第十二話「通心」
以下は、殺し屋太郎の本日のミッション、「効率的な徳の回収」に関する脳内レポートである。
――日は完全に沈み、辺りは闇と化している。現在時刻は二○三○――
ハチヘイルから借りた農業用の大きい麻袋を2袋借り受け、俺とチャールズでオークレプリカの森まで運搬する。
二○三○。
ミッションスタート。
青い草、つまり毒草を麻袋に詰めれるだけ詰める。その間チャールズになるべく固い木の枝を集めてもらう。
森の外側なので魔物の気配はあまりないが、いないという事ではない。出来るだけ慎重に行動する。
チャールズがある程度枝の回収を終えると先端を尖らせ始める。そう、手槍の作成だ。
その間に俺は麻袋1つ分の毒草回収に成功。
二一○○。
やや手間取っていると思っていたら、チャールズのヤツは植物の蔓を使い手槍に見事なグリップを作っていた。
持ちやすさの向上と共に、威力、命中精度が向上。中々使えるヤツだ。
時間がかかると思っていたら、チャールズのヤツ、槍に芸術的かはわからんが中々美しい彫り物を施していた。
必要ないので取り上げたらやや涙目になっていた。変なヤツだ。
いつまでも時間がかかると思っていたら、ヤツめ弓まで作っていた。数十本の矢と矢筒の作成も終了していた。
ふむ、指示以外の事をするのはいただけないが、これはこれで役に立つだろう。
麻袋2つ目の毒草回収に成功。
二一三○。
麻袋2つを森の外側の茂みに隠し、植物の蔓で縛った12本の手槍、25本の矢を装備し、木の上へ移動。
夜目が利くチャールズが索敵を開始。ヤツはまだスキルが使えない為、視認のみの索敵活動となる。
アリスは言っていた。「夜になるとオークレプリカより恐ろしい魔物が彷徨っている」と。
ギルドでの事前情報収集により、ここにはオークレプリカを束ねるボス、「レプリカキング」がいると判明。その実力は「オーク」に引けをとらないとの事だ。
その情報を鵜呑みにする訳ではないが、世界各地にいると言われている「オーク」の実力を測る良い機会である為、本日最大の目標を「レプリカキング」とする。
チャールズの報告より先に、8時の方向にオークレプリカを発見。どうやらまだ種の保存の危機に瀕していないようだ。いや、森から出ないという事をそう言うのだろうか?
確かにアリスが言っていた様に、このオークレプリカの森はかなりの資源を有している。効率的に資源や金銭を集める為にこの森は欠かせない狩場となるだろう。
その為にはオークレプリカの存在はかなりの弊害となる。種の保存だのと悠長な事を言わせる前に全滅に追い込みたいところだ。
よし、木の上から地に寝転がるオークレプリカを発見。これより、フォースの実験と共に暗殺を開始する。
「アップ」
木製の手槍にフォースを施す。体内……というより脳内で何かが減った感じがする。
……なるほど、これがフォース量の事だろう。感覚は体力のそれに似ているがやはりどこか違う。
使い込めば量も増えるとの事なので、普段から慣らせておくのが良いだろう。勿論、バールザールが言ったように、その最大量等には個人差があるそうだ。
オークレプリカは夜行性ではないのか動きが非常に遅い。これなら安易に殺せるだろう。
……投擲……ヒット。
フォースのおかげか、頭上より突き刺した手槍が突き抜けた。素晴らしい攻撃力だ。
このフォース、使えて後4回というところか。
レプリカキングに使いたい為、回数の制限は必要だと判断。
『太郎、その場所より6時の方向に3体発見した』
これが、主従契約の利点、「通心」というモノらしい。声を出さなくていいのは非常に便利だ。使用制限はないとの事だが、相手に意識がない場合は使えないそうだ。
つまりどちらかが眠っていたり、気絶していた場合に関しては使えないという事だ。
『了解した、これより6時の方向へ向かう』
木を伝い6時の方向へ急行……。前方下部に3体のオークレプリカを発見。
『陽動を頼む』
『合点承知だ』
弓を構え、背後より矢を放つ。……ヒット。数度ピクピクと動いたがすぐに沈黙。フォースを使わずとも絶命させる事が出来ると判明。
瞬時に残りの2匹が後方を確認しようとするが、チャールズの陽動によりオークレプリカを前方へ意識させる事に成功。
2匹の内、後ろにいる方を先に殲滅、前方のオークレプリカに気付かれる前に再度矢を放つ。……ヒット。
『次だ、1体だがその場より10時の方向だ』
『任せろ』
…………その後、フォースを使わずに7匹のオークレプリカを倒す事に成功。
