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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 一章 表
6/78

1.1.2

 舞識島が注目されている理由の一つに、『島の構造』がある。

 人工島の陸地となっている海上浮体式の巨大構造物――メガフロート。

 その仕組みは、従来の技術とは根本的に異なっており、グランミクスが開発したという特殊なエンジンによって、メガフロートそのものを浮上させる機構になっている。更には、どれだけ重量のある建築物を建てようと海上で一定の高さを保てるという最新技術も取り入れられていた。

 このメガフロートが改造前の孤島を環状に取り囲んで支えており、こうして補強することで島全体の沈降を防いでいるのだ。つまり、ドーナツ形状のメガフロートの中心に、天然の孤島が存在しているというのが舞識島の全体図になる。

 また、島中心の孤島部は『中枢区』と名付けられており、そこには島全体のシステム管制を行う巨大なドームが建てられていた。位置的にも機能的にも、文字通り島の中枢を担う区画になる。

中枢区にはそうした重要施設がある為、一般人の立ち入りは禁じられていた。

 よって、島民の生活圏は中枢区を取り囲むメガフロート上になる。

 メガフロートの増設工事は年々行われていて、島の面積が拡大すると共に街も大きく発展し、それに併せて人口も増加していた。島の街並みも規模も、本州の都市部に決して劣ってはいない。

 そんな島に栄える街はA、B、Cの三つの区画に分割されている。

 その一つ――A区画と呼ばれる一帯は島内で最も人口が多く、住宅街の規模が島内最大という事もあるが、ショッピングモールや商店街など、島民が利用する施設が多くある事も影響していた。


「ファ~、眠い……」


 A区画のメインストリートになる中央通り。A区画で最も大きな通りの歩道を、眠たげな表情で歩く制服姿の少年がいた。

 少年の名は、如月慎(きさらぎしん)。A区画の私立高校――朝凪(あさなぎ)高校に通う一年生だ。

 朝陽の眩しさに気だるそうな表情をしているが、気が重い理由はそれだけではなかった。

 九月一日。この日は高校の二学期が始まる日。

 つまり、昨日までが夏休みで、今日が連休明け最初の登校日であった。

 通りには慎と同じ制服を着た生徒が何人か見え、終わった夏休みを名残惜しそうにしていた。

 基本的にインドア派の慎は、この夏休みの間はまともに外に出ていない。

 外出が嫌いというわけではないが、自室でネットサーフィンを楽しんだり、趣味に時間を割いたりしていた日々は、彼にとってはそれなりに充実していたのだ。

 だが、それも昨日までの話。今はただ早く家に帰りたい想いで一杯だった。

 とはいえ、今日は始業式とホームルームのみで、昼前には下校になる為、気分は少しだけ軽い。


「そういえば、今朝見た夢……。懐かしかったな」


 慎は今朝方まで見ていた夢のことを思い出していた。朧気だがその内容は薄らと覚えている。

 それは子供の頃仲の良かった二人の友人――いわゆる幼馴染との思い出だった。

 友人の一人は、柳和馬(やなぎかずま)


 明るく活発で、困っている人を見ると放っておけない。人助けが趣味という気の良い少年だった。

『困っている人は誰でも助ける』を有言実行する――絵に描いたようなヒーローを地で行く奴で、とにかく行動力に溢れていた。慎もよく助けてもらった事がある。

 そして、もう一人の友人が、成瀬律(なるせりつ)という少女だった。

 彼女は慎に似て物静かであり、読書をしているのが似合うクールな女の子だった。良く話す方ではないが、別に人が嫌いというわけではない。そんな子だ。

 三人が仲良くなったきっかけは、小学校のクラスが同じになることが多かったことだった。

 彼らは何をするにも一緒で、そのリーダーは和馬だった。和馬の一言で皆が動き、和馬が動けばその後ろを付いて行く。三人で過ごす時間は、慎の中では良い思い出になっていた。

 慎も律も、自分たちのリーダーは和馬と認め、彼の後ろを付いていくのが当たり前であり、これからもそれは続くと思っていた。だが……その日々はある時期を境に終わりを迎えた。

 五年前に、和馬の引っ越しが決まったのだ。父親の仕事の都合による本州への引っ越しという話だった。和馬が島を離れるその日まで二人とも笑顔だったが、別れの時はやはり悲しかった。

 島を去る最後、和馬は「いつかまた会おう!」と言い残し、二人のリーダーは居なくなったのだ。


「そうか、もうあれから五年も経つんだよな」


 慎は僅かに表情を曇らせる。

 その『五年』という年月には、親友が去った期間以上に別の意味があったからだ。

 和馬が島を去ってから二ヶ月程経った頃だった。律が、慎を無視するようになったのだ。

 それは慎に限ったことではなく、律と仲が良かった他の友達にも同様だった。

 和馬が去った後、遊ぶことは少なくなったが、彼女とは暫く普通に会話ができていた。

 だが、それからすぐに何故か態度が急変して、彼女は自ら孤立するようになっていったのだ。

 誰が話しかけても無視するような態度を取り、そんな彼女の様子は和馬と慎が出会った頃以上に孤立していて、他者を寄せ付けないオーラを纏っていた。

 一体何故こんなことになっているのか? 問題なのは、その理由を律が話さないことだった。

 彼女も同じ高校に進学しており、更にはクラスメイトな訳なのだが、二人は何も話すことはなく、慎も原因を追究できないまま疎遠な関係が続いている。


「あの頃は楽しかったのに……。成瀬さんともまた昔みたいに話せたらいいんだけど」


 また昔みたいに楽しく話せる関係に戻りたい。

 だが、五年経っても何も変わらなかったのに、今更元に戻れるのだろうか。


「まぁ、それも仕方のない事か」


 どこか悟ったような物言いで慎は空を見上げる。今日の空はきれいに澄んだ青空だった。


「こういう時、和馬ならどうするんだろう……」


 この島にいない者の名を口にし、それに縋るように慎は何も出来ずにいた。


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