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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 エピローグⅠ
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1.epilogue1.1

【エピローグⅠ】


『皆さんは、不死薬の完成品を『青』だの『赤』だの色で区別していたようですが……果たしてそれは本当に正しかったのでしょうか? ……というわけで、ここからは種明かしです! 覚えてますかね~。貴方がグロースに入った後の事を。集会に来た翌日から共に行動する事になった貴方は、そんな状況でも、半年前に盗んだ不完全品を常に持っていましたね。活動中でも、睡眠中でも。お陰で隙はいくらでもありましたよ。実は、蒼麻先輩の作った完成品を一つだけコピーして隠し持ってたんですけど~……その色だけを変えて、貴方の薬とすり替えたんです。まぁ、液体の色なんて合成着色料で簡単に変えられますからねぇ~。……そういう訳で、貴方が飲んだのは完成品の不死薬だったわけです。寿命を消費する事のない完全な不死。思惑通りに貴方はそうなってくれましたし、私もウツロ君の良いデータが取れました。ありがとうございます! それではまたどこかでお会いしましょう。さようなら~英二さん』


 九月一日の一件後。俺のスマホに妙なメールが届いた。

 アドレスはデタラメで、差出人は不明だったが……まぁ間違いなくあの女からだろう。

 俺が銃弾に倒れた後、千条達は煙幕を巻いてあの場から逃げ去ったらしい。こうなる事を見越していたのか、予め用意していたという脱出艇で島からは離れたようだった。

 そして、俺はというと……気を失っている間にナジロ機関の銀髪女に拘束されていて、気が付くとなんだか良くわからない閉鎖的な空間で椅子に縛りつけられていた。

 その銀髪女……確かミリアムとか言ったか。俺はその女にグロースについて知っている全てを話した。側近の男から、漫画やドラマでしか見ないような……いや、それ以上の拷問を受けながら。

 どんな事をされても俺は死なない。だから死を前提とした拷問だろうと容赦なくその苦痛を与えられた。不死の性能を確かめる実験の意味もあっただろう。死んでは生き返るというループを何度も繰り返した。気がおかしくなりそうだったが、これは俺の犯した罪のケジメなんだと自分に言い聞かせて、俺はこの拷問に必死に耐え続けた。そう受け入れるしかなかった……。

 それから俺は、縛りつけられたままおよそ三日間放置され――そして今、ミリアムは、俺の私物の中からスマホを調べたのか、さっきのメールの事を知らせてきたんだ。


「結局あの男が望んだ通りになったか……。不本意だけど、こうなってはもう仕方ないわね」


 何だ……何考えてるこの女。千条とは違う意味で怖い。俺はこれからどうなるんだ……?

 俺の身体は完全な不死身になっているらしいが、老化が止まったわけじゃない。

 もしかして、俺はここのまま一生此処に……。


「改めて言いますが、私は霊水の解析、技術の発展を阻止したい別派閥の人間です。なので、その手掛かりになり得る、不死となった貴方をナジロ機関から隠し通さなければなりません。此処はまだ組織に勘付かれていないので、今のまま縛り付けておきたかったのですが……恐らくそれも時間の問題でしょう。よって、別の方法を取る事にしました」

「べ、別の方法……?」

「えぇ。貴方には、私の監視下で一般人として生活してもらいます。無理に隠蔽するより、このまま一般人に紛れさせた方が良いと判断しました。ある程度の自由を与えます。ただし、島の外には出られないと思ってください。……あと当然ですが、私たちの事や自分の置かれている状況を口外する事があれば……まぁ、どうなるかは言わなくても分かりますね?」


 瞬間——脳裏にこれまで受けてきた拷問が過った。俺はそのショックで吐きそうになりながら、勢いよく首を縦に振る。

 自由を与えるとは言われたが、正直生きた心地はしなかった。不死身なのにな……。

 いや、でもまさか……こんな事になるとは思いもしなかった。

 ミリアムはその発言通りに、俺の拘束を側近に解きかせ、更に俺の私物まで返してきた。それからミリアムらは部屋を去ろうとしたが、ドアノブに手をかけた時、振り返り際にこう言った。


「最後に一つだけ。あの時、貴方が動いてくれたお陰で律の命は助かった。それについては礼を言います」



「ありがとう、近藤英二(こんどうえいじ)さん」



 ◇   ◇   ◇


 こうして俺の九月一日は終わった。俺はあの日を乗り越えたんだ。

 いや、結局何もしなくても俺の命は助かっていたんだから……乗り越えたっていうのとはちょっと違うか。でも、色んな奴に助けてもらったな。鉄板焼き屋の店主とか、悠介とか、白渡とか……。

 そうだ。今、俺がこの日を迎えられているのは俺の力じゃない。俺だけの力じゃない。

じゃあ俺は何も変わってないんだろうか? これまでと同じ『俺』なんだろうか?

 それはきっと……そうなんだろうけど、違うとも言える気がする。

 不死身だろうが、そうじゃなかろうが—―死を覚悟した最後のあの時、俺は確かに走ったんだ。

 あれは今までの俺だったら出来なかった事だと思う。

 俺があの時走れたのは……全部失うと思った最後の足掻きっていうか……ヤケクソって言うとかっこ悪いけど、きっとそういう事なんだよな。

 要は、心も持ちようなんて、きっかけがあれば一日で変わるもんなんだなって、今の俺は思う。

 自分が脇役とか、そんなもん俺が勝手に決めつけていただけの枠組みだった。多分、誰も彼も最後まで自分以外の何にもなれない。

 人生の最期が来ても、何になれたかなんてその答えは出ないんだ。実際に俺がそうだった。そうだ、経験者は語る。

 だから何だっていいんだよな。俺は何だっていい。だって――

 俺は、俺にしかなれないんだから。


「さてと、これからどうするかな」


 自由の身となった俺が最初にやる事。やらなきゃいけない事はたくさんある。悠介に会って礼をしなきゃいけないし、報酬払わなきゃな……。あと、店主と白渡にも会ってちゃんと礼を言いたい。

 でも、俺がまず向かうべきはやっぱりあそこ――生き延びたら行こうと決めていたあの店、あの子との約束を果たさなきゃいけない。


「いらっしゃいませー!」


 喫茶店『すずのね』。

 鈴の音と共に入店した俺に最初に駆け寄ってきたのは、あの日俺を助けてくれた女の子だった。


「あっ、この前会ったおじさん! 約束通り来てくれたんだね」


 悪気がないのは分かるんだけど……やっぱおじさんなんだな、俺は……。

 若干のショックを受けつつも、俺は店に来る前から決めていた事を口にする。


「あぁ。コーヒーを飲みにちょっと。……後もう一つ用があってさ。この前人手が足りないって言ってたよね?」

「うん。今もとっても忙しいよ」


 俺が最初にやらなきゃいけない事は果たした。だから、この次にやらなきゃいけないのは—―。


「急なんだけどさ……良ければ、その……俺をここで働かせてもらえないかな?」


 そうだ、まずは仕事を探さなきゃな。

 ま、そんなこんなで不安は多くあるけど……俺はこの島でなんとかやっていく事を決めた。

 俺——近藤英二の舞識島生活はここから幕を開けるんだ。


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