2.3.1
【三章 赤の再起】
一大都市へと発展する舞識島だが、その治安はお世辞にも『良い』とは言い難い。しかし、これでも昔に比べればかなりマシになった方と言える。数年前は、今以上に酷い有様だった。
その主な原因は、島内に蔓延る不良たちの争いにある。
ただ単に喧嘩が好きなのか、己の力を誇示したいだけなのか。彼らは徒党を組んでは縄張り争いにその身を投じる。そんな不良たちの争いは、舞識島の歴史上に常に存在していた。
中でも、『区画抗争』と呼ばれる争いがあった頃は、舞識島史上最も荒れていた時期になる。
別区画同士の不良チームが争う事自体は、別に珍しい事ではない。ただ、それが島全体を巻き込む規模にまで発展したのは、後にも先にもこの時期だけだった。
警察組織も大体的に介入し、この抗争はまさに凄惨を極めていた。そして、この一件を境にして、不良チームの大半は再起不能になり、そのまま解散・空中分解していった。
それから数年。現在の舞識島は、新たなチームの結成がまた少しずつ起きてはいるものの、かつて程の規模には至っておらず、一先ずは平和な時が流れていた。
しかし、区画抗争の傷跡は未だに残っている。
その傷跡の一つ。
抗争を生き残った『島内最強』と謡われる不良チームは、現在、C区画に存在し――
そのトップに立つ男もまた『島内最強』と呼ばれていた。
◇ ◇ ◇
九月二十六日 十時半 舞識島C区画 ゲームセンタ―『セレクター』
島を環状に繋ぐ『中央通り』は、片側五車線の車道と、広い歩道からなる大通りだ。
舞識島の街は、基本的にその通りを中心に広がっており、中央通り付近はどの区画も大きい建物が並んでいる。よって、中央通り一帯は人口の密集地になる為、必然的にトラブルが多い傾向にあった。特にC区画は娯楽施設が多い事もあって、それがより顕著に表れる。その為、C区画は治安が悪い印象が強かった。事実、喧嘩沙汰が多いのだが、今は昔ほど酷くは荒れていない。
そうなった理由には警察組織の働きや、島の運営整備が行われた事などがあるのだが、最も大きい要因は、島内最強と噂されるある不良チームがC区画に根付いているという事にあった。
最も力のあるチームがC区画にいる。その方が不良たちには分かりやすかったのだろう。
『リライズ』
C区画で端を発したそのチームは、区画抗争当時から名を上げ、その後も島に残り続けていた。
それからも、事あるごとに他チームと争いを起こすが、その全てで勝利を上げていき、気付け、ば『島内最強』の名を得るまでに成長。C区画を代表する顔役とも言えるチームになっていた。
治安維持に不良チームが貢献しているというのは皮肉な話だが、リライズの存在がC区画、ひいては舞識島全体に影響を与えているのは間違いなく、それは決して小さくなかった。
ただ、当の本人達には全くその意識がない。それ以前に、不良チームとは言うものの、それに見合う殺伐とした雰囲気があるかというと、そんな事もまるでなかった。
要するに、リライズとは、不良としては風変りで、あまり『らしくない』チームなのである。
そんなチームのメンバーたちが普段集まっている場所がある。
ゲームセンター『セレクター』。中央通りを外れた小通りに建つ店だ。そこはレトロゲームを主とする個人経営のゲームセンターだった。
一般的なコンビニくらいの広さがあり、中は半分以上がレトロゲームの筐体で埋め尽くされていた。残りのスペースには、家庭用、携帯用のレトロゲームのソフトが棚に並べられている。ソフトの販売も一応行ってはいるが、ゲームセンターとしての売り上げが主の店だった。
舞識島にゲームセンターは沢山あるが、レトロのみを扱っているのは此処だけであり、その特異性と、独特の雰囲気が一部のマニアに需要を生んでいた。
店の奥はスタッフルームとなっており、その更に奥には倉庫がある。倉庫用の別の建物が店舗と繋がっており、スペースの都合で使われていない筐体や、雑多な小道具が保管されていた。広さは店とほぼ同じで、薄暗い明かりを放つ電球がまばらに設置されている。
そして、午前十時半の現在。この倉庫に、リライズ達は集まっていた。人数にして三十人程か。倉庫が埋め尽くされる程ではないがかなりの人数が居る。
彼らが此処を溜り場に出来ているのは、リライズのリーダーが店主と馴染みがあるからだ。店主も店に厄介な客を寄せ付けない用心棒として、彼らを利用していた。
倉庫の最奥には、木箱を並べて作った壇上がある。手前にはスタンドライトがあり、薄暗い倉庫内でそこだけはちょっとしたステージのようになっていた。
壇上には二体の筐体が向かい合わせで置かれていた。一昔前に流行った格闘ゲームで、今は電源が付いているのは一機だけだ。もう片方は電源が落ちており、故障中の張り紙が張られている。
そして、電源が付いている側の筐体の前には、プレイング用の椅子とは別にソファが置かれていた。そこで一人の男が横になっている。
全身が真っ赤なジャージで、額に黒いバンダナを巻いた、真っ赤な髪の青年だった。
二十代前半くらいの若さで、身体は一見すると細身だが、腕や足、太もものラインは引き締まっていて、しっかりと筋肉がついていた。
頭が赤で、服装も赤。とにかく赤色の印象が強い。周囲の者達も、赤色のスカーフ、赤色のペイント、赤色のシャツなど身のどこかに赤を含んでいる。赤色がこのチームを象徴する色だった。
その中でも特に赤色の強いその男は、ソファで横になりながら古い携帯ゲームで遊んでいた。
何かのRPGをプレイしており、ゲーム機からは戦闘中なのか激しいBGMが流れている。
画面にはドット絵でスライム状のモンスターが映っており、右上にある敵側の体力ゲージはほぼ満タンだった。対して、自分の体力ゲージは残り僅か。それも次の攻撃で『0』となってしまう。
画面が暗転し、『GAME OVER』の文字が徐々に浮かび上がってくる。しかし、それが完全に現れる前に、赤髪の男は電源を落とした。
「……つまらん」
赤髪の男、リライズリーダー—―日下部八史がソファから起き上がった。ソファの横には、何故か工業用のスコップが立て掛けてあり、八史はそれ引き寄せて再びソファに座った。
「クッソつまんねぇなクソッたれがよぉ! って今に始まった事じゃねぇか! アリかナシかで言うならナシ。俺マジで何やってんだって話だな!」
八史はジャージのポケットから小さいメモ帳を取り出すと、文句を垂れながら、攻略の為のメモを書き始める。その間もスコップはずっと腕の中にあった。




