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プロローグ

本作品は殺人描写等々ございます。予めご了承下さい。

キーワードは途中から増えていく可能性があります。

 ――曇天模様が目立つ空の下、ソマリア沖――

 静かな海と肌に冷たい潮風が吹いている。

 アデン湾より東に向け、1隻の大型クルーザーが海を進んでいた。クルーザーの甲板には1人の男が立っていた。

 その男は黒いブーツに迷彩柄のパンツを穿き、茶色い革製のベルトで締めている。

 黒いTシャツを着用し、首からは迷彩柄の双眼鏡が下がっている。肩には革製の黒いショルダーホルスターが留められている。両肩のホルスターには銃が入っており、男がただ者でないという事がわかる。

 男の喉元に横一線の大きな傷痕があり、Tシャツから露出している腕には無数の傷が存在する。華奢な体つきに見えるが、その実、よく鍛えこまれている事が伺えた。

 顔はアジア系で、黒髪短髪であるが、天然パーマと言うのだろうか、微妙なくせ毛が見てとれる。身長は174センチ、体重は65キロ程というところだろう。


 男の後方に赤いジャンパーを羽織った、同じく迷彩パンツを穿いた男がゆっくりと歩み寄る。男は東欧風の顔立ちで、先程の男より一回り大きい体つきをしていた。


「アイザック、何の用だ?」


 アイザックと呼ばれた男は、目を見開き、そして軽く口笛を吹き驚いて見せた。


「おいおい何でわかったんだよ? こっちは風下だし、足音も殺してたんだぜ?」

「船の揺れと傾き加減でわかる」

「へっ、そんなのがわかるのはお前くらいなもんだぜ」


 アイザックは口を尖らせ、風に(なび)く金色の髪をかきあげた。


「それより何の用だ、お前の管轄は船尾のはずだろう? 持ち場を離れるのは感心しないぞ」

「こんな見通しの良いところで見張りもクソもあるかよ。久しぶりに割の良い仕事なんだ、せいぜい(らく)しようぜ?」

「一瞬のスキや油断が死を招くぞ。本当によく今まで生きて来れたな」

「俺は要領が良いんだよ。……チェチェンの時も、咄嗟にロシア軍に紛れたから助かったんだ。ま、あれは太郎には無理だったろうな」

「俺なら別のルートを探しだすさ」

「かもしんねぇな」


 アイザックはそう言った後、少し声の調子を落とし太郎と呼ばれた男の方を向いた。


「しかしこの仕事……どう思う?」

「エージェントが持って来た話を決めたのはアイザックだろう。俺はお前を信用しているが……何か気になるのか?」

「なぁに、うまい話にはなんとやらだ。ターゲットは始末して、後はインドで報告するだけ……がしかし」

「しかし、何だ?」

「このルートしか確保出来ないって……有り得るか?」


 アイザックが船首近くの手すりに寄りかかる。

 アイザックと太郎……彼らの仕事は暗殺任務を主とする職業、つまり「殺し屋」である。 


「海賊との交渉が済んでいる以上、危険は少ないと思うが……なるほど、そう言われてみればそうかもしれんな」

「ま、今更そんな事を言ってもしゃあねぇがな。前にも似たような事があったし、あの綺麗なエージェントに騙されるなら許せるってもんだ」

「ふ、お前らしいな。この船には民間人も乗っているから…………いや?」

「どうした太郎?」


 太郎は何かに気付き、そしてすぐに胸元に下げられた双眼鏡を手にし、覗きこんだ。


「おいおい何も見えないぜ?」

「民間人が乗っているからこそ、海賊行為の対象になるとは言えないか?」


 双眼鏡を覗き込みながら太郎がアイザックに問いかける。そして、すぐにアイザックもその質問の意図を察したのか、双眼鏡を手にした。


「民間人が乗っていれば海賊行為の対象となる。その海賊は「海賊とは限らない」ってかぁっ?」

「そういう事だ、すぐに船長に知らせてくれ。全速力だとな」


 速度を上げる。その事で危険を回避出来るとは言い難いが、速度が上がれば上がる程、発見に時間を費やされ、延命に繋がる。太郎がとった判断は、あながち間違いではなかった。

 すぐにアイザックが駆け出し、太郎は足元に置いてあった大きなバッグに目をやった。






 ――クルーザーの操舵室――


 アイザックはすぐに操舵室に向かったが、船長の姿を確認出来なかった。


「ったく、どこだよあの爺さん!?」


 タタタタタタタタタッ!


