと遭遇したが、問題なく撃破出来た。


「……マジかよ」


 エッジがレプリカキングの鉄槍を見て驚いている。


「何の槍だかわかるのか?」

「あぁ、前の持ち主がわかるからな。にいちゃん、数日前までフォースが使えなかったって聞いたぞ? レプリカキングってったらブロンズランクの標的だ、罠でも使ったのか? ……いや、レプリカキングは狡猾で有名だ……」


 エッジが太郎のランクでもレプリカキングを倒せる倒し方を考察する。

 その情報を聞き、太郎は脳内でレプリカキングのデータを上書きしていく。


「買うのか買わないのか?」


 鉄の槍の買取を急がせ、考察に没頭していたエッジが我に帰る。


「あぁすまない。魔物産だが、こりゃ戦士連中が喜ぶぜ、800レンジで購入させてもらう。どうだ?」

「エッジがそう言うならその値段で構わない」


 以前の好意からか太郎はエッジの言い値で全て物品を売却している。エッジも安く買い叩いている訳ではないが、相互利益を考えて買っている事が見て取れたからである。

 売買において信頼関係が築ければ、これくらいの判断は太郎には可能だった。


「にしてもその弓矢……中々見事だな? どこぞの職人のものかい?」


 エッジが太郎の背中に掛かる矢筒と弓を指差している。


「あぁ、確かに腕は良いな」

「見せてもらえないかい?」

「売るつもりはないぞ?」

「なぁに興味本位さ」


 太郎は肩から矢筒と弓を外しエッジに手渡す。すぐにルーペを使い、入っている模様や(やじり)の先端部分等、細部にわたって観察している。


「へぇ、スキル無しでここまで作ってるのか。天職に抗ってこのレベルなら、職人スキルを覚えたら名工になれるんじゃないか?」

「そうなのか? 確かに使い易いが……」


 エッジが矢筒、弓を返しながら説明を続ける。


「都に行けばスキルを使って武器を鍛えてくれる鍛治師がいる、そいつらに素材と合わせて渡せば、武器のランクも変化するんだ。職人は素材武器を作り、鍛治師はそのランクを上げる。職人の素材武器のランクが高ければ高い程、より高いランクの武器へ加工出来るんだよ」

「……奥が深いな」


 太郎が顎に手を添え感心している。


「俺も職人スキルを持っているが普通の武具を製作するので精一杯さ。このレベルにまではとてもとても……」

「何事も諦める事は良くない。道に突き当たったら回り道をするなり掘り進むなりすれば良いんだ。……それに、この剣、非常に使い易いぞ」


 太郎の講釈を口を開けて聞き、エッジは後に苦笑し誤魔化す。意外な程太郎の言葉には説得力があったのだろうか、エッジがそれ以上自分の才能を卑下する事は無かった。


「……ありがとう。その剣は自信作なんだ、大事にしてくれよ!」

「あぁ」


 何かスッキリした表情で礼を言い、エッジはいつもの陽気さで太郎を送り出した。

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[良い点]  バールザールを無駄な諍いに巻き込み、その上無体を働いたアリスの徳、減少して!
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