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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 エピローグⅡ
73/97

1.epilogue2.1

【エピローグⅡ】


 俺は誰だ。俺は何者だ。

 今の俺は、五感を弄られる前の俺と本当に同じなんだろうか。

 持っている記憶は同じ筈。何の変りもない。

 なのに、何でだろう。何でこんなにも、昔の俺を他人事のように感じる?

 持っていた夢も、感じていた想いも……今の俺には他人事にしか思えない。


 やっぱり別人にでもなってしまったんだろうか。

 俺はただ……あの頃の自分に戻りたいだけなのに。

 



「手伝ってくれてありがとね、ウツロ君。本当に助かったよ。君はこの計画に反対だったのにね。でも、これで約束通り、君は自由だよ」


 グロースに協力すれば、俺の願いを一つだけ叶えてくれる。それが千尋さんとの約束だった。

 舞識島の裏で暗躍している組織——ナジロ機関。

 その組織が、舞識島を自分たちの都合にいいように操っている悪者なんだと教えられた。

 グロースの目的は、その組織を壊滅させ、人工島を解体し、霊水のある孤島を奪還する事らしい。


 正直、俺はグロースの計画に全く乗り気じゃなかった。

 千尋さんは命の恩人だ。俺に改造手術をした人だけど、あの人がそうしてくれたお陰で、今こうして俺は生きている。だから極力あの人の力になりたいとは思っていた。

 でも、俺は舞識島を破壊したい訳じゃない。あの人工島は、俺にとっては大事な場所なんだ。まぁ、そう思っていたのは昔の俺なんだけど……。


 ただ、そのナジロ機関って悪者を倒すって事なら、それについては協力しようと思った。

 悪者を倒すのは、俺がやらなきゃいけない事だからだ。


 かつての俺が夢見ていた――ヒーローという存在。


 何で俺がそんなものになりたがっていたのかは、今の俺には分からないけど、ヒーローになりたいと思っていたのは確かだった筈だ。

 そう、理由は分からないけど、夢があった事は覚えていた。そこで俺はある考えに至った。


 昔の俺が夢見ていた事、感じていた事を叶えれば、俺は元に戻れるんじゃないかと。夢を叶えれば、あの頃俺が抱いていた感情に近づけるんじゃないかと思った。


 根拠はない。確証もない。でも試す価値はある。俺は元の自分に戻りたいんだ。

 だから、俺は悪者を倒す事に決めた。ヒーローがなんなのかは分からないけど、悪者を倒すのはヒーローの役目だと思う。そして、それを為すには誰よりも強くなくてはならない。


 それから俺はグロースに協力することになり、三月に舞識島に渡ったんだ。

 組織の調査で、島の監視カメラの位置やその性能は大体分かっていた。カメラの動きも俺の目で捉えることが出来るし、その死角を移動する事は簡単だった。

 そして計画通り、俺は顔が割れているナジロ機関の構成員を殺す為に、舞識島内で動き続けた。

 実際に一人は殺したし、ナジロ機関の追跡も掻い潜る事が出来ていた。


 でも、ただ一つ誤算というか……想定外の事があった。

 俺の行動を先読みして、行く先々で待ち伏していた人が居たんだ。

 白渡誠一さん。今では俺の尊敬する人なんだけど。

 出会って最初の頃、俺は白渡さんと殺し合っていた。いや、違うな……殺そうとしていたのは俺だけだった。


 悪者は殺す。それを邪魔する者も殺す。だから、俺はヒーローとして、あの人を殺そうした。

 でも、そうして何度か相対しているうちに、俺は自分のやっている事は本当に正しいのか分からなくなっていった。


『ヒーロー』になる為には、何をすればいいのか。

 俺が夢見ていた『ヒーロー』ってやつは、こんなものなのかって。

 そんな事を考えていた時だった。白渡さんが、俺に話しかけてきてくれたんだ。


「お前さ、本当はこんな事したくねぇんだろ? 分かるぜなんとなく。そんな雰囲気がある。どうよ? こんな無意味な殺し合いやめてさ、一時休戦しね? ついでに良けりゃ話とか聞くけど」