「なっ!?」


 突然、操舵室の下部、梯子(はしご)の先から銃声が聞こえた。


「おいおい……マジかよ……」


 アイザックはすぐに背中のホルスターから銃、「グロック18C」を取り出し、梯子の下部に向け構えた。


(……こりゃ外れ引いたかなー……)


 梯子の下部の安全を確認し、瞬時に飛び降りる。着地の際の音を一切立てないあたり、流石と言えるだろう。

 警戒しながら先を進むアイザック。途中にある扉の先を全て確認し、銃声があった方へ徐々に進んで行く。


(確かこの先は……食堂だったか?)


 アイザックの記憶は正しく、先にあったのは食堂だった。

 食堂の入り口、一回り大きな扉をゆっくり開け、中の様子を探る。


 パリーンッ!


 その時、ガラスが割れる様な音が食堂内から聞こえ、アイザックに一瞬の緊張が走る。


 アイザックが食堂内からの死角となる場所から銃を構える。その時、アイザックはその辺りに溜まる異臭に気付いた。


(こりゃあ……血の臭いか……。ん、何人か倒れてるな。1、2、3……8人か。この船に乗ってるのは俺と太郎を除き、クルーを含めて13人。む、食堂の窓が割られてる? これか、さっきの音は。しかし……人気(ひとけ)が……ねぇな?)


 アイザックは周りに注意を払いながら、食堂中央にいる血塗れの8人に近付いた。


(全員死んでんな……)


 8人の死体には、様々な箇所に銃創が確認できた。その中には女、子供も含まれていた。


(ったく、ひっでぇな……)


 アイザックが一般的に見て惨状ととれる現場を軽く一瞥した。

 こういった惨状を流し見出来るのは彼等の職業の特異性故か、見慣れてしまったが故か……。

 割れた窓にアイザックが近寄り、しゃがみこむ。 飛び散るガラス片の分けて、その間に黒い汚れの様な箇所を発見する。


(汚れ? いや、ゴム製の足跡か。ここから飛び降りやがったな?)


 ガガーンッ!!


 その時、凄まじい音が船を包んだ。揺れこそ少ないものの、アイザックが警戒態勢のレベルを1段階上げるには十分な音だった。









 ――クルーザーの船首――


 アイザックが操舵室に向かい、太郎はバッグの中にある銃器を組み立て始めた。慎重かつ丁寧に、しかし素早く。

 船尾に二脚を置き、その上に銃器の胴部を置く。設置音を確認し、スコープマウントを装着。そして最後にリアサイトを装着。


 バレットM82。軍事目的で開発された高火力の大型狙撃銃である。


(さて、何事も無ければ良いが……ん? モーター音? この船のじゃないな。側面部から聞こえる。あれは……船長っ?)


 太郎の視線の先にはモーターボートに乗ったクルー4人と、船長の姿があった。


「やはり先程聞こえた銃声は……」


 そう言いかけて太郎はバレットM82の照準器を覗き込んだ。そして、ボートで遠ざかる船長達に狙いを定め……引き金を引いた。


 ダーンッ!


 狙撃銃特有の音を発し、12.7mm弾は船長の後頭部を貫いた。いや……吹き飛ばしたと言うべきだろう。

 照準器越しに船長の異常に驚いたクルー達だったが、その数秒後、1人、また1人と血飛沫を撒き散らし死んでいった。

 船長を最初に狙った理由は、ボートのハンドルを握っていたからである。太郎は、人為的なハンドル操作により照準が乱れる事を避けたのだろう。


「……クリア」


 ガガーンッ!!


 その時、船体下部より凄まじい音が鳴り響いた。


(爆発音!? ……もしやっ?)


