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~転生孤児ANOTHER~「殺し屋と勇者の事情」  作者: 壱弐参


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第十一話「赤眼」

 ――リンマールより東へ80キロ程、ドードーの町――


 雰囲気はリンマールの村と大して変りはないが、火の国イグニスに近い為か、人口・冒険者の数が極めて多く、気候はやや暖かい。また、近隣に危険な魔物も出没するので、町の外側は高さ4メートル程の壁で覆われている。

 門には町の自警団が常駐し、昼夜交代で町を守っている。


 トゥースに助けられたアリスとバールザールは、その後、別段強い魔物と出会う事は無く、旅路を順調に進みドードーの町まで到着していた。


 バールザールは宿をとりに、アリスは教会に向かっている。

 バールザールは、勇者であるアリスを早く成長させる為、道中出会った魔物への止めを全てアリスに任せていた。

 そう、この世界では魔物に止めを刺した者にしか徳が反映されないのだ。



 ――ドードーの町のギルド「猛者」――


 バールザールはギルドの2階に宿をとった後、1階で2人で攻略出来そうな依頼を探している。

 勿論アリスのランクがレギュラーでも、バールザールがブロンズであれば、ブロンズの依頼を受ける事が出来る。事実、受けるのはバールザールだからである。

 稀にパーティクエストと呼ばれる依頼も存在するが、その大体の依頼内容は討伐困難な強力な魔物の討伐だったりする。


(さてはて、今回の旅路でアリスのランクがアドバンスにでも上がれば多少冒険出来るのだがのう。……ふむ、アドバンスの依頼、リトルガルム討伐にでもしておくかの)


 バールザールはギルドに依頼受諾の旨を伝え、依頼主である町長の元へ向かった。

 基本的に魔物討伐の依頼は、村長や町長等のその集落の長や代表が提出する。何故ならその代表の元へ魔物の苦情が来るからである。そしてその報酬は、税金や募金の中から支払われる。

 勿論、これは悪人相手にも適用されるが、ハチヘイルの場合は「盗みの被害」であって「命の危険がない」という長の判断からハチヘイル個人の依頼となったのだ。この依頼では冒険者の死人が出た。しかしこれは冒険者が盗人を襲ったから返り討ちにされただけである。実害はやはり「盗み」だけだった。長や代表はこういった割り切れる判断をしなくてはいけない事もあるのだ。




 ――ドードーの町の教会――


 リンマール村の教会とさほど変わりなく、やや広く、椅子が数脚増えただけ、という感じである。

 アリスは前の礼拝者の対話の終了を確認し、魔神像の前に立った。


「魔神レウス様、どうか迷える子羊をお救いください」


 神父の声により魔神像が光る。

 アリスの心の中に何やら賑やかな音……いや、騒ぎ声が流れてくる。


『だーかーらー、俺はトゥースと話があるの! 少しくらい離れてろよ!』

『せっかく戻って来たんだから構ってくれても良いじゃん!』

『おま、神界の人間が「じゃん」とかどうよ? 威厳とか皆無じゃん!』

『あーあー、今レウスも言ったー! 我だけじゃないー!』


(取り込み中でしたか?)


