第九話「依頼」
以下は、殺し屋太郎の本日のミッション、「様々な依頼」に関する脳内レポートである。
――日は頂天を差し、時刻は一二三○――
一二三○。
エッジから懐中時計を200レンジで購入し、エッジに物好きだと言われた。どうやらこの世界の時間の認識は非常にアバウトらしい。
エッジに売った金品が合計で740レンジになった。現在の手持ちは980レンジ。しかしこの金額ではまともに生活するのは困難である。したがって今回のギルドからの依頼は細かい任務をこなしていくのがベストだ。
第1ミッション、「薬草採取=報酬50レンジ」
目的:依頼以上の薬草とその知識を収集する。
条件は預かった布袋の8割を薬草で満たす事。多めに採取出来れば次回ミッション時に捌くだけだ。
第2ミッション、「ゴブリン討伐=100レンジ」
目的:ゴブリンの生態調査と徳の向上。
昨日までなかったミッションが更新されたようだ。依頼主は村長。村の西で確認されたゴブリン5匹の討伐。
こういった簡単な討伐は誰かが倒してしまっている場合もあるそうだ。聞いた話によると第1ミッションと並行して可能だという事だ。
アンナからカウンターという腕輪を預かる。この腕輪が倒したゴブリンの数をカウントしてくれるそうだ。
平民の暮らしと、このテクノロジーに差があるのは何故だろうか? 今後の考察課題とする。
第3ミッション、「毒草採取=報酬100レンジ」
目的:この世界の毒の知識とその対策を考える。
一番の難関ミッションの可能性が高い。採取場所はオークレプリカの森の入口であり、魔物に襲われる可能性がある。受諾出来る最大依頼数は3つまでとなっている事を知る。
条件は預かった布袋の8割を毒草で満たす事。
個人ミッション、「野草図鑑の購入」
目的:様々な野草に精通し、サバイバル知識、今後の生活に役立てる。
1000レンジで売られているのを雑貨屋で視認。店主との取り置き交渉に成功し、一両日中に購入する事を約束。今思えば立ち読み出来る文化とは素晴らしいものだったという事か。
一三○○。
ミッションスタート。薬草採取ポイントである村の西の森へ侵入。
薬草の色は赤く橙色に近い葉をしている為、すぐにわかるとの事だ。木に登り、双眼鏡を使い探索開始。
……7時の方向にゴブリンと思われる魔物を発見。同時に10時の方向に薬草と思われる植物を発見。
薬草採取時の危険性を考慮し、ゴブリンの討伐を優先する。
木の陰、茂みを利用し、ゴブリンに近づく。視認出来る限りでは現在3匹の確認が完了。左右、後方、木の上等にはゴブリンの確認は出来ない為、接近を続ける。
ゴブリンの特徴レポート。
身長約50センチ、体重約20キロ、緑……いや、黄緑色に近い皮膚で3匹共異なった色の帽子を着用している。手には石器を装備。身の丈にあった槍、斧だ。上半身は裸体、下半身は植物で作った様な腰巻をしている。ファッション……というより羞恥心の様なものがあるのか? 腕は太くはない。むしろ女の様に細い。力があるとは思えないが、異世界という事でここに関してわからない為、怖いところだ。
見たところ性別の判断がつかない。単性なのか、この場に同一性しかいないのか、現状不明。
機敏に動きそうではあるが、行動速度は不明。がしかし、5匹いてもビギナーの討伐だ。そこまで慎重になる必要はないと判断する。
……暗殺開始。
1匹は岩の上に、1匹は茂みの側、最後の1匹は木に斧を投げつけている。木を切り倒すつもりではないらしい。
どうやら遊んでいる……いや、木にリスの様な小動物が括りつけられている。それを的にして斧を投げている。ゴブリン流の遊びだろうか、残虐性は高い事が判明。
なるほど、討伐依頼が出されるわけだ。
小動物を助けられるかはわからないが、安全にいかせてもらう。
茂み近くの槍を持っているゴブリンを最初の目標に決定。目標をAとする。音、風の具合を判断。
少し離れ、Aだけに聞こえる音を出す。……作戦成功。Aが釣れ、こちらへ来る。俺の位置が他のゴブリンからの死角になった段階で背後から鞘を使いAの頭部を破壊。
剣を使うのが一番だが、血を嗅ぎつける可能性を考慮し、Aから出る出血は少なければ少ない程好ましい。Aが落とした槍を拾う。
ここからはスピード勝負だ。
斧で遊んでいるゴブリンをBとし、岩の上のゴブリンをCとする。
Aが落とした石の槍を使いBに投擲……ヒット。絶命には至ってないが、Cがその異変に誘導される。瀕死のBにCが近づく。その間にCの背後へ回り、鉄剣で首を切断。その流れで、Bに止めを刺す。
目標の鎮圧に成功。
Bに刺さっている石槍を回収。Cの石槍を回収。木に刺さっている石斧を回収。
リスの解放に成功。やや弱っているがそそくさと逃げて行った。
さて残るは2匹か……再び木に登る。
間もなく残りの2匹を発見、B・Cの死骸を発見したようだ。木の上から石槍を投擲。ヒット、1匹の無力化に成功。
これより暗殺を中止し、戦闘を開始する。木を降り最後の1匹に俺の姿を晒す。この目標をDとする。
Dの装備は石斧。Dは「キーッ」という叫び声で俺を威嚇。俺も剣を抜く。
Dが石斧を投げる。馬鹿かコイツは? 手元に戻る形状ではない為、かわしつつDに接近、剣を振りかぶる……ここからの反撃は無し。一度攻撃を止め、ゴブリンの出方を見る。……逃走。敵に奥の手無し。石斧を投擲し……頭部にヒット。無力化したゴブリンに止めを刺す。
目標の鎮圧に成功。
投擲武器は役に立つ為、石槍を2本、石斧を2本を回収。
これより薬草採取に移行。
橙色の植物を採取するが、一ヶ所では8割に届かなかった。再び木に登る。
更に7時の方向に薬草を発見。周囲を警戒しつつ近づく。問題無く採取に成功。
一三二○。
これより毒草採取へオークレプリカの森へ移動を開始する。
この西の森より真っ直ぐ南へ向かえばオークレプリカの森だ。ベストな状態で走れば約1時間で着くだろう。そう、何もなければな……。
一四一○。
遠方にオークレプリカの森を視認。視界良好の為、現状の速度を維持する。
一四一五。
前方に異常を確認。小さな集団がこちらへ向かっている。……あれは、ゴブリンか?
