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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.1 六章 演目【九月一日】 (前編)
47/79

1.6.9

 ◇   ◇   ◇

 十四時半 A区画南 バス停前広場


 A区画南のバス停前広場は、複数ある路線の乗り場にもなっている為、利用客は常に一定数いる。今も人の行き交いは決して少なくないのだが……。

 通行人の目をまるで気にもせず、とある集団がトラブルを起こしていた。


「ちょっと何ですかいきなり!」

「騒ぐな。いいからそのケースをこっちに寄越せ」

「それは僕の一存では決められないので……。これから会う人と相談してもらっても……」

「あーもう。ごちゃごちゃうるせぇな。このガキッ!」


 十数人からなる大人たちが、アタッシュケースを持つ少年に絡んでいた。街の不良と言うには雰囲気がそれらしくなかったが、口調や態度といい、真っ当な大人には見えない。

 対して、少年――如月慎はあくまで冷静だった。

 いきなり絡まれて今の状況に陥っているわけだが、表面上だけでも冷静でいられる分には頭が回っている。とは言え、冷静なだけで解決できるわけでもない為、困っていた。


「いや待て、コイツがケース持ってる理由も問い詰める必要もあるぞ」

「それもそうだな。あの裏切者とグルかもしれない。もういっそ攫っちまうか?」


 多くの人の目がある中で、そんな会話をする男たちに、慎は身の危険を予感する。



 この騒ぎに通行人たちは足を止めており、周辺には人だかりが出来始めていた。

 それは丁度近くを歩いていた悠介とエイジも同じだった。


「何だ? 何の騒ぎだこれ?」


 二人は遠目に現場を確認する。そこにいた制服姿の少年に、悠介は見覚えがあった。


「ん? あれは確か喜代のとこの……」

「知ってる子?」

「……えっと、まぁ一応。俺の知り合いの子分みたいな奴……だった筈」


 どうやら悠介の知人らしいが、何やら妙な集団に絡まれているようだった。

 周囲の見物客は誰もかれもスマホで動画を撮影していたり、ただ見ているだけだったりと、助ける素振りがない。もしかしたら、誰かが既に警察に連絡しているかもしれないが、今この瞬間自分から助けにいこうとする者は誰も現れなかった。


「……。なぁ、エイジ」


 悠介が突然エイジの名を呼ぶ。エイジもエイジで、彼の言いたい事は分かっていた。


「良いよ。俺も見てるだけは気分良くないし」

「あんがと」


 そうして彼らは、少年を救う為にこの騒動へと割って入った。



「あのー、どうかしました?」


 横から突然声がかかり、慎と集団らが顔を向ける。見ると、そこには青い半纏の男が立っていた。


「あ? 何だお前?」

「悠介さん!」

「うっす。えっと、確か喜代の知り合いの……慎だっけ?」


 慎と悠介は、喜代の繋がりで知り合った間柄だ。

 このタイミングで現れた悠介は、今の慎にとっては心強い存在に見えた。


「何だお前。妙な格好しやがって……。関係ねぇ奴はすっこんでろッ!」

「まぁまぁ落ち着こうよ。頭に血が上ると禿げやすいって聞くし、そんな良い事ないっすよ。……そうだ。きっとカルシウム足りてないんすよ。皆で牛乳でも飲んでさ。面倒な事はチャラにしよ」

「あ? んだテメェ。喧嘩売ってんのか!」


 状況が好転するどころか、悠介の登場で更に悪化していた。

 火に油を注ぐように、相手側の怒りがより一層高まる。


「……なんか向こう側めっちゃキレてるけど、慎は何やっちゃたの?」

「いや、半分は明らかにお前のせいだろ」


 悠介の後ろからエイジがツッコミ入れる中、慎が軽く状況を説明する。


「実は、さっきこのアタッシュケースを拾って。丁度、光秋さん達も同じ探し物をしてるとの事だったので、これから届けようと思ってたんです。そしたらこの人達に急に絡まれて……」

「ん? アタッシュケース?」


 その単語に真っ先に反応を示したのはエイジだった。


「……‼ 何で⁉ 何でそれがここにある⁉」


 見間違える筈もない。それは確かに、昨日エイジ本人が運んだアタッシュケースであった。

 何故それがここにあるのか?  浮かんでくる疑問は尽きないが、今はそれどころではない。


 ――なんだか良く分からないが……これはとんでもない幸運だぞ!

 ――ここでケースを手に入れることが出来さえすれば、俺は助か……


 だが、彼は分かっていた筈だった。いや、この瞬間だけは頭から抜けていたかもしれない。

 事はそう上手く運ばないということを。


「おい、アイツもしかして九十九様の言ってた裏切り者じゃ」

「……へ?」


 聞こえてきた人物名にエイジの額に冷や汗が流れた。

 アタッシュケース。それを狙う集団。そしてこの状況。全てがエイジの中で繋がっていく。


「……ゆ、悠介。マズイ」

「え、何が?」

「コイツらだ。コイツらが……俺を狙ってる連中だ」


 集団――グロースが狙うアタッシュケースと裏切者が同時に目の前に存在している。この状況下で彼らが手段を選ぶ筈がない。そんなエイジの予感は的中していて――。


「お前ら……やるぞ」


 リーダーの一言でグロース全員が臨戦態勢に入る。

 最早彼らを止められる者はおらず、これからまさに乱闘が始まろうとしていた。

 そして――


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