2.3.3
リライズは、身のどこかに赤色を含ませるというルールを守れば、基本的に着る服は自由だ。ただ、円卓にいる面々の中に、特に個性の強い服装の者が二人居た。
一人は、ラナと呼ばれている、白と赤のチャイナドレスを着た褐色肌の女性になる。
薄い金髪を三つ編みに結っており、その髪色と肌色、顔立ちからして明らかに外国人なのだが、日本語は上手に話せている。外見と内面の統一感がまるでない、正体不明の謎な人物だった。
ある時にふらっと現れて意気投合し、気付けば仲間になっているのだが、メンバーが分かっている事と言えば、名前がラナである事と、ヌンチャクの達人である事だけだ。
彼女のヌンチャクは、ピンク色で、左右にはクマとウサギの可愛らしい絵が入っているのだが、そんな見た目でも武器としてはしっかり機能する。テンションが上がると振り回す事があり、そういう無邪気な言動が目立つが、少女と呼べる背格好でもないため、本当に謎の多い女だった。
そして、特徴的なもう一人が、赤黒いゴシック系の衣装を着た女性——倉科紗雪だ。
チームの古株の一人で、主に裏方役になる。ゴシック衣装を着ているのは彼女の趣味で、それに合わせて髪もピンク色に染めており、夏だろうが冬だろうがいつもその姿だった。
リライズにいる女性は、このラナと紗雪の二人だけだ。しかし、二人の仲はあまり良くない。というよりも、紗雪がラナに対して妙な対抗意識を持っているだけなのだが—―。
「ラナは皆でやる事なら何でも楽しいけど、できれば身体動かす事がいいなー。ラナ外出たい!」
「『いいなー』じゃないわよ。だから具体的な案を出せってのよ! ……ったく、アンタはいつもいつもッ! ちょっと顔が可愛いからってちやほやされて……何だってのよ! キィィィ!」
「えッ、ラナ可愛い? わぁ、ありがとう嬉しい! でもユッキーも可愛いよ。ラナ好きー!」
「だからそういうとこだってのよ! あとヌンチャク振り回しながらこっちに来るなッー!」
この通り、紗雪本人はラナを嫌いと言うが、二人のやり取りを見る限り十分仲が良さそうに見えるため、放っておいても問題はないだろうと仲間たちには思われている。
「おいおーい、ボスが話してるぞー。俺のチームだろ? 声聞こえてるー? ねぇ聞いてー」
円卓の会話が盛り上がっている一方で、ステージ上の八史はスコップを頭の上で振り回していた。あまりの手持ち無沙汰にかなり苛立っている。壇上の騒がしさに、円卓の一人がようやく気付いた。
「どうしたのやっさん。ゴメンゴメン、全然気付かなかった」
「気付かなかったってお前ら……。君たち反省しなさいよ。俺はもう少しで泣きそうだ」
「あと、俺たち今後の事で大事な話してるからよ。悪いけど今やっさんに構ってる場合じゃ――」
「いや、その話に俺を混ぜろっての。……っつーかよぉ……」
八史はそこで一瞬口籠ると、再び倉庫全体を見回した。
「なんか……チームの人数増えてる気がすんだけど、気のせい……?」
円卓に居るのは相変わらずの面子で問題ないのだが、それ以外にちらほら知らない顔がいた。
「気のせいじゃないな。間違いなく増えてる」
「だよな。……。いやダメだ。危うく納得するとこだった。え、何で? 何が起きてんのコレ? 仲間が勝手に増えてる……普通に怖ぇんだけど。バグるのはゲームだけで十分だぞ?」
「それはねぇから安心してくれよな……。ほら、ウチって基本的に『来る者は拒まず』だろ? それでどんどん引き込んでるわけだが、ここ最近はそれが多かったって話だよ。まぁ、問題起こす奴は当然追い出すけど……。ってか、コレ昔やっさんが決めた事だぞ?」
「そうだっけか? ……全然覚えてねぇ。クソ忘れちまったけど……ふーんなんだー! そういう事ならアリだな! じゃあ向こうに居るアレも新入りか?」
八史が倉庫の隅に居る二人組の男をスコップで差す。特に片方は特徴がありすぎる格好だった。
「あー、長老の事?」
「は? 長老?」
「うん。あの二人は最近入ってきた新入りでよ。髭モサモサの変な奴は『長老』って呼んでる」
話題に出たその男は、真っ黒のローブを身に包んでおり、首より上——口周りから顎にかけての髭がとても長く、更にはサングラスとフードを被っていた。手には杖も握られており、かなり変わった為りをしている。その立ち姿から、皆に『長老』とあだ名をつけられたらしい。顔が見えないが、そこまで歳をとっているようにも見えない謎の男だった。
その長老が、自分たちに話が振られている事に気付くと、杖を手首に下げて、急に腕を振り回し始めた。何かをジェスチャーで伝えているように見えるが、その動きに全く意味がなさそうな事は皆が理解している。しかし、長老は黙ったままとにかく大仰に全身を動かしていた。
そして、長老がひとしきり動き終えたところで、隣に立つポロシャツの地味な男が口を開いた。
「『変なのとは失礼な』と仰っています」
「なんか隣の奴が急に通訳始めてんだけど……。アレは何よ?」
「何って、やっさんの言う通り通訳だ。長老の補佐役だな。皆はタスケって呼んでる」
「……それは……補佐してるから『タスケ』なの?」
「いや、名前がそうみたいだぞ。一応本人からの自己申告があってさ。な? タスケ」
「はい、名乗り遅れましたが、タスケと言います。趣味は将棋です。宜しくお願い致します」
「濃いよ濃いよ! え、何? 俺の知らねぇとこですげぇ面白いの増えてんじゃん!」
それから暫くは長老たちの話で倉庫は盛り上がった。その間も長老は全く声を発さず、頑なにジェスチャーで会話を続けていた。その通訳をタスケが淡々とこなしている。チームに入ってまだ日も浅いが、早くもタスケが苦労人である事を皆が理解し始めていた。ちなみに長老とタスケの関係も謎で、本人たちがあまり話そうとはしないため、誰も深く聞けずにいる。




