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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 六章 演目【九月一日】 (前編)
52/79

1.6.14

 ◇   ◇   ◇

 同時刻 A区画 喫茶店『すずのね』


「で、悠介。お前は今まで何やってたんだ? サボりか?」


 バス停広場での騒動が治まり、便利屋の面々は喫茶店『すずのね』を訪れていた。

 騒動の元凶になっていた集団をはじめ、多くの人物があの場にいたが、最終的には全員が散り散りになり、便利屋以外の行方は分からない状況だ。ただ、目的のケースだけは回収出来ている。

 とりあえず、何故か現場にいた悠介を捕まえ、喜代が引きずるように店まで連れてきていた。


「……クソォ。いつもいつもボコスカ殴りやがって。サンドバッグじゃねぇんだぞコノヤロー」

「いいから質問に答えてくれよ。さもないと……」


 喜代はいつもの席に座ってコーヒーを啜りながら、出来るだけ平静を装って問い詰めた。


「俺の立場弱すぎる……。言っとくけどサボりじゃないからな。俺だって仕事してたんだ」

「ん? どういうことです?」


 悠介は、あの騒動に至るまでの自分の事を説明した。主に、昼間に会ったエイジという男の事。その彼から用心棒を依頼され、共に行動していた事など全てを話した。


「事情は分かりました。……それにしても、悠介さんが僕らの探し人にもう会ってたなんて」


 光秋の方も、悠介のいなかったこの一日の間に事務所で何があったのかを説明した。

 今となっては仕方ない事だが、まさか便利屋の内部で、探す側とそれを守る側で二分化されていたなんて事を、光秋は思いもしなかった。


「しょうがないじゃん。俺だってお前らの事情なんて知らなかったんだから」

「……当たり前みたいに言ってるけど、そのスタンスはおかしいからな?」


 いつもスマホの着信を悉く無視している悠介に反論する余地などなかった。


「まぁまぁ。とりあえずケースの方はこうして回収できたからいいですよ。……それにしてもエイジさんでしたか? あの集団に追われてるようですが、何をやったんです?」

「さぁな。詳しい事は知らねぇ。なんか変な組織の計画を手伝わされて、嵌められたとか言ってたな。本人はそれに手を貸すつもりなんてなかったんだとよ」

「……組織? それに計画ですか。なんだかきな臭くなってきましたね。……やっぱりこの依頼何か変だな。僕らに見えてない事がまだある気がする」


 もともとこの依頼に不信感を抱いていた光秋は、その考えをより一層強めた。


 ――やっぱり千条さんにもう一度詳しい話を聞くべきだな。


 光秋がそんな事を考えている横で、悠介がふとある事を思い出し、口を開いた。


「あーそうだ。そういえばアイツ、ちょっと気になる事言っててさ。……なんか……ナジロがどうこうって」


 喜代だけでなく、春乃と光秋までも身体を震わせ、同時に反応を示す。


「おい、お前それってまさか……!」


 ナジロ。その単語から、便利屋全員がある組織を連想した。そして、丁度その時だった。


「ここに居たんですね。探しましたよ」


 すずのねの入り口から、二人の男女が店内に入ってくる。スーツ姿の男女だった。

 その一人の女性は、銀髪と蒼眼を持つ特徴的な外国人であり、付き人らしき男を引き連れ、店内にいる便利屋の近くまでやってきた。


「お久しぶりです。便利屋の皆さん」

「お、お前はッ!」


 便利屋の顔見知りであるその女性に、喜代は席を立ちあがって声を上げる。

 銀髪の女性――ミリアム・ハーネットが印象よく挨拶するが、便利屋の雰囲気はどこか重い。


「……何しに来た?」

「相変わらずね藤野さん。なに、ちょっと貴女達に用がありまして」

「こっちにはないんだよ。帰れ」


 店内にいる人々の注目が、便利屋の席に集まる。

 スーツ姿の二人が何者なのか、便利屋とはどういった関係なのか、他の人間には知る由もなかったが、ただならぬ空気が店内に生まれていた。

 そんな険悪な空気の二人に、弱々しい少女の声がかけられる。


「あ、あのぉ……」


 喜代とミリアムが目を向けると、そこには大きな買い物バッグを持った店主の娘――日野ゆかりの姿があった。

 どうやらミリアム達が店に入ったすぐ後に買い物から帰ってきたようだった。


「えっと、お姉さんは誰ですか? ……ししょーと仲が悪いの? もしかして喧嘩ですか……?」


 涙目になって、不安そうな表情になるゆかり。

 その少女にミリアムは歩み寄り、同じ目線まで屈んで優しく話しかけた。


「不安にさせてごめんね。でも大丈夫。私達はね、別に喧嘩してる訳じゃないのよ?」

「……ホント?」

「うん。私は便利屋さん達の……そうね、お仕事の知り合いなの。そうですよね? 藤野さん」

「え? ……あ、あぁ! そうだな。ゆかりが心配することなんて何にもないぞ! ハハハ……」

「そっかぁ! 良かったぁ!」


 二人の言葉に、ゆかりの表情が明るくなり、それまで張り詰めていた空気も徐々に緩んでいった。

 だが、ミリアムは再び便利屋の方に向き直ると、ゆかりに見せていた穏やかな表情から一変しナジロ機関としての顔に切り替えて――周囲には聞こえない声で便利屋に告げた。


「話があります。場所を変えましょう」


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