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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 六章 演目【九月一日】 (前編)
49/78

1.6.11

 ◇   ◇   ◇

 A区画南 バス停前広場


 広場での喧噪が始まっておよそ五分。慎とエイジに襲いかかるグロースだったのだが――。

 その前に立ちはだかった男――桜井悠介の壁が想定以上に厚く、苦戦を強いられていた。

 この五分間、悠介は自分の後ろに慎とエイジを控えさせ、その両方を守りながら向かってくる敵全員を返り討ちにしているのだ。

 さっきまで子供にボコボコにされていたとは思えない程、木刀を抜いた悠介は圧倒的だった。


「悠介……お前本当に喧嘩強かったんだな……」

「え、今の今まで信じてもらえてなかったの?」


 正直、悠介に出会ってからここまでロクに良いところを見ていなかったエイジは、本当に用心棒が務まるのか疑い半分だったのだが……。


 ――なんだよ、頼もしいじゃねぇかコイツ!


 相変わらず眠たげな表情だが、それが逆に余裕の表れにも見え、エイジに期待を抱かせる。

 対してグロースの面々は、悠介から一旦退いて対策を講じていた。


「この男、想像以上に厄介だぞ。どうする?」

「チッ、仕方ない。増援を――」


 グロースの一人がそう言うと、懐から携帯を取り出した。

 そのやり取りは悠介の耳にも届いていた。彼としては、これ以上敵が増えるのは避けたかった。

 当然、連絡を阻止したいと思うが、携帯を持つ相手は位置的に遠くて手を出すことができない。

 最早為す術はないかと思われた。だが、次の瞬間――


「乱入キィィーーック!」


 その叫びと共に、キャップ帽の被った男が人混みの中から飛び出て、その勢いのまま携帯を持つ男にドロップキックをかました。


「ゲハァッ!」


 一体何事か? この場に居合わせた誰もがそう思い、皆の注目が帽子の男へと一気に集まった。


「フッ、キマッた……。キマッたぜ! 一瞬で場の空気を俺色に染めてやったぞ。やったー!」


 騒動の中心に立ってハイテンションに声を上げる乱入者――白渡誠一に、悠介は真顔で尋ねた。


「……お前何やってんの?」

「よぉ! なんか困ってそうだったから、親友のよしみで助けてやったぞ。っつーか、なによ。面白れぇ事に巻き込まれてんなお前。俺も混ぜてよ」

「いや、別に好きでこんな事やってる訳じゃないんだが」


 鉄火で別れてからたった二時間。二人はそれぞれ別々の状況に巻き込まれているわけだが、今は詳しい話をしている場合ではなかった。そして、更に誠一に続いて、一人の少女が現れる。


「いきなり飛び出したりして、何考えてるんですか!」


 誠一に向け大声を上げる少女――成瀬律の姿に反応したのは、悠介の後ろに立つ慎だった。


「え、成瀬さん? どうしてここに……。っていうか、その人は?」

「えっ……あ、いや違うの。これは……その……」


 律からこの少年を友人だと聞いている誠一は、彼女が妙にたどたどしい事が気になった。 


 ――あー、なるほどね。お友達には自分の事を隠していたいわけね。まぁ、当たり前か。


 どうやら律は、自分の事を深く詮索されたくないようだ。

 それを察した誠一は、助け舟を出すように、彼らの会話に割って入った。


「どうもどうも! 君、コイツの友達なんだろ? 実はコイツ、困った事に迷子になったらしくてさぁ。涙目で道訪ねられたから、仕方なく案内してたとこだったんだよ。な? そうだよな?」

「は?」


 良い感じにフォローしてやったぜ、と言わんばかりの目で律に視線を送る誠一。大嘘も甚だしいが、ここで否定して下手に追及されるのもマズイと考えた律は、苦笑いで話を合わせた。 


「そ、そうなの。この人とはさっきそこで会って、それで今助けてもらってて……」

「へ、へぇ……」


 慎には、彼女が迷子になったり、涙目になったりしている姿があまり想像出来なかったのだが、本人がそう言うのならと、とりあえず納得することにした。

 そんなやり取りの後、誠一が慎の持つアタッシュケースを指差して、彼に尋ねた。


「ところでちょいと聞きたいんだが。君の持ってるそのケース、どこで拾った?」

「あ、これですか? この近くのコインロッカーで見つけて……。変な星マークのロッカーがあったので、気になって開けたらこれがあったんです。それでケースを持ってたらあの人達に襲われて」

「……。なるほどな。変なロッカーの中にねぇ……。あーいや、悪い。サンキュー」


 慎の返答に対し、どこか得心のいった表情で誠一が答える。

 その後、それまで悠介の後ろに隠れていたエイジが突然彼の前に出てきた。


「お、おま、お前! な、何で⁉」

「ん? あれ? そういえばそっちの兄さんは誰? 俺どっかで会ったっけ?」

「会ったも何もッ! だぁークソ! 何から話しゃいいんだ⁉」


 エイジが思い出すのは半年前の廃倉庫での一件だ。二人はそこで直接会っているのだが、誠一は、あの場にいた大勢の一人を一々覚えている訳もなく、エイジの顔が記憶になかった。


「テメェら、いつまでくっちゃべってんだァ!」


 完全に状況を無視して話し込んでいる誠一たちに、グロースの一人が怒りの声を上げる。

 グロースは再び臨戦態勢に入っていた。なにせ、アタッシュケースとエイジだけでなく、計画を無茶苦茶にしている帽子の男まで現れたのだ。彼らには退く理由がない。

 しかし、当の本人はグロースを知らない為、全く心当たりがなかった。


「なんか俺めっちゃ睨まれてるな……。流石にドロップキックはやりすぎたか? ってか、あの人達やる気満々なんだけど」

「え、あんなにボコしたのにまだやんの? 俺は早く終わらせて楽になりたいだけなのに……。あーもうダメだ。なんだか急にめんどくなってきた……」

「おや、弱音か? 情けない奴だねぇ。ったく、仕方ねぇから助太刀しやるよ。面白そうだしな! つーかこういう状況で一度言ってみたかった台詞があってよ! ほら、『背中は俺に任せとけ!』みたいなの漫画でよくあるじゃん。アレやらせてよアレ」

「いや、背中だけと言わず、前と横も任せるわ」

「お前、それ何もする気ねぇだろ」

「だから無視してんじゃねえ!」


 相変わらずの態度に今にも襲ってきそうなグロースだったが、悠介は木刀を構えて前に出る。  


「あー、ピーピーうるせぇなコノヤロー。もういいや。面倒だからその辺の奴らまとめて――」


 きっとまた襲ってくる敵を全てなぎ倒して、勇猛果敢に守ってくれるに違いない。

 少なくともエイジはそう思っていたのが、悠介がそこまで口にしたまさにその時――事は起きた。

 突然、悠介に向かって竹箒が一直線で飛来し、真横から彼を吹き飛ばしたのだ。


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