 正直、急に何を言い出すんだろうとは思った。とても戦闘中に出てくるような言葉じゃなかった。

 でも、その時見たあの人の姿に、俺はどこか懐かしさを感じていた。


 そうだ……昔の俺に雰囲気が似ている気がしたんだ。俺が記憶の中で見ていた昔の俺に……。


 気付くと俺も攻撃の手を止めていて、彼の話し合いに応じていた。

 グロースの事とか、俺の正体は伏せつつ、何をしようとしているのかを大体話した。不思議な事に白渡さんと話している時は、気持ちが穏やかになって、スラスラと言葉が出てきたんだ。

 そうやってお互いに話し合っているうちに、俺は思った。


 ヒーローって多分こういう人の事を言うんじゃないかなって。


 相変わらずヒーローが何かはよく分からないけど、昔の俺が夢見ていたのはきっとこういう存在だと。この人を目指せば、俺は昔の俺に近づける気がした。

 それから白渡さんは俺の目標、尊敬する人になって、俺はあの人に会うたびに悩みを打ち明けるようになっていった。


「今と昔で自分が別人のように感じるか……なんかまた難しい話だな。そのお前の持っていた夢って奴を叶える他になんかないの? 例えばほら、なんか大事にしてたものとか、やりたい事とか。それがあるなら、一旦そっちに切り替えてみてもいいんじゃない?」


 大事にしていたもの……。俺が夢の他に大事にしていたもの……。

 ある。それは確かにある。


 俺の幼馴染二人。俺はあの二人に会いたい。特にそのうちの一人――幼馴染の女の子の事が、昔の俺は好きだったらしい。記憶の中で何度も見た。そして、今の俺もその子の事は好きだと思う。


 その幼馴染二人に会いたい。けど、それは俺が元の自分に戻った後が良いと思っていた。

 だが、確かに白渡さんの言う通り、一旦別の事を試してみてもいいかもしれない。

 俺はあいつらと同じように生活してみたいと思った。

 それから誠一さんとの会話の後、俺は千尋さんに電話をして、思い切ってある事を相談してみた。


「あれあれ、どうしたのウツロ君。相談事? うん……え、何? 舞識島の学校に行ってみたい?」


 流石の千尋さんも驚いていた。

 グロースに協力したら、願いを一つ叶えてくれるというご褒美。

 その願いを言ってみたんだけど……まぁ、我ながらかなり無茶を言っている自覚はあった。

 でも、千尋さんは嬉しそうに俺の話を聞いてくれて、何の問題もなくこれを了承してくれた。


 それから千尋さんは、諸々の手続きなどもすぐにやってくれて、俺はこの二学期から朝凪高校に通う事になったのだ。

 そして、九月一日の一件後、千尋さんは用意していたボートで、舞識島を去る直前に俺に言った。


「私たちは舞識島の外に逃げるけど、君は此処に残るんだよね。……うん、分かったよ。君はもう自由。私の命令はもう聞かなくていいからね。ただ、キミはこれからも私の観察対象だから。それだけは覚えておいて。それじゃあね~」


 それを最後に千尋さんから連絡が来ることはなくなり、俺は舞識島に一人残る事になった。ただ、住んでいるアパートや、金銭関係は引き続き援助してくれるようだった。本当に有難い。



 ただ、それにしてもだ。グロースのやり方は本当に気に入らなかった。

 俺を不死にして、ナジロ機関にぶつけるとか。あの計画を聞いた時は、ふざけんなって思った。

 不死になってたまるか。そんなんになったら、元の俺から益々かけ離れてしまうじゃないか。

 でも、俺も反省しないと……。怒りで頭に血が上っていたとは言え、ケースの取引現場であの人達を殺したのはやりすぎだった。千尋さんには『好きにしていい』とは言われてたけど。

 白渡さんと「もう人は殺さない」って約束してたのに……。


 今後、俺は大人しくしておこう。ナジロ機関についても暫くは様子見した方が良さそうだ。

 でも、まさかあの組織に彼女が居るとは思いもしなかった……。取引現場で最初に会った時はマジで驚いたな。かなり危ない組織だと思うけど、アイツ大丈夫かな……。

 まぁヤバくなったら、その時は俺が助ければいいか。


 ……ってな訳で、とりあえず! まずは学校の方頑張らなきゃな! 友達の作り方は白渡さんに教わったから良いとして、あいつらの前ではちゃんと昔の俺っぽく振舞わないと。

 あとアレだ。口調! 白渡さんにも何度か注意されてたし。……でも直らないんだよなぁ。


「そういやお前さ、たまに語尾が疑問形になるよな」とか言われてもな……。


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