『あ、子羊1名追加ッス!』

『あー、俺今無理だ。ブルス頼むわー』

『おぉ、ようやく出番ッス』

『確認をお願いします』


 アリスはブルスと名乗る男に、徳の確認手続きを依頼する。

 因みにこういった騒ぎが礼拝者に漏れる事は極めて稀であり、普段はもっと事務的で、淡々と終わるものである。


『言い訳は完璧ッス』

『あの、確認を……?』

『えーっと、アリスさんの現在の徳は……3170。おめでとうございますッス! チーン! ッス』

『よしっ!』


 徳は総合計数で告知されるが、スキル習得の段階で区切りとなる。

 総徳数が100でスキルを1つ習得出来、もし総徳数150の状態で犯罪を犯した場合、総徳数は100に戻る事になる。


 以下がスキル10個、つまりマスターランクまでの道程である。



 スキル1個=100【ビギナー】

 スキル2個=500【ベーシック】

 スキル3個=1500【レギュラー】

 スキル4個=3000【アドバンス】

 スキル5個=5000【ブロンズ】

 スキル6個=10000【メタル】

 スキル7個=25000【シルバー】

 スキル8個=100000【ゴールド】

 スキル9個=250000【プラチナ】

 スキル10個=500000【マスター】


『次の中から欲しいスキルを選んで欲しいッス』


 《強靭なスタミナ・剛力・加護》


『あれ、加護っていうのが増えてるわ?』

『それは勇者の専用スキルッス。特殊地域の通過、攻略に必要ッスよ。寒い所とか暑いところでも、これがあれば大丈夫ッス』

『確かに素晴らしいスキルだけど、今は出来るだけ戦力の増強をしたいわね……』

『それなら剛力がオススメッスかね?』


 スニーグルとの戦闘で己の無力感を味わったアリスは、単純戦闘力の増強を望み、それが表に出てしまった。しかしブルスは気にせず、それに合ったスキルを提案する。


『あ、では、剛力をお願いします』

『了解ですッス!』


 名前:アリス

 天職:勇者

 右手:タローのナイフ

 左手:鉄の盾

 ランク:アドバンス

 スキル:フォース操作・索敵・疾風・剛力



『どうもありがとうございました!』

『またのご利用をお待ちしておりますッス!』


 アリスはブルスとの会話を終え、教会を後にする。そして、バールザールと合流する前にタローからもらったナイフの鞘を見繕う為、武具店へ向かった。









 ――リンマール北、とある林の中――


 満腹になったのかチャールズが木の上でスヤスヤと寝息を立てている。その安眠を妨害するかの様に、チャールズの心の中に何者かが語りかけ――プッ


『おい、俺だ俺』

『…………』

『なぁ俺だよ俺、俺俺!』

『……タ、タカシカ?』

『そうなんだよ、ちょっと事故っちゃって大変なんだ』

『ソウナノカ』

『すまないけどちょっと助けてくれないか?』

『ドウスレバ?』

『今から言う口座に金を振り込んでくれ』

『ワカッタ』

『日本東京IFJ銀行の秋葉原駅前支店、普通口座の1090555に、50万だ』

『この茶番はいつまで続くのかな、魔神殿?』

『皆が「古い! 今は電子マネー買ってコード送れってやつだろ!」って突っ込むまでだ』

『左様ですか』

『俺俺詐欺じゃないけど、あれ何て言葉でまとめるんだろ?』

『○○乗っ取りとかじゃないでしょうか?』

『うーん、なんかしっくりこないよな?』

『で、何の用でしょうか?』

『人間と契約したんだって? 1週間だけって聞いたけどどんな人間と契約したんだよ?』

『調べればわかる事でしょう?』

『個人情報保護は出来るだけしたいからな。同意の下に聞き出そうかと思って』

『魔神像に立った人間の名前を当ててるだけで個人情報もないと思いますが?』

『あれはほら、相手が神だって認識してるからな。で、どんな奴なんだよ?』

(あるじ)は……とても慎重だな。ここに来る道中でも木の上からの索敵や前方からの死角を利用して動いていました』

『平地だと匍匐(ほふく)前進でもしてたのか?』

『平地の場合は双眼鏡があるし対等な条件だからと言ってましたな。しかし、用心をしていました』

『名前は?』

『太郎。異界からの遭難者でしたな』

『太郎さんか。まぁ、それならいいかもな』

『ほぉ、それはありがたいですな』

『数年帰って来ないんだろ? 契約は自動延長にしといてやるぞ』

『へ?』

『それと、お前の力はその世界では強大過ぎる。ちょっと制御させてもらうからな』

『……へ?』

『あぁ、悪人ならやっちゃっていいぞ。最近邪神達の動きも活発だからな。まぁ、そっちは俺達の仕事だから頑張って社会勉強してきてくれ。竜神の地位は一時的にオバルスさんに回しておくから』

『え、ちょっとちょっと……え?』

『すまんな、上司には逆らえないもんで』

『……どなたのご命令で?』

『おやぶんだ』

『……デューク様、恨みますぞ』

『はははは、そんな事言ってるとまたダルマにされちまうぞ? あ、魔神像の前には行けないだろうから、チャールズのスキルに関しては太郎さんに手続きしてもらいな』

『……御意』

『そんじゃなー! あ、皆もまたな! 友達の家に行った時に色々物色するのもほどほどにな!』


 プッ


 …………レウスはチャールズの心の中から去った。チャールズの身体から人を殺せないという戒めを消し去り、同時に新たな戒めをチャールズに与えた。


(やれやれ……これで我も(あるじ)と同様のビギナーか……)


「何をしている?」

「むっ?」


 木の上にいたはずのチャールズの目の前にいたのは。


(あるじ)っ? 何をしておる、指輪で呼べと言ったであろう?」

「何をそんなに慌てている? 遠目で発見出来たから来たまでだ」

「そ、そうか……」


(ぬぅ、太郎の気配を察知出来なかった……。こやつ忍か? スキルを使用しているようにも見えぬし……。いや、ただ我の能力が落ちただけとは思えぬ……)


 チャールズは自分の能力低下を差し引いても、太郎の技術を評価した。


「お前……戦力が低下していないか?」

「いや、まったく。困った事にその通りでな、今後は我もギルドの依頼を助けよう。今我は(あるじ)と同じビギナーだ」

「いや、俺は先程ベーシックになった」

「どちらでも構わぬ。2人で行った方が効率的だ」

「一理あるが、徳の分配が面倒にならないか?」

「ふっ、そこで主従契約が利を成すのだ」


 チャールズはニヤリと笑みを浮かべ太郎の反応を待った。


「いいから話せ」

「なかなか人間味のない(あるじ)だな」

「お前はその逆だな。それと……太郎で構わん」

「では我もチャールズと呼べ」

「ではチャールズ」

「なんだ太郎?」

「先を話せ」

「主従契約中、徳の配分は自動的に行われる。先程まで我は徳を最大まで持っていたから太郎のみに分配されたが、今後は半分になるのだ」

「把握した。……しかし残り6日ではそこまで稼げない様な気がするな」


 契約期間の短さから想定できる総徳数を頭の中で計算している太郎を前に、チャールズは大きな溜め息を吐いた。


「その事だが……延びてしまった」

「なんだと?」

「いつ契約が満期になるか……我でもわからなくなってしまった」

「……何か問題があったのか?」

「親子喧嘩の延長のようなものだ」

「ふっ、お互いに苦労するようだ」

「ほぉ、太郎もそのような苦労をしていたのか」

「この世界に来るなり勇者に絡まれ、竜に絡まれた上に勝手に主従契約をさせられた」

「ふはははは! なるほど、それは多大な苦労だな。して、もう暗くなるが……根城に帰還するのか?」

「これからフォース操作を試す。良い狩り場を知っているが……付いてくるか?」

「ふっ、太郎? 堅固な戒めより解き放たれた竜は、闇が覆う夜にこそ真価を発揮するのだぞ?」

「遅れをとるなよ」

「ぬかせ」


 日が沈み、辺りが薄暗くなった頃、リンマールのとある林の中で、竜と殺し屋の眼が赤く……紅く光った瞬間だった。

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