 船体が少し揺れ、太郎が異変に気付きアイザックが向かった先へ駆けようとした時、その陰からアイザックが現れた。


「太郎! やべぇぞ、浸水してやがる!」

「やはりか! こっちだ、救命ボートがある!」


 太郎は船体の側面に置かれているカプセル型の救命ボートを指差した。すぐにカプセルを持ち上げる。

 アイザックは太郎の後方にあるバレットM82を見て驚き混じりに呆れていた。


「おいおい、そんなもんまで持ってきてたのかよっ?」

「あぁ……以前狙撃したターゲットは頭を撃ち抜いた時、生きていた事があってな。以来狙撃は頭が吹き飛ぶコレを……使ってるっ!」


 そう言いながら力み、太郎はカプセルを海に落とした。

 海に着水したカプセルはすぐに開き、オレンジ色の救命ボートへと変化した。


「ったく。……で、それは持ってくのか?」


 アイザックが顎でバレットM82を差す。


「いや、この状況では無理だろう……」

「船長達は?」

「仕留めた。あのモーターボートがあれば楽だったんだがな……」

「仕方ねぇよ。そんじゃ先に行く……ぜっ!」


 アイザックは船の側面から飛び降り、海に着水した。そして救命ボートを手繰り寄せ、乗り込んだ。

 続き太郎が海に飛び込み、アイザックが太郎に手を差し伸べた。太郎はゆっくりとボートに乗り込み、付属のオールを持ちアイザックと共に沈没間近のクルーザーから離れ始めた。


「……ふうっ。さて、どーするよ?」

「ボートに付属の発煙筒が2本……しかし俺達は……」

「狙われる身じゃそれも使いどころが難しいよなー。とりあえず自力で漕げるだけ漕ぐか。進路はどうする?」

「北だな。ここからならイエメンかオマーンが1番近いだろう。幸い波も味方している。運が良ければ死ぬ前に辿り着けるだろうな」

「運が……良ければ、な」


 アイザックの後ろ向きな発言も無理はなかった。現在地から北の地までの距離はそれほど絶望的だったのだ。

 その時だった――


 バババババババッ


「こりゃ……プロペラ音か?」

「不思議と救いの音には聞こえないな」

「ハッハッハ、終わりの音が近づいてるぜぇ?」

「冗談にしても笑えないぞ?」

「くっそー、心当たりがありすぎて敵が誰かわからねー!」

「今はそれよりこの状況をどう打破するかだな……来たっ」

「おいおいおいおい、見たくねぇ顔にも程があるだろ! Mi-28N……ナイト・ハンターじゃねぇか! ロシアの軍用ヘリの最新型だぞ!?」

「まだ昼だろうに……使用用途を誤ってるな……」

「助かりたいに100ドル」

「死にたくないに100ドルだ」


 そう言って、2人は苦笑混じりに空を見上げる。

 絶望的な死を前に、諦めたかの様に見えたが、不思議と彼等はヘリに向かい銃を向けていた。


 太郎の愛銃「デザートイーグル50AEカスタム」

 アイザックの愛銃「グロック18C」


 ナイト・ハンターはゆっくりと機関砲を彼等に向けた。




「「うぉおおおおおおおっ!!!!!」」














 ――――そして――――


 ザザーン……ザザーン……

 波の音が聞こえ、浜辺には流木や貝殻等が見受けられる。そして、その中には異質な者が倒れていた。

 喉元に大きな傷があり、黒いTシャツを着ている男……太郎の横たわる姿があった。


 バサバサバサッ


 水鳥の様な生物が、太郎の腹の上に降り立った。


「キーッ」


 腹の上で羽を繕い、太郎の身体が揺すられる。


「う……うぅ……」


 太郎が少し呻き声をあげると、水鳥は驚いて飛び去ってしまった。


「う…………はっ!」


 太郎はすみやかに上体を起こし、周囲の状況を確認する。


(あの後俺は…………いや、記憶がないな。ここはどこかの浜辺か。イエメンかオマーン……いや、潮流によってはソマリアやソコトラ島かもしれん。ヤツはどこだ? 持ち場を離れるサインはない……という事は一緒じゃないみたいだな。……生きてるか、あるいは死んだか……しかし、ここは――)


 浜辺より反対側を見渡す太郎だったが、目の前には獣道と、それを覆う密林しか存在していなかった。

 太郎は脳内の記憶を辿ってみたが、イエメンやオマーン、ソマリア……果てはソコトラ島にもこういった景色に見覚えはなかった。


(銃は…………リボルバーが無事だな。現在の装備は……双眼鏡とリボルバー、そして太ももに括り付けた……コレだけか)


 太郎は腿に付けられたナイフホルスターを外し、腰に取り付けた。そして銃を人目から避ける為、迷彩パンツの内側にそれを忍ばせた。


(まずはインドのセーフハウスに向かう。その後の事はそれからだ。……とりあえず密林を抜けるまではナイフを出しておいて大丈夫だろう)


