2.prologue1.1
Act.2開幕です!宜しくお願いします。
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Act.2 START!
【プロローグⅠ】
月に照らされている。舞識島の中心付近は街明かりが灯っているが、その場所はただの暗闇だった。辺りに人の気配はなく、月明り以外の光はない。静かな夜だった。
そんな島の殆どが寝静まった真夜中の事。
その男は、そこにただ一人だった。
島のどこかにある雑居ビル。男は屋上で柵にもたれかかり、遠くに見える街明かりを眺めていた。
年齢は二十代前半か。ダークグリーンのジャケットを羽織っており、首にはバイク乗りのようなゴーグルを下げている。黒髪の下から覗く瞳は遠くの光を見ているようでいて、それとは別の全く違う何かを見ているようにも見えた。どこか寂しさを感じさせる雰囲気の青年だった。
そんな男の右手には線香花火が握られている。線香花火は静かに淡い光を放っていた。
男は視線を手元に移して、独り呟く。
「あーあ。また来ちゃったなぁ」
線香花火が小さく火花を散らす。パチパチと静かな音が辺りに響く。男はじっとその火球を見つめている。
「変わらないよな、本当に」
舞識島は、島の中心に近づく程街の規模が大きくなる。島全体の明かりも内側に寄る程強くなり、中心付近ともなると、真夜中であっても街明かりが消える事はない。
その眩い光に照らされる舞識島。だが、反対に天の光はかき消されていく。
街の光と天の光。どちらも変わらぬ光だが、一方が強くなれば、もう一方はその影に隠れてしまう。
「あぁ、本当に変わらない」
火花は次第に弱まっていき、その火球も小さくなる。ゆっくりと、しかし確実に花火は弱まっていく。男は再び街の方に視線を戻すと、薄く笑った。
「帰ってきたよ。ただいま舞識島」
線香花火はやがて消える。火球は暗闇へ溶けていった。柵から下を覗いても、そこにはもう何も残ってはいない。
「さぁ、ショーを始めようか。……『仕掛人』の—―僕が作る舞台を見せてやる」
屋上にはもう男の姿はなかった。
時は九月下旬。
肌寒さを感じ始める、もう九月も終わるかといった……そんなある晩の事だった。
◇ ◇ ◇
~都市伝説『エクス』の語り~
では、改めまして。……この度の事の顛末、その全てをお話すると致しましょう。
まず最初に言っておきますが、今回は、島の存在が脅かされるような大事件……といったものではありませんので、一先ずそこはご安心を。いや、貴方にとっては派手な方が嬉しいのかもしれませんが……まぁ、それはいいでしょう。
そういうわけで、私も今回は主に観客に徹していました。私のような者があまり動きすぎるのも良くないですしね。それに、私が動かずとも、舞台に立っていた役者の皆さんは魅力的に映っていましたよ。えぇ、少なくとも私にはね。
……と、前置きはここまでにしておきましょうか。それでは、どうか聞いてください。
A区画とC区画。その二つの顔役である勢力同士の衝突。その裏で暗躍していた一人の男。島内最強と謡われる不良集団と、かつて『仕掛人』と呼ばれていた方達の話。
そして、島の外からやって来た、ある女性についての事を。
事の始まりは……言うまでもないですよね。
もしかすると、一部の話は、貴方の方が詳しいかもしれませんし。
でも、まぁ。貴方はずっと蚊帳の外でしたからねぇ。
【プロローグⅠ】終