二二○○。
やはり暗視のスキルが欲しいものだ。一度矢を外してしまった……。
不甲斐ないが、相手の条件も同じだ。様々な行動からオークレプリカは夜目があまり利かないと判明。
チャールズが凄いのかこの弓の弦が凄いのかわからないが、中々の強度がある。今後手槍はいらないかもしれない。
『む、レプリカキングではないが、大物を発見したぞ。4時の方向だ』
『何だ?』
『グリーンスネイク、毒を吐く大蛇だ』
『蛇か……厄介だな』
蛇の生命力は厄介だ。頭だけになっても動くのが奴等の最大の特徴であり強みだ。
切り落としたはずの首に噛まれて死亡する兵や民間人を何度か見た事がある。さて……どうしたものか。
『太郎、ここは我に任せてみぬか?』
『チャールズに?』
『竜に毒は効かぬ。太郎が注意を引きつけてくれれば今の我でもヤツを滅する事が出来るだろう』
『ほぉ、それは面白いな』
やはり有能なヤツだ。こちらの思っている事を察したのか? どれにしろ有難い。
これよりチャールズと俺の、攻撃と陽動をシフトする。
奴等の恐ろしい部分はサーモセンサーの様に敵の体温を察知出来る事だろう。勿論、眼がこちらに向いていなければ発見はされないが、あれはあれで非常に厄介だ。
グリーンスネイクの後方より目標を視認。体長6メートルというところか。大蛇特有の直進運動……腹鱗のみで移動している模様。
身体の分厚さは45~50センチというところだろう。人間を一飲み出来そうだ。魔物の大きさに際限がない可能性が非常に高い。
神話等に出てくるクラスを今後想定しなくてはいけないだろう。
木を伝い、グリーンスネイクの前方まで移動。直後、木の枝を揺らし、グリーンスネイクの視線誘導に成功。
「アップ」
手槍にフォースを施し、グリーンスネイクの腹部を狙い投擲……ヒット。グリーンスネイクを突き抜けながら地中に手槍が刺さる。
いつまで持つかはわからないが、一時的な行動不能に追い込む事に成功。
今度はフォースをかけずに手槍を投擲……ヒット。暴れている為、外れるかと思ったが、余りぶれのない刺さっている手槍付近を狙った事が幸いし命中した。
貫通には至らないが3分の1程手槍が突き刺さっている。
『さぁチャールズ、お手並み拝見だ』
『ふっ、我の見せ場だな』
チャールズが後方より接近、グリーンスネイクの尾に噛み付いた模様。色が黒いせいか非常に視認が困難である。
月明かりの中、暴れるグリーンスネイクの尾を何周か周りながら噛み、とうとう切断にまで追い込む。
この時、手槍の耐久度が限界を超え、折れてしまう。
『もう一度投げるか?』
『いや、構わぬ。このまま押し切れる』
『了解だ』
切断された尾が未だ動く中、チャールズはグリーンスネイクの首に噛み付く。
発見される前に死角から攻めた様だ。なかなかわかってるようだな。
先程まで蛇特有の鳴き声を出していたが、チャールズに首を噛まれた途端に大人しくなった。死を覚悟したのか、声が出ないだけなのか……。
間も無くチャールズはグリーンスネイクの首を切断。そしてまだ激しく動いている胴体部分と距離を取る。
『太郎よ』
『どうした?』
『頭部への止めを頼む。油断こそしていないが、近寄ると予測不能な事が起こり得るのが奴等の恐るべき部分だからな』
『ふっ、同感だな』
木の上から頭部に向け手槍を2本投擲し、命中させる事に成功。
胴体、尾の動きは続いているが、頭部の沈黙を確認。チャールズと共にこの場を離れる。
二二一○。
3匹のオークレプリカを倒した後、チャールズより連絡有り。
『いたぞ、レプリカキングだ』
『……どこだ?』
『そこからならば12時の方向だな。やるのか?』
『率直な感想を聞きたいものだな』
『我等2人で……作戦次第というところか』
『ほぉ、中々の戦闘力だな』
『我はまだフォースが使えぬ。死にはせぬもののちょっとした死闘になるだろう』
『…………』
さて、どうしたものか? チャールズは嘘は言わないだろう。自分も死にたくはないだろうし、これまでも友好的に行動している。
俺を殺したいのであればそういった発言も出ないだろう。作戦次第……か。
『……完全な死角位置を教えろ』
『ほぉ? ……11時の方向からであれば今なら死角だろうが……』
『チャールズは茂みに置いた麻袋2つを回収し、セーフハウスへ向かえ』
『馬鹿な、いくら太郎でもあやつはまだ無理だ』
『言う事を聞け。交心終了だ』
本日2話投稿予定です。