いや、似ているがゴブリンよりやや大きい。数は1、2……3体か。こちらにはまだ気付いてないようだが、隠れる場所がない。
奇襲による鎮圧作戦を決行する。投擲武器は石槍と石斧の2本ずつ。気付かれる前に1匹は倒したいところだ。
双眼鏡で標的の武器を視認。全てダガータイプの鉄剣を所持。手に持って走っているところを見ると、そこまで頭は良くない模様。
しかし見れば見るほどゴブリンに似ている。亜種なのだろうか?
武器以外でゴブリンと違う部分は身体が少し大きい点と、帽子ではなく皮の兜の様な物を装着している。……頭部破壊は難しいな。
魔物の心臓は人間と同じ場所にあるかどうかはわからないが、胴体部を中心に攻める事が重要だろう。
そろそろ槍が届く範囲だ。まだ気付かれていない。標的の進行速度、一定を保持……3、2、1……投擲!
……ヒット、1匹がその場に崩れる。
む、たじろいだのは一瞬のみ。ダガーを両手で持ち背後をかばい合う様な陣形をとっている。なるほど、ただのゴブリンではないようだな。
駄目で元々だ、もう1度石槍を投擲…………ミス、石槍が弾かれ標的に発見された。これより通常戦闘を開始する。
怒っている様な形相で接近。これを見る限りスピードは遅い模様。あのダガーを受けるには石斧では心もとない為、右手には剣、左手に鞘を持つ。
間も無く交戦。
1匹が跳ね上がり、2匹目はそのまま接近。跳ねた魔物をA、そのまま接近する魔物をBとする。
上下からの攻撃。後方へ回避。Aが着地した事により、Bと時間差が発生。
瞬時にBとの間合いを詰め1合打ち合う。Bのダガーを跳ね飛ばす事に成功。腕力はかなり低いと断定。武器のないBを蹴り飛ばす。非常に軽い。蹴った感触から判断するに35キロ程だろう。
Aが追いつきダガーを鞘で払い、弾く事に成功。手が痺れたのか一瞬怯んだ。この隙を利用しAの首を剣で攻撃。ヒット……しかし切断には至らない。
Aは沈黙、蹴り飛ばし剣を引き抜く。その間Bは弾かれたダガーを回収し接近。
ここで鞘を捨て、石斧を1本投擲……弾かれる。がしかし、2投目は接近しながら投げる。弾いたが怯んだ。その隙に両手で剣を持ちBの首を切断。
Aが倒れた方を向き、Aの生存確認。呼吸は無いみたいだが、念の為首を刎ねておく。槍で倒れた魔物も動きが見られない為、そのまま絶命した模様。目標の鎮圧に成功
おそらく金になるので、ダガーを3本回収。全ての魔物の皮の兜を分解し、それで武器達をくるみ1つにまとめる。石斧が1本壊れた為、そのまま放置。
戦闘を終了し毒草採取のミッションへ戻る。
一四三○。
情報に聞いていた毒草の特徴、青い植物を採取し、袋へ詰める。
毒草に関しては多めに採取出来た為、予備に持って来た袋へ5割程詰める事が出来た。
これよりリンマールの村へ帰還する。
一五五○。
荷物の重みが原因で到着に時間がかかったが問題なくリンマールへ帰還成功。
エッジに頼み、ダガー2本を鑑定に出す。先程戦った魔物は「ゴブリンウォリアー」と言うらしい。
エッジに鑑定を頼んでいる間に毒草、薬草採取の報告をしにギルドへ行く。
「採取」の依頼に関してはギルドに報告すれば良い。討伐に関しては依頼主への報告が必要だ。
また、ギルドから直接依頼がある事もあるのだそうだ。アリス達が受けたオークレプリカ討伐がまさにそれだったとの事だ。だからアリスは「ギルドへ報告に行く」と言っていたのだろう。
ギルドで150レンジを受け取り、村長の家へ。途中で雑貨屋へ寄り、1000レンジの野草図鑑と、100レンジの革製の肩掛けタイプのバッグを購入。
村長の家でゴブリン討伐完了を知らせ100レンジを受け取る。
2度手間になってしまったが、ギルドにカウンターを返し、エッジの店へ。
ダガーの価格は80レンジだった。本来であればもっと高く売れるが、魔物が使っていた武器は買い手がなかなかつかないそうだ。
残った1本のダガーの鞘を見繕ってもらい50レンジで購入。
パン屋に寄り、手のひら大のレーズンパンを2つと水を20レンジで購入。これで残金が220レンジ。
――一六四○。本時刻を以てミッションを終了とする――




