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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 七章 演目【九月一日】 (後編)
66/78

1.7.9

 ◇   ◇   ◇

 三十分前 C区画 イベントホール付近


 とりあえずここまでは来た。ここまで来たのは良いが、どうする? グロースのアジトは確かC区画のイベントホール。散々計画の事を聞かされたからな。九十九達は多分そこに居る筈だ。

 ケースを見失った上に残り時間もない以上、俺の寿命を元に戻す手段が他にあるのか、アジトに行って確かめるしかない。無ければそれまでだけど……。だが、どうする。

 真正面から行っても殺されるのは目に見えてる。万が一にも話を聞いてもらえるとは思えないし。クソッ、やっぱりこの状況はかなりキツいな……。こうなりゃもう一か八か—―。


「ちょっと待ちな」


 動き出そうとしたその瞬間、突然後方から俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。男の声だ。周りには人もいないし、明らかに俺に向けられたものだった。

 まさかグロースに見つかったのか……? 俺は恐る恐る後ろを振り返った。そこに居たのは—―。


「よぉ、広場で会ったよな。いや、半年前にはもう会ってたんだっけ。なぁ? エイジさん」

「お、お前ッ、何でここに⁉」


 そこに居たのはキャップ棒を被った白髪の……あの男だった。何でコイツがここに……。


「広場の時は気付けなくて悪かったな。あの後色々あってよ。アンタの事なら大体知ってるぜ。何をやったのかも、今置かれてる状況も」

「知ってるって……。っていうかお前何しに……」

「まぁその辺の細かい事はいいんだ。時間がないんだろ。っつーわけで手短にいくぞ」


 突然現れたかと思えばこの男は一体何を言っているのだろうか。相変わらず滅茶苦茶で訳が分からないが……俺に時間がないことを知ってるコイツは本当に状況を解っている様子だった。

 とりあえず俺は耳を貸すことにした。そして、奴はポケットの中からあるモノを取り出した。


「アンタの探しものならここにある。不死薬の完成品。これをアンタにやってもいい」


 俺の目の前で赤い液体の入った小瓶を見せつけてきた。その瞬間、俺の全身から力が抜け—―次に電気が走ったような感覚が襲った。


「ッ⁉ ちょ、ちょっと待て! 何でそれがここに⁉ ケースはどうした? いや、そんな事今はいい。くれるのか⁉ やってもいいって言ったよな⁉」

 興奮で頭の中が真っ白になりそうだった。今すぐにでも助かりたい。救われたい。そんな衝動がこみ上げてきて、俺は薬に手を伸ばした。だが、白渡は俺の手を振り払い、一歩後ろに下がった。


「待てよ。まず話を聞け。薬をやるとは言ったが今渡すわけにはいかねぇ。こっちにもやらなきゃいけない用があってな。その用が済んだ後なら薬をやってもいいって話だ。それまでは待ってくれ」

「は? なんだそれ。俺には時間がないんだ! 目の前に薬があるのにそんなの待てるわけが—―」

「いいや、助かりたいなら待ってくれ。アンタは俺の話に乗る以外選択肢がない筈だ。……おっと、俺から奪い取ろうとか考えてるならやめとけよ? 返り討ちにするし、その時点でアンタは死ぬ」

「…………」


 この男の実力は半年前に目の当たりにしている。当然俺が敵う筈もないし、主導権はこいつにある。言う通りに従うしかない。でも、今助かる手段がここにあるのに待てだと? そんな……。

「これはアンタにとっての罰でもある。この島に薬を持ってきた事。その経緯はどうあれそんな身体になっちまったのは自業自得って奴だ。それはアンタが一番分ってるんじゃないか?」


 ……。確かにそうだ。俺の自業自得。その気になれば引き返す道なんていくらでもあった筈だった。でも俺は抗うことをしなかった。覚悟も勇気もなく、ただ状況に流されてこうなったんだから。


「本当に全部知ってるらしいな……。でも、それでも……俺は—―」

「まぁそう暗い顔すんなって。助けないとは言ってないだろ? それに俺の雇い主は言ってたよ。アンタがこの島に何をしたのか全部分かってる。それでも助けたいってな」

「……え」

「俺はそいつに言われて来たんだ。舞識島に来てからのアンタをずっと見ていた奴から。……エクスって知ってるか? どうやら奴から見たアンタはただの脇役じゃなかったみたいだぜ?」

 何言ってんだコイツ。……見ていたって……。は? エクス?

「ここで終わるか、先に繋げるか。繋げたいなら俺はアンタの力になるよ。アンタのストーリーに『流れ』を作る。ハッピーエンドに向かう流れをな。さぁどうする? この流れに乗るか?」


 ……。コイツがさっきから何を言っているのかは正直良くわかってないけど……コイツは多分、今俺に必要なものを与えようとしてるんだ。それだけは分かる。

 流れ。そうそれだ。今はごちゃごちゃ考えてる時じゃない。

 目的に向かって突っ走る事。そこへ向かう為の勢いとか、ノリとか……流れってやつが。

 だから迷うな俺。今コイツはそれを俺に持ってきてくれている。これが最期かもしれないんだ。

 ならやってやろう。やるしかない。勢いに身を任せるって奴を—―。


「なんだよ、訊くまでもなかったか。アンタ今良い顔してるぜ。……よし! じゃあ三十分後にホールに来てくれ。多分あそこに居る連中は全員アンタの敵だろうけどな……。そこから先が俺たちの勝負だ。遅れるなよ?」


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