2.3.4
その更に数分後、八史が倉庫内に居る者達を壇上前に集めた。チームの話をする恒例だった。
「はい注目注目! よーし全員集まったな。ぶっちゃけこれが全員かどうか分かってねぇけど、全員って事でヨシとする! っつーわけで会議だ! もう何回目って話だが、議題はズバリ『この退屈から脱却する案』って事で。もうさ、暇で暇で仕方ねぇのよ。全然熱くなれねぇ。クソぬりぃの! 何でもいいからじゃんじゃん面白そうな案を、はいどうぞ!」
「うわ、ぶん投げやがったコイツ。……いや、そんな急に面白い事っつってもなぁ……」
「別に何でもいいぞ。変わった事とかねぇの? あんだろ? あるよな?」
「変わったことねぇ……。あっ、そういやさ、先月くらいからC区画に妙な連中居たよな?」
「あー居た居た。今建設中の……ほら、アウトレット? あの周りをうろついてた妙な集団だろ? でも、気付いたらいなくなってたな。今月の頭くらいだっけ?」
「そうだな。少なくとも最近は見てないが……結局、何だったんだアイツら」
「なんだよ、もう居ねぇのか。もうちょい早く気付いてたら遊んでやろうと思ったのに……。アリかナシかで言うならアリの話だったが……もう居ねぇなら興味は失せたぜ。はい次」
「っつーか思ったんだけどよ、この数か月でC区画のチームだいぶ減ってないか?」
「そりゃね。二ヵ月くらい前までアタシ達、挑んでくるチームを片っ端から返り討ちにしてたわけだし。やられたらやり返すのがウチの方針とは言え、流石にやりすぎた気がするわねぇ。敵が居なくなったのは、ある意味良い事であるんだけど……まぁ暇になってる一因よね」
「えー、でもラナはいっぱい戦えて楽しかったよぉ? もっとアレやりたかったなぁ!」
「アンタは黙ってなさいッ。話が拗れんのよ!」
結局、話はまとまらないまま三十分が過ぎた。こういった話し合いは今回が初めてではない。しかし、いつも話し合う事自体が目的になっていって、適当に時間を潰して終わるのが殆どだった。
今日もこのまま駄弁って終わりそうだ。殆どの者がそう予感していた時だった。
「いた! 皆さんお疲れ様っす!」
倉庫の裏口が勢いよく開かれ、一人の少年が入って来る。
リライズの情報通である少年——相沢繁だった。歳は十七歳で、A区画の高校に通っている。学校では新聞部に所属している事もあってか、島の色んな事情に詳しい。リライズでは一番若く、チーム全員の舎弟のような立ち位置にいた。
その繁が平日の昼間にやって来た。彼の服装は私服だった。
「どもっす、やっさん。これは……またいつもみたく会議っすか?」
「おう。シゲ。まぁな。でも相変わらずクソ進展なしだわ。つまんねぇの何のって話でよぉ……っつーか、お前こそそんな慌ててどうした? 何で私服なんだ。学校は?」
「……あ、えっと……サボりました」
「おいダメじゃん。こんなとこ来てないでちゃんと勉強しなさいよ」
「やっさんってたまにマジな正論言いますよね……。いや、すんません。……でもちょっと待ってください! それどころじゃないんすよ!」
繁が壇上前まで駆けて、八史に自分のスマホを見せた。
「これ見てください」
舞識島のとあるネットニュースが速報として上がっていた。つい一時間ほど前に起きたという火事のニュースだ。発生場所はC区画の住宅街になっている。八史達が知っているアパートだった。
幸いにも、火事の規模はそこまで大きくはなく、怪我人もいなかったという事が記載されている。
「何よこれ?」
「見ての通りです。今日の十時くらいにアパートの一室で火事が起こったっていう。……で、ちょっと気になった事があって。このアパートの事と、通行人の証言なんすけど」
繁が壇上に上がる。彼の話に全員が耳を傾けていた。今日はやけにサイレンの音が響いている気がしたが、その原因はどうもこの火事が原因らしい。しかし、何故繁はここまで慌てているのか。
「まずアパートの方です。此処なんすけど……確か、白渡さんに貸してるとこっすよね?」
その名前が出た瞬間、八史はスコップを振り上げて声を上げた。
「あー……あっー! はいはいはい。そうだわ! セーちゃんが住んでるとこか! なんか見覚えがある気がした!」
「やっぱりそうでしたか。それでですね、その燃えた部屋っていうのが、白渡さんの部屋らしくて」
「え、うそー⁉」
他の者達も八史と同じような反応を見せ、倉庫内が若干ざわつき始めた。だが、何人かはこの話についていけていない。その一人が事情を知っている仲間に尋ねた。
「あのさ……さっきから出てきてる……その『白渡』って誰?」
「あれ、お前知らないっけ? たまに顔出してくる白頭の……あのキャップ帽被った人」
「あー……見た事あるかも。……へぇー。実は俺、あの人の事あまりよく知らないんだよな」
「ほら、半年くらい前、俺たち色々あったじゃん? あの時期に白渡さんが島に来てさ、やっさんとちょっと揉めた事があったんだよ。でも、最終的には気が合って、今じゃ普通にダチになってつるんでる。今じゃ、たまに差し入れとかくれてさ。色々と良くしてくれる良い人だよ」
「あとついでに言うと、エロくはないから安心していいぞ」
「いや、お前は横から何だよ。その情報はいらねぇよ」
住む場所に困っていたその男が訳アリのアパートを使っているのも、C区画で顔が効く八史が色々と手を貸していたからだった。八史は白渡という男をかなり気に入っているらしい。
「え、何? セーちゃん大丈夫なの? っつーか火事って。一体何やったのよ?」
「それが気になった事の二つ目っす。どうやら原因は、部屋の中で花火をあげていた事らしくて」
「は? 花火?」
原因は判明したが、八史は全く納得していない。彼の知る限り、白渡は花火で遊ぶタイプではない。まして、室内でするとも思えなかった。何者かに嵌められたと考えるのが自然だが—―。
「誰かにやられたって事? ……まぁいいや。で、シゲの話にはまだ続きがあんだろ?」
「はい。問題はその花火です。それが……通行人の証言に、部屋が七色に光って爆発しているように見えたってのがありまして」
「………………ははーん」
「心当たりありませんか、やっさん? それに皆さんも」
繁の言いたいことが少しずつ分かってきた。ここまで聞いて、リライズの殆どが同じ考えに至っている。倉庫内はまたざわつき始めていた。
この事件はリライズを狙って起きたものだ。白渡誠一が狙われたというよりは、あのアパートがリライズに関係している理由で標的になった可能性が高い。多くの者がそう考える。
花火、爆発、七色。これらの単語を列挙した時、彼らの中で導かれた答えは一つだけだった。
「アイツがこの島に居ると言いたい?」
「はい。その可能性が高いっす」
繁はまだ断定していないが、状況的にほぼ間違いなかった。
リライズが—―——C区画が喧嘩を売られていると。
そして、皆が共通して、ある男と、その男を中心としたある集団の事を思い浮かべていた。
繁は壇上から発する。この事件を起こしたと思しき、ある男の名だった。
「黒子幹弥。……『仕掛人』が舞識島にいます』