 そう判断し、太郎は密林へと足を進めた。


 しばらく歩くと、密林は深い森へと変わり、太郎の足も軽くなっていた。

 しかし――


(なんだここは……? 見たこともない草木、さっき遠目にチラっと見えた動物も……まるで別の世界に来た様だ……)


 太郎がそう思うのも無理はない。太郎はあらゆるサイバイバルミッションをこなし、様々な土地、草木、動物の情報を頭に入れている。ここまで見たことも聞いた事もない存在達は、若い頃ならまだしも、28にもなる太郎の前ではありえない事だった。

 それを新鮮に感じたのか、太郎は草木の形状を注視しながら歩を進め……そして足を止めた。


(何だ……獣臭?)


 そう思った頃には太郎の身体はもう動いていた。近くにある木に登り始め、ある程度の高さの頑丈な枝から周囲を見渡す。


(っ……前方に異音と異臭を確認。茶色い体毛……熊か? …………なっ!?)


 太郎の前方数十メートル先に現れたのは大きな豚の顔をしたゴリラの様な動物だった。

 口から涎を垂らし、目が血走り、およそ人間など紙切れの様に殺してしまいそうな恐ろしい体躯をしていた。


(な……なんだあの怪物はっ……?)


 怪物は鼻をひくつかせ、太郎がいる方向を注視する。そして、まるでセンサーに感知したかのように太郎の元へ走り出した。


(ちっ、仕方ない!)


 太郎は迷彩パンツの内側にしまったリボルバー「S&W M500(8インチ)」を取り出し、瞬時に構えて引き金を引いた。瞬間、銃はとてつもない轟音を発した。

 着弾した瞬間、怪物の頭は半分程吹き飛び、その場に倒れた。

 しばらく射撃姿勢を維持して、ターゲットが動かない事を確認し、太郎はゆっくりと木を降りた。

 銃を構えながら倒れた怪物に近寄り、太郎は怪物の足を何回か蹴った。


「……ふぅ。一体何なんだコイツは」


 太郎が怪物の死体に触れる。体毛は硬く、体温は高い。肉は非常に硬く、もの凄い膂力(りょりょく)をもっている事が伺える。


「豚かゴリラの突然変異……いや、こういった生物だと言うのが正しいか」


 怪物の正体を分析するが、やはり太郎はこの解答を出せないでいた。


「ふっ、異世界にでも紛れ込んだか……」


 太郎は自分自身の境遇に嘲笑し、そして(かぶり)を振った。


(ありえない……がしかし、周りを見れば見る程……。いや、今はこの森を出る事が優先だ。十分に注意しなくてはな。早くこの場を離れよう。血の臭いで――)


 太郎がそう思った時、先程怪物が現れた場所から、5匹の同じ怪物が現れた。


「グルルルッ」


 太郎は脳より早く身体を動かし、瞬時に2匹の怪物の頭を銃で吹き飛ばした。

 次の瞬間、怪物3匹は身を低くし、三方に分かれて走りだした。

 太郎は正面の怪物に狙いを定め、直後に発砲。怪物の頭部はそのまま地面に転がり落ちた。


(残り2匹……しかし、弾は後1発!)


 左右から怪物が迫り、太郎は利き腕を考慮し、左側の怪物を優先した。直後にヘッドショットが決まり、太郎はすぐに銃を手放す。

 そしてナイフ「テックボウイナイフ S10B」を右手に持ち、怪物が振り下ろした右腕をかわしざまに右脇部分へ斬りつけた。怪物の脇から少量の血が流れ、怪物はそれを左腕で触り確かめていた。直後――


「ガァアアアアアアアアアッ!!」


 怪物は草木に振動が伝わる程の怒声を出した。太郎は久しく表れていない恐怖心を押し込め、腰を落とした。

 その時だった――


「はぁあああっ!」


 突如1人の女が太郎と怪物の間に躍り出た。


(何だこの女は……剣と盾?)


「大丈夫かっ!? 私に任せてアナタは後退して!」


 太郎は拒否しようかとも思ったが、女の自信溢れる声からか、数メートル後退をした。


「さぁ、私が相手よっ!」

第一話も本日中……おそらく24時台に投稿予定です